ニンジャ薬剤師が伝授するEBM実践のコツ

他に選択肢はあるか

  • 2017年10月10日公開
  • (2017年10月10日更新)

こんにちは、皆様いかがお過ごしでしょうか。

私が住んでいる宮城県では、ほぼ夏らしい夏がやってこないまま、秋に向かおうとしています。やや気が早いかもしれませんが、東北では秋が来たと思ったらあっという間に長い冬がやってきます。薬剤師にとって、冬と言われて真っ先に思い浮かぶものはやはりアレではないでしょうか。

そう、「インフルエンザ」です。

今回は、抗インフルエンザ薬について問い合わせがあったケースについてご紹介したいと思います。ぜひ最後までお付き合いください。

インフルエンザの流行がピークを迎えた1月のある日、近隣の小児科内科の医師から薬局へ問い合わせの電話がありました。私が電話を取ると、医師はおもむろに、「A型インフルエンザの妊婦さんには、イナビル®(ラニナミビル)と麻黄湯のどちらが良いのでしょうか」と尋ねました。

正直なところ、この質問に私は少し困ってしまいました。 実をいうと、妊婦への抗インフルエンザ薬に対する問い合わせがあるのではないかと考え、シーズン前に一度調べてはいたのです。ところが、麻黄湯については妊婦での安全性のデータは見つけられず、ラニナミビルについては胎児への有害な転帰を増加させないとする報告はあったものの¹⁾、症例数が少なく、比較対照のない研究であったため、この報告のみでは何とも言えないといった印象でした。

では、「どちらも妊娠中の投与に関する安全性は確立されていないため、治療上の有益性が危険性を上回る・・・」などと、添付文書に書いてあるような文言で答えるべきでしょうか。それでは薬局に問い合わせていただいた意味がありません。できる限り、臨床判断の一助となるような返答をしたいと私は考えました。

そもそも、抗インフルエンザ薬が必要なのかという点ですが、妊娠中のインフルエンザ感染は重症化するリスクが高く2,3、低体重児・早産・乳幼児死亡のリスクや先天性異常などのリスクが増加することが示唆されているため4,5、抗インフルエンザ薬による治療は行った方が良いように思いました。

では、どの薬剤を使用すべきかという点ですが、これについては3つの観察研究の論文を読んでいました。

  • 妊娠中におけるザナミビルおよびオセルタミビルの使用と、先天性奇形・早産・低体重児との関連は見られなかったとする報告⁶⁾
  • 妊娠中のオセルタミビルの使用と、妊娠喪失・早産・新生児の病理学的異常との関連は見られなかったとする報告⁷⁾
  • 妊娠中におけるオセルタミビルの使用は早産との関連は見られず、胎児の発育遅延リスクを減少させることが示唆されている報告⁸⁾

以上の3つの報告を踏まえると、妊婦に対する安全性のデータがより多い、オセルタミビルを使用することがこの時点では妥当ではないかと考えました。電話越しに論文の情報を伝え、オセルタミビルを使用するのが適切ではないかと医師に提案しました。

その後、問い合わせのあった妊娠中の患者さんにはオセルタミビルが処方され、来局しました。5日間しっかりと服用することを伝え、患者さんは帰っていきました。残念ながら(と言って良いのかはわかりませんが)、この患者さんはその後来局されることがなかったため、どのような経過を辿ったのかは不明です。

論文を読み続けることの重要性

さて、今回の事例はおよそ2年半前の出来事でしたが、今年(2017年)の2月に発表された報告では、妊娠中におけるオセルタミビルおよびザナミビルの使用と、早産・死産・新生児死亡・新生児罹患率・先天性奇形との関連は見られず、低体重児・胎児の発育遅延については減少させることが示唆されました⁹⁾。妊婦への安全性という点では、ザナミビルを選択しても間違いではなかったかもしれません。

当時の判断が間違っていたというわけではありませんが、エビデンスは更新され続けますそのときは妥当だと思っていたものが変化する可能性は常にあります。論文を読み続け、そのときの判断が妥当なものであったのか再評価し、次に活かしていくことが重要であると結論して、今回は終わりにしたいと思います。

それではごきげんよう、さようなら。

編集部より

本コラム執筆者である黄川田修平氏が2017年9月25日、ご逝去されました。

同氏は、「薬剤師によるEBMの実践」の普及に尽力されていました。本コラムもその活動の一環であり、多くの読者に支持され、編集部としても今後の連載が楽しみであっただけに、残念でなりません。

編集部一同、心からご冥福をお祈りいたします。

PharmaTribune編集部

【コラムコンセプト】

論文を読む必要性は理解しているものの、保険薬局においてどのように論文情報を活用すれば良いのかわからないといった意見を聞く事が多い。当コラムでは、実際に論文情報を活用した例および現場でいかにEBMを実践していくべきかについて筆者の考えを紹介することで、一人でも多くの薬剤師が現場でEBMを実践できるように執筆していく所存である。また、薬剤師と忍者の関係性についても機会があれば触れていきたい。

【黄川田修平氏 プロフィール】

kikawada.jpg大学卒業後、保険薬局に勤務。就職後、数年間は自分の仕事が患者のためになっているのか悩みながら仕事をしていたが、EBMと出会い、実践できるようになれば患者のためになる仕事が出来るのではないかという思いから独学で学ぶ。以降、EBMの実践を模索しながら薬局で仕事をしている。また、NPO法人AHEADMAPに所属し、臨床医学論文のような妥当性の高い情報の入手と吟味ならびに活用のための知識や技術を普及するための活動も行っている。

ブログ → 【薬局薬剤師の記録的巻物】

Twitter → https://twitter.com/ScreamTheYellow

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