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地域包括ケア時代に求められる2つの機能とは?

第10回日本在宅薬学会学術大会

東京大学大学院医学系研究科地域医薬システム学講座教授
今井博久氏

2017年09月06日 10:45

超高齢社会における人口構造の変化は医療をどう変えるか?

 講演の冒頭、今井氏は日本の人口構造に触れた。65歳以上人口の比率は増え続け、2050年には総人口の36%になる。それを54%の生産年齢人口で支えるという異常事態は、薬剤師の仕事にも影響せざるを得ないと強調した。

 当然、医療のあり方にも根本的な変革が迫られている。例えば、高齢化とともに患者のもつ病気や障害の数は増え続ける。Lancet掲載の論文では60歳代半ばでは2つ以上、70歳代半ばで3つ以上の病気や障害を抱える人が半数超を占めるという。病気が増えれば使われる薬は増え、時にポリファーマシーを生じ、手術や入院件数も増加する。高齢化は、必然的に医療費増大を招くのだ。 

 この変化を背景に厚労省が打ち出したのが、『健康サポート薬局』『地域包括ケアシステム』である。今井氏は、地域包括ケア時代の薬剤師の役割を「地域のチーム医療において薬物治療のマネジメントを行う」と要約している。

zaitaku_imaishi.jpg今井博久氏

ポリファーマシー対応など"処方の再設計"が第1の機能

 薬物治療のマネジメントとは具体的にはどんなことか。例えば、先ほどのポリファーマシーについて同氏は「現実問題として医師は改善できない」と明言。薬の副作用や薬物治療の引き算について教育を受けている薬剤師が担うべきだとする。医師は、個々の疾患ごとに治療目標(糖尿病におけるHbA1c、高血圧での血圧値等)を設定するため、複数疾患を合併する例への対応が苦手である。そもそも世界のどの国でも医学教育は疾患別になっており、さまざまな異常のある高齢者をどうすれば元気に幸せにできるか、医師は誰からも教わっていないのだ。

 では、看護師はどうか。ある急性期病院での処方変更を分析したところ、看護師では自他覚症状に基づく「薬剤追加」が多かった。一方、薬剤師による処方変更は「薬剤中止」が目立ち、副作用回避を念頭に薬を減らせるのは薬剤師しかいないことが明らかになった。このような"処方の再設計"こそ、超高齢社会における薬の専門職としての薬剤師に求められる機能なのである。

第2の機能は患者情報の共有に基づく"多職種連携"

 地域包括ケアという言葉から、患者は「医療や介護を受けつつ自宅で暮らし穏やかに亡くなる」こと、医療従事者は"地域での多職種連携"をイメージすべきだという。地域包括ケアの時代、薬剤師の第2の機能は多職種連携である。

 そこでは、地域における医師と薬剤師の新しい関係が必要だ(図)。例えば血圧が高い、血糖値が高いといったシンプルな問題は医師だけで対応できる。しかし、患者さんが認知症でフレイルもあり、1人暮らしで生活保護を受けているといった場合、かかりつけ薬剤師が介入すべきである。社会的、経済的問題が絡み合った混沌とした状況に、果敢に飛び込むことが求められるのだ。

 このとき医師と薬剤師は患者にとって最適な薬物治療を目指すが、それを可能にするのは患者情報の共有である。医師が聴取した病歴や症状、検査結果、治療計画などの情報がなければ、薬剤師は本来の業務が行えない。患者情報があれば、腎機能が低下したり、症状が変化した場合の処方の再設計も容易になる。地域包括ケア時代の薬剤師の2つの機能は表裏一体の関係にあるのだ。

図.地域医療構造からの「医師と薬剤師」

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在宅医療実態調査;3分の2は多職種連携ができていない!

 最後に今井氏は、日本薬剤師会と日本在宅薬学会の協力を得て実施した在宅医療実態調査の結果を報告した。まず、認知症の在宅医療に関しては、抗認知症薬処方患者628例の21%に副作用が出現していた。内訳は、興奮・不眠が最も多く、消化器症状、幻覚・妄想が目立った。そうした副作用に対する薬剤師の処方提案は「中止」が45%と最多で、「用量変更」40%がこれに続いた。抗認知症薬が正しく処方されていない例について理由を尋ねたところ、「漫然投与」が67%を占めていた。

 多職種連携をめぐる質問では、なんと3分の2が「多職種連携ができていない」と回答した。主治医との連携については「できていない」は4分の1にとどまったが、訪問看護師との連携は半分が「できていない」、病院薬剤師とは90%以上が「情報交換してない」というお粗末な現状が明らかになった。

 調査結果は在宅医療の状況を明らかにした価値あるデータで、文献化が進められている。今井氏は、今後の変革にどう活かすかが課題だと述べている。

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