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小笠原の専門診療期間

2017年08月29日 10:30

 僻地や離島ではどこもそうだと思いますが、都市部より設備も人員も予算も不足しています。そのため、1人でいろいろなことをしなければなりません。父島には医師は3人しかいませんが、その3人で島内のありとあらゆる患者を診ないといけません。やってくる患者さんもいろいろです。もちろん薬剤師も、特定分野にだけ強いのではなく、あらゆる分野に通じている必要があります。とはいえ、何事もあらゆる分野に精通することは難しいです。診療所には薬剤師は私1人。正直わからない、知らないことも多く、困ることも多々あります。私が院外薬局さんや卸さんとの関係を重視しているのは、単に院外処方や在庫管理だけではなく、「わからないことを相談できる」からでもあります。私が小笠原で1人薬剤師をやってこれているのは、院外薬局さんや卸さんの助けがあってこそ、と言っても過言ではないのです。

目次

  1. 年に数回行われる小笠原の専門診療
  2. 専門診療期間は外来を回すだけで1日が終わることも

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ついにグリーンアノールを激写!なぜか診療所裏の通路の手すりの上に居た。職住や通勤中にもたまに見かけるが、すばしっこくて中々近寄れない。樹上にいることが多いようで、色も緑だったりこの通り茶色だったりと、周囲に合わせて変化させることができるよう。グリーンアノールは見ての通りトカゲの一種で、全長は大きいもので20cm以上にもなり、小笠原諸島固有種を食い荒らす外来生物(北米原産)。駆除が進められているそうだが、あまりにも個体数が多く、難しい模様。

年に数回行われる小笠原の専門診療

 さて、診療所は3人の医師があらゆる患者を診察しますが、やはり患者側からすると、より的確な診療を受けたいのであれば、設備の整った病院で専門医に診てもらうのが一番なのは当たり前です。その場合は紹介状を持って上京し、内地の病院で診察を受けるパターンが一般的です。ところが1回の上京では少なくとも10日程度島を留守にする必要があるので、誰しも都合よく上京できるわけではありません。そこで小笠原では年に数回、専門診療と言って各科の専門医が都内から診療にやってくるイベントがあります。専門診療は産婦人科が年に6回、耳鼻科と眼科と精神科、小児科が年に2回、皮膚科や整形外科が年に1回程度となっています。

 専門診療期間中は、一般の外来と同時進行で専門診療が行われ、さらに午後からも専門診療のみ外来がある場合が多いです。また、日程の都合によっては、休日でも診療が行われます。専門診療の外来は、父島でだいたい3ないしは4日程度、母島で1日ないしは2日程度(科や専門医の都合にもよりますが)、専門医は小笠原までおがさわら丸でやってきて、母島と父島とで診療を行い、船のスケジュールにもよりますが、2航海で都内へ戻るパターンが多いです。時期は産婦人科が偶数月、耳鼻科と眼科が春と秋、整形外科が1月、小児科が6月と12月頃ですが、前後する場合もあるし時期が一定しない科もあります。おがさわら丸の半年分の航海スケジュールが発表されてから、これら専門診療の予定が順次決まっていきます。日程が決まれば村民だよりという広報誌に掲載される他、診療開始日と最終日は、防災無線で村中に呼びかけられます。

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海に夕日が沈んでいく。展望できる周囲のうち西側の180度がまるごと海という、驚愕のスポットが父島にある。三日月山にある、ウェザーステーション近くの展望台がそうで、二見港から道路を徒歩30分弱、車でも行ける。町から近くしかも景色がいいので、おがさわら丸入港中の夕日の時刻は大混雑。夕方は道路を観光客や島民が展望台目指してぞろぞろと歩いているし、車で行けば、小さな駐車場は空いているわけもなく、ひどい場合は展望台から100mほども下に路上駐車して、展望台まで歩くはめになる。

専門診療期間は外来を回すだけで1日が終わることも

 診療にやってくる医師は、産婦人科や精神科のような例外を除き、基本的には同じ医師が来ることはありません。また、耳鼻科や眼科、皮膚科や整形外科は予約なしの一般外来がありますが、精神科や産婦人科などは、予約のみとなります。予約なしの一般外来がある科、特に耳鼻科と眼科の初日や土日に診療のある日は、非常に混雑します。午後の外来受付は、通常なら午後3時半に終了なのですが、午後7時を過ぎてもまだ診療中ということもありました。また、患者さんの中には、一般外来と専門診療の両方にかかる人もいます。

 薬剤師業務自体は、一般外来と同時進行になるというだけで、専門診療も一般外来と同じです。薬剤師は処方箋が回ってきたら調剤をして薬剤を交付する、という流れになります。ただし、ふだん診療所では午後の診療は水曜しかないのですが、専門診療の期間中は、実質毎日午後の外来があるのと同じです。期間中は忙しくなるし、特に混雑する耳鼻科や眼科の場合だと、外来を回すだけで1日が終わってしまうこともあります。院外処方箋も、一般外来と同じように都内の薬局さんへFAXします。特に皮膚科など、当診療所で採用していない薬が処方されることが多いので、院外処方箋はふだんより増える傾向があります。

 専門医が滞在するのは1週間程度、よってアフターフォローの問題があります。これについては、専門医から診療所の医師に申し送りという形で情報が伝えられ、専門医からの指示なども含めカルテに記載されるので、それに従って診療所の医師がフォローしていく、といった感じです。小笠原にも当然ネットや電話はあるので、薬剤師と同様に、医師も内地病院の専門医に相談するケースもあります。

 小笠原村における専門診療とは、だいたいこういった感じですが、薬剤師が絡むのは調剤と監査、薬剤交付などといった「見える部分」だけではありません。専門診療において、もっとも困難なのが「在庫管理」です。次回は専門診療時の在庫管理について説明したいと思います。

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最近まで、家でいろいろ植物を植えていた。その中の1つがパイナップル。数年前、母島土産でもらったパイナップルの、上の葉っぱの部分だけを面白半分で植木鉢に植えてみた。適当に水と肥料をやって、あとはほとんど放置。すると2年ほど経過したあたりから急に成長が早くなり、この状態に。まさか実がなるとは思わなかった。その後台風に倒されたりもしたが、撮影後2カ月ほどで黄色くなって収穫し、おいしくいただいた。さすがに上の葉っぱは植えなかった。

【コラムコンセプト】
僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

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