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離島医療と医療用麻薬

2017年10月20日 11:30

 今月の話題、医療用麻薬(以下、麻薬)について少しお話しします。麻薬管理者は、当診療所では薬剤師ではなく、医師である所長となっています。私は当然、麻薬など小笠原に来るまでに全く触ったこともなかったわけで、「全てが全くわからない状態」からのスタートでした。申し送りを受けても、その場でさらっと聞いただけで、覚えられるほどに頭はよくない。マニュアルを読んでみたが数分で眠くなる、というか調剤や発注業務で覚えることが多く大変で、麻薬のことまで全然頭が回らない。それでも何か提出書類に出くわすと、長い時間かけて調べて、書類を書き上げたものです。最初はいろいろ手間取っていても、一度出して受理されれば要領もわかり、次からはすんなりできるようになります。1人職種でしかも私のような未経験同然は、こうやって業務を覚えていくしかありません。

目次

  1. 麻薬の採用品目と在庫
  2. 自分自身も麻薬のお世話に

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「男も女も台風も、しつこい奴は嫌われる」小笠原諸島は8月の終わりから、台風15号に襲われた。この気象庁のHPで発表された台風進路図を見ればわかるのだが、粘着気質旺盛な台風で、一度父島と母島の間を抜け、さらに戻ってきて母島父島を襲い、さらにまた戻ってきて父島を蹂躙していった。この間丸3日。外は強風が吹き荒れ、横殴りの大雨。それでも診療所の外来は休まない。意外と患者さんは来る。まあみなさん車に乗るので、あまり関係ないのかもしれないが。台風が近づくと、台風養生などで何かと島は慌ただしくなるし、商店から生鮮品が消える。

麻薬の採用品目と在庫

 各種手続きの実際などは次回の記事にするとして、当診療所では現在、麻薬の採用品目は4種類となっています。オキシコンチン®錠、モルヒネ塩酸塩注、アンペック®坐剤、ケタラール®に、少し前まではMSコンチン®やオプソ®内服液もストックされていました。複数規格が存在するものは、だいたい一番小さい容量の規格を採用しています。小さいほうが用量の調整をしやすいからです。とはいえ、現在麻薬については院外処方箋を出して取り寄せるケースがほとんどで、院内にある麻薬を処方するケースは、そこまで多くはありません。

 麻薬の服用者がいない状況では、あまり多くの在庫を持つことは好ましくありません。麻薬は廃棄が面倒だし、けっして安価なものではなく、金庫の容量も限られています。また、普段患者がいない場合は全く処方されませんが、患者が使い始めると、一気に大量に処方される場合が多いです。こういった事情を考慮すると、どうしても院外処方に頼るのが合理的ということになります。

 ところが、院外処方に頼ると、いざ量を増やすとなった場合に困ることもあります。次の入港まで届かないのですから。「次の東京出港に間に合うよう、急いでください」と院外薬局へ要望しても、やはり限度があるのです。8月末に台風15号がずいぶんと長く小笠原近海に居座っていましたが、台風で船が欠航になったりすれば大変です。このように、治療方針でさえおがさわら丸のスケジュールに左右されてしまう、それが小笠原諸島という特殊な立地の離島の、特徴でもあり限界でもあるのです。

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ちょうど一番雨風がひどい時間帯に撮影。私の家の前から外を見れば、実は正面に山が見えるはずなのだが、雲で一切見えない。現在車を他人に貸してる私は、当然徒歩で職場まで行くしかない。一度だけ運悪く、暴風雨の中を家まで歩いて帰るはめになってしまった。50年に一度と言われるくらいの大雨、しかも暴風。こういうときは傘も役に立たない。雨風がひどくて目が開けられないし、息もしにくい。電子機器類を一切持たずに出勤したのだが、携帯電話を持っていたら確実に壊れていた。ところが、暴風雨を見越して準備し、完全装備で出勤すると、たまたま風が弱く雨も降っていない時間帯だった、ということにもなる(もちろんずぶぬれになるより100倍マシだが)。

自分自身も麻薬のお世話に

 ところで、実は私も診療所で麻薬を処方してもらったことがあります。昨年の後半はずっと咳が止まらず、よくリン酸コデイン1%の世話になっていました。服用したことのある方ならわかると思いますが、とにかく苦いです。「これほどまでにクソ不味いモノが、この世の中に存在すること自体が許せない」レベルの苦さは、粉砕したクラリシッド錠といい勝負です。とはいえ背に腹は代えられない。辟易していたある日、錠剤があることを知り、院外処方で取り寄せました。錠剤は麻薬に相当しますので、これが私の人生初の「麻薬服用」でした。

 後日、上京中に院外処方の対応をお願いしている薬局さんへ行ったときに「コデイン錠は小西さんの薬の調剤のために取り寄せたんですよ」なんて言われたときは、大変申し訳なく思いました。結局何が言いたいかといえば、やはり病気になどなるものではない、ということですね。

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台風が去ったあと。道端にはかなり大きな枝が落ちていた。通勤ルートは木や葉っぱに混じって、道端には車のサイドミラーの裏側のカバーと思しき部品まで落ちていた。台風時などは、避難所が開設される場合もあり、診療所には夜勤者だけでなく事務職員も当直として残ることになる。断続的な停電が発生する場合が多いのだが、診療所は自家発電があるからしばらくは問題ない。当診療所の場合、停電に備えタミフルなど一部の医薬品を冷蔵庫へ移すことなども、台風養生の一つと言える。というのも、診療所の薬局は夜間に停電があった場合、どういうわけか冷房だけはスイッチを入れ直さないといけないのである。夜間に停電があった場合、なんとなく薬局内が暖かいのですぐわかる。

【コラムコンセプト】
僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

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