カナダと日本での経験から薬剤師業務を考えてみた by青山慎平

カナダの薬剤師に与えられた特別な権限

それを行使するための知識と理解を持ち合わせていますか?

  • 2017年09月29日公開
  • (2017年09月29日更新)

 こんにちは。カナダの薬剤師事情を紹介している青山です。

 9月下旬になり日本も少しは涼しくなってきたでしょうか?カナダも夏の終わりが近づき、夜はかなり寒くなってきました。

 カナダは10の州と3つの准州で構成されており、州ごとに法律が違います。そして同時に、薬剤師のできることも異なります。今回は、カナダの薬剤師に与えられた特別な権限について紹介します。

aoyama_5_1.jpg東海岸にあるケベック州にあるローレンシャン高原。
深いメープルの森に、きらめくような湖が非常に美しい。
秋には多くの日本人観光客が訪れる。

 こちらの図を見てください。州ごとに薬剤師のできることをまとめた図です。

図.カナダの州ごとの薬剤師の権限一覧表

PracticeinCanada.jpg

(出典: Canadian Pharmacist Association

 私の滞在するBC州の薬剤師には、処方権はまだありませんが、処方権がすでに認められている州もあります。まず今回は、BC州で認められている(1)エマージェンシーリフィル(図中には含まれない)と(2)アダプテーション(図中のAdapt/Manage)―の2点について話していこうと思います。

エマージェンシーリフィル(Emergency Prescription Refills)

 緊急時に限り、薬剤師が処方箋薬を処方箋なしで、患者に提供することができます。主に、「現在服用中の薬剤の治療継続をする目的」でこの権限を使います。

 例えば、明日から服用する糖尿病の薬がなく、かつ、すぐに医師に受診できない場合に、一時的に薬剤師が次に受診できるまでの最低限量の処方箋薬を患者に提供できるということです。緊急時のみとはいえ、処方箋薬を処方箋なしで提供できることは重要な権限なので、実施する前に薬剤師は以下のことを確認することになっています。

  • 状況の把握 (薬の不足が起こった背景、何がどれだけ不足しているか)
  • 不足した薬とその適応病名の理解
  • 患者の服用歴

 これらの情報を吟味した上で、エマージェンシーリフィルをするべきかを判断します。

アダプテーション(Adaptation)

 医師の許可なく、薬剤師が処方箋内容の書き変えができます。Adaptationは動詞のAdaptから来ており、「適応させる、順応させる」という意味です。つまり、医師の処方箋を患者に最適な形に順応させることができるのが、このアダプテーションです。アダプテーションは、全部で3種類あります。

1)変更:用量の変更、剤形の変更、レジメンの変更など (麻薬・向精神薬を除く)

 患者の年齢や体重、腎臓や肝臓の機能によって用量を変更することができます。同様に、患者のアドヒアランスに応じた適切な剤形への変更も可能です。また、処方箋の一部の情報が抜けている場合(剤形が書いていないなど)、薬剤師がその情報を補填し、調剤することができます。

2) 更新:治療継続のための処方延長

 現在服用中の薬剤の治療を継続するために、処方箋に記載してある薬剤を再度、調剤することができます。

3)代替:同じ治療群からの処方薬の変更

 同じ系統の薬で同じ効果を示す薬剤であれば、切り替えることが可能です。例えば、ランソプラゾールからラベプラゾールへの変更です。ただし、変更できるのはH2ブロッカー、PPI、ACE阻害薬など変えられる系統が決まっています。

 このように薬剤師には、処方箋内容を比較的自由に変更できる権限があります。権限があると良いなと思うかもしれませんが、それだけ責任を伴います。

 アダプテーションを実施するためには、考慮すべき幾つかの重要項目があります。その中でも一番重要な項目が、下記の2点です。

あなたは薬剤師として、患者の状態と処方された薬剤についての適切な知識と理解を持ち合わせていますか?

処方箋を変更した理由を正当化できますか?

 これらにYESと答えられない限り、アダプテーションはしてはいけないのです。では、これらを踏まえて以下の例を考えてみましょう。

処方: メトホルミン 50mg 2T/2x1 30日分

これまでの薬歴: メトホルミン500mg 2T/2x1

処方箋を持ってきた時間が遅く、医師と連絡が取れない。患者の薬歴で、2年間安定した状態が続いていることを確認。今日は医師と特別な話はなく、同じ薬を出すと言われたと患者から聞き取った。

 この場合、薬剤師がアダプテーションをし、これまでと同じメトホルミンの規格に変更することが可能です。理由は、(1)メトホルミン50mgという規格が存在せず、薬学的に不適切な用量である (2)患者の状態が2年以上安定しており、「今回も同じ薬を出すと医師に言われた」―の2つを根拠とし、患者情報に記録し、医師に事後報告します。

 日本で同じ状況になった場合、医師と連絡がつかず、非常に大変な思いをしますよね。カナダでは患者の利益を追求した結果、薬剤師が色々な権限を持ち実行することが可能になりました。

 今回は、カナダの薬剤師の持つ権限についてお話しました。次回は本題に戻り、充実した服薬説明についてお話していこうと思います。

aoyama_5_2.jpg世界3大瀑布の一つ、ナイアガラの滝。そのスケールに圧倒されます。

【コラムコンセプト】

薬剤師を取り巻く環境は日本と海外で違う。しかし、やっていることは本質的には同じ。患者のために薬を調剤し、鑑査し、投薬 (服薬指導) する。そして、その薬物療法を評価し、医師や他の医療従事者とより良い治療方法を再考していくこと。カナダの薬剤師事情を紹介しながら、日本での業務に取り入れられる方法を考えるコラム。

【プロフィール】プロフィール写真.jpg

1986年生まれ。名城大学薬学部卒。日本の病院薬剤師、調剤薬局、ドラッグストアで勤務した後、カナダへ留学。スプラットショーカレッジの薬剤師アシスタントプログラムを介し、Loblow pharmacyでインターン研修。2015年ブリティッシュコロンビア大学(UBC) CP3コース終了後、2016年カナダ薬剤師免許の取得。

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Twitter:@shinshinskysky <

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