Ph.リトーひとり薬剤部from小笠原

専門診療時の在庫管理

  • 2017年10月04日公開
  • (2017年10月04日更新)

 小笠原諸島は、おがさわら丸が週に1回、生活物資を運んできます。不便なのかと思いきや、意外と通販を利用すれば、ほしい物はほぼ買えます。島民がよく使うのは西友とヨドバシカメラの通販です。これらの利用率が高いのは、まず西友は生鮮品以外ならほぼ食品日用品はそろうこと、ヨドバシは品揃え豊富で送料が無料であること、あと共通するのが早く送ってくれることや、原則ゆうパックで出荷されること、などがあると思います。ゆうパックだと入港当日夕方、ヤマト便だと夜に受け取れて、それ以外の運送会社のものは翌日になる、ということは、以前話したと思います(取扱個数が増えたのか、最近は西友も翌日受け取り)。それ以外の運送会社は中継料がかかるため、送料は2,000円以上する場合もあり、一般的な通販サイト(アマゾンなど)では、運送会社にも注意が必要になります。

目次

  1. 専門診療時は在庫管理の難易度が一気に上昇
  2. 在庫管理では、何度となく痛い目に・・・

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小笠原でも、通販を駆使すればこのようなものまで買えてしまう。これは粟島焼酎。新潟県に粟島という離島があり、そこで作っているジャガイモ焼酎で、希少なものだそう。2カ月ほど前、一部の酒好きスタッフ間で時折回覧される「新潟の酒通販カタログ」に載っていて、気になったので注文してみれば、これがまたおいしい。するとその後つられて購入する者が続出、一部のスタッフ間で粟島焼酎が静かなブームになっている。もっとも、ブーム仕掛け人の私とて、粟島は車窓から見たことしかない。もしかすると、小笠原のラム酒(通販やってます!)も、このようにどこかの僻地で密かなブームになっていたり・・・しないか。ちなみに小笠原諸島でも金額次第では送料無料が適用になるので、カタログを回して複数名で一度に注文する場合も多い。

専門診療時は在庫管理の難易度が一気に上昇

 このように通販を駆使すればほぼなんでも買えますが、「買った翌日に手元に届く」というわけにはいきません。つまり、おがさわら丸の東京出港4日前までに通販を済ませるなど、計画的に買わないといけないわけです。何か食品や日用品が足りなくなったら、島内のスーパーで調達しますが(離島なのでいくぶん割高ですが)、職場の医薬品ともなるとそうもいきません。特に専門診療時は、在庫管理の難易度は一気に上昇します。

 年に1回か2回の専門診療ですが、眼科や耳鼻科、皮膚科などは毎回医師が異なります。要するに「処方傾向は毎回変わる」わけです。前回はこれくらい薬が出たから、今回は同数用意しておけば安心、とはいきません。前回ほとんど処方されなかった薬が、今回は長期処方が続出して足りなくなった、というパターンもあるし、逆にせっかく多数の在庫を用意していたのに、専門医がほとんど薬を処方しない医師だったので、一気に多数の在庫を抱えてしまった、といったパターンもあります。

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掃海艇ちちじま。艦名はもちろん父島から取られたもの。そのせいかどうなのか、ちちじまは割とよく二見港へやってくる。今回撮影時は単艦で来ていたようだが、掃海艦隊が来たときは、掃海艇が8隻くらいと母艦が来るので壮観な眺めとなる。また、海上保安庁の巡視船も、時折父島までやってくることがある。これらの艦は島民に内部を見学をさせてくれることもあるのだが、公開時間が平日の場合が多く、なかなか見に行けない。また、おがさわら丸出港中を中心に、自衛隊が時折二見湾内でホバークラフトや飛行艇の訓練を行っている。こういった訓練が行われる場合は、海水浴などのときは注意するよう、防災無線で注意が呼びかけられる。

在庫管理では、何度となく痛い目に・・・

 専門診療の担当者として、看護師さんが1人診察介助などにつきますが、この看護師さんから、専門診療の1カ月ほど前くらいに、前回の処方数や「用意しておいてほしい医薬品とその目安」という一覧が回ってきます。最初のうちは私もよくわからなかったので、その通りに発注していたのですが、やはりうまくいかないのです。例えばナゾネックス点鼻薬などは、前任から引き継いだ普段の在庫目安数は5本入り4箱(20本)で、専門診療担当者から回ってきた目安数も40本ほどでした。ふたを開けてみれば、1人の患者に4本といった感じで多数処方されるケースが続出、もちろん足りなくなってしまいました。そうなると1本だけ患者さんに渡して、後日入荷後に取りに来てもらう形式をとるしかありません。本来こちらが持っていくべきものであるし、こういう事態はなるべく避けたいものです。ちなみに次回の耳鼻科専門診療では、この経験を踏まえナゾネックスを70本も用意したのに、ほとんど処方されませんでした。

 また、耳鼻科のみならず皮膚科でも在庫が読みにくいです。例えばロコイド軟膏。当時は5gチューブを採用していて、50gなんて処方が出れば、たちまち10本入り箱が1つ消えました。挙句何か他の軟膏と混合となれば、ロコイドだけで10本ものチューブを絞らないといけません。在庫を置けるスペースは限られるので、こんなことではとても専門診療の在庫は賄えません。その後、「規格そろえる」という建前で、10gチューブ製品がないものを除き、全ての軟膏を10gに揃え、最近はこれまでに混合指示の出たことのある軟膏は、500gのツボ入りのものまで揃えました。ツボ入りのものは、言わば「皮膚科専門診で私が楽をするため」だけに発注したのですが、専門診療を受診した患者さんは、その後のフォローは一般外来で行うので、継続して同じ薬が出ることも多く、これらは現在も在庫を置き続けています。

 最初のうちは在庫管理ミスも多かったのですが、さすがに何度も経験すれば、専門診療で最も処方されたときの処方量や、日々の処方数カウントを参考にして、「このくらいなら在庫を持っていても期限切れ廃棄はない」という量が見えてきます。こうして2年前くらいから、普段の在庫目安数に専門診療分を含めるようにしました。現在は担当者から回ってくるリストの目安数は、常時用意できていることがほとんどです。「明日専門診療が始まっても大丈夫」と自信を持って言えるほどの在庫を常に持っておれば、突然大量に処方が出ても困りませんし、台風でおがさわら丸が欠航になったり、母島へ緊急に在庫を融通する場合も安心です。おかげでここ1年半、在庫管理システムなどはないにも関わらず、欠品はほぼゼロ。ここまでたどり着くのには何度となく痛い目に遭い、スタッフや患者さんにも多大な迷惑をかけましたが、十分にその価値はあった、と思っています。

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父島には野ヤギがいる。時にはこのように道路の近くにまで出現する。野ヤギはもともと食用などに人間が持ち込んだものだが、野生化して固有種を食い荒らすため、駆除が進められている。聟島は駆除に成功したようだが、父島はまだまだ。防災無線で「〇〇周辺で銃器による野ヤギの駆除を行います」といった注意喚起の放送が入る。銃器を使った駆除は、観光客の少ない「おがさわら丸出港中」に行われる。頻繁に入るこの放送を聞く限り、素人には「駆除に一体いつまでかかっているのか」と思うところであるが、島のうっそうと茂る原生林の中では、ヤギと巡り合うのは簡単なことではないのだろう。

【コラムコンセプト】
僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

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