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第2回 離島の人が困る?

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2017年10月02日 08:00

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「医薬品のインターネット販売ができなくなると、離島の人が困るんです!」

 寝耳に水の問題提起でした。

 平成28(2017)年現在も、要指導医薬品の指定の取り消しやインターネットでの医薬品販売を求める趣旨で裁判が争われているようですが、話は平成21(2009)年6月の改正薬事法にさかのぼります。当時、医薬品のインターネット販売を含む「郵便等販売」の原則禁止を受けて、インターネットで医薬品を販売する企業の皆さんが猛反発。「離島の人が困る」というキャンペーンを張りました。

 でも、本当のところ、どうだったのでしょう。このころ、確かにネット通販大手のサイトには、離島の住民を名乗る方たちの書き込みが大量にありました。けれど、あれってわかりませんよね。全てが匿名ですし。本当に困るのかなんて、誰も調査していないわけですから。

じゃあ、調査してみよう!

 多くの離島を抱える長崎県薬剤師会は、離島のさまざまな問題に取り組むことを目的とした「離島対策委員会」を組織しています。私は、たまたま離島で薬局を経営していることから、その委員会に配属されていました。離島対策委員会なる組織は全国でも珍しいようで、「医薬品のインターネット販売ができなくなったら離島の人は本当に困るのか?」との問い合わせが全国から寄せられました。

 離島といってもさまざまです。私が住む福江島には保険薬局が20店舗ほどあり、島外から進出した大きなドラッグストアも5店舗あります。ですから、こんな島で医薬品のインターネット販売がなくなっても、別に困らないんじゃないか?というのが率直な感想でした。

 では、二次離島はどうでしょうか。たまたま私の職場に来られた二次離島の住民の方数人にお伺いすると、島には金融機関は無いしクレジットカードも持っていないので支払う方法がない。それに、宅配業者が直接配送していない島も多く、代金引換も使えないから「インターネットで薬を買う人なんかいないんじゃないかな〜」という話でした。

 でも、調べてみないことには真実は分かりません。そこで、東京大学の澤田康文教授からのご提案もあり、私たちが実際に調査してみることになりました。

goto10_fukuesunrise.jpg福江島 朝焼けの空

始まりはアンケート形式での調査

 五島市の協力の下、当時の五島市の16歳以上人口の約1割に当たる3,819人をランダムに抽出して、アンケート形式での調査を実施しました。アンケート用紙は「インターネットを使う方用」と「インターネットを使わない方用」の2冊を同封、自分で選択して記入し、返送していただくという方法です。

 その結果、回答用紙は1,269件回収できたのですが、2冊のアンケート用紙どちらにも記入があるなど、無効回答が35%にも及びました。アンケート用紙を自分で選択し、数ページにも及ぶ大量の設問に記入し、さらに返信するという複雑な作業が、高齢者には困難であったのだろうと考えました。私たちは、この反省を生かして、後に「二次離島訪問調査」を実施することになります。このことについてはまた今度。

島の人たちはインターネットをしない?

 調査の結果、インターネットの使用率は一次離島住民で42.7%、二次離島住民で14.7%でした。平成21(2009)年当時の総務省「通信利用動向調査」によると、インターネット使用率は全国平均78%でしたので、インターネットを使用する人はかなり少ないと言えます。

 その理由として、離島なのでインターネットの回線が引かれていないからと考える方がおられるかもしれませんが、二次離島には当時から国の補助事業によって光回線が引かれていたのです。つまり、離島住民はインターネットの接続環境下にあるにもかかわらず、インターネットをあまり利用していないのです。

ネットショッピングはするのに薬は買わない

 でも、少ないながらもインターネットを利用する人はいます。この人たちはネットショッピングをしないのでしょうか。結果を見ると、インターネットを使用する一次離島住民の78.0%、二次離島住民の65.4%がインターネットで商品を購入した経験があると回答しました。結構います。

 では、医薬品についてはどうでしょう。インターネットを利用して医薬品を購入した経験のある人は、インターネットを使用する一次離島住民の6.1%で、二次離島住民の3.8%でした。ちょっと乱暴な計算になりますが、五島市の二次離島にはインターネットで医薬品を購入する人が、全体で5人程度存在するという数値になります。

 つまり「離島住民はあまりインターネットを使用しないが、インターネットを使用する多くの人はネットショッピングをしている。でも、医薬品を購入する人は少ない」ということになります。離島住民は、なぜインターネットで医薬品を購入しないのでしょう。

「離島住民にとって」は"都市伝説"?

 その理由の多くが「必要性を感じない」というものでした。医薬品の必要性を感じても、皆さんインターネットで買おうとは考えないようなのです。

 インターネットで購入しない理由は、「離島なので余計にコストがかかりそう」が最も多く、次いで「離島なので時間がかかりそう」「そもそも薬はインターネットで購入するものではないと考えている」というものでした。また、「健康にかかわることなので」「薬剤師や医師の説明を受けて購入したいから」など、医薬品をインターネットで購入することに対する不安も大きな要因として挙げられるようでした。

 私たちの調査結果から、離島住民も、高齢者も、そして身体が不自由な方たちも医薬品のネット販売をほとんど利用しておらず、必要と感じていないことが分かりました。そして、必要と感じる多くの方の理由としては、自分は利用しないけれども「身体の不自由な方たちのことを考えると必要と感じることがある」というものでした。

 つまり、メディアが一斉に書き立てた「医薬品のインターネット販売解禁は身体が不自由な障害者や高齢者、そして薬局がない離島の住民にとって喜ばしい結果である」というのは、ただの"都市伝説"に過ぎなかったのかもしれません。

 さて次回は、いよいよ島に渡ります。

Hirayama T, et al. Yakugaku Zasshi 2011;131:783-799.(PDF

Hirayama T, et al. Jpn J Drug Inform 2013;15:57-63.(PDF

五島曳船詩・福江島 高浜編

初めて高浜に行くときには、トンネルを通らずに魚籃観音(ぎょらんかんのん)の坂を下りた方がいいらしい。

 言わずと知れた福江島の高浜海水浴場。なにやら日本の渚百選とやらになっていたり、某全国紙において、プロのツーリストの選ぶ日本一のビーチに選ばれたこともあるらしいが、そんなことはどうでもいい。五島人にとって、それはとっておきの自慢のビーチである。

goto10_takahamabeach.jpg高浜海水浴場

 しかし、その隣にある屯泊(とんとまり)ビーチも捨てがたい。ここの遠浅がまたすごい。何がすごいって、真っ白な砂浜が広すぎて、なかなか泳げるところまでたどり着けないほどである。

goto10_tontomari.jpg屯泊海水浴場

 でも、地元の人しか知らない美しいビーチは、他にもまだまだたくさんあるはず。それは、五島に来てみないと分からない。実際に五島に来て、自分自身の目と肌と感性で感じてほしい。そしてこれだけは忘れないでほしい。

「初めて高浜に行くときには、トンネルを通らずに魚籃観音の坂を下りた方がいいらしい」

goto10_takahamasunset.jpg高浜夕景

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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