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ダメ母、ところによりやじろべえ

2017年10月24日 08:00

恥ずかしながら、うちの息子はユーチューブ漬けだ。

まだ小さかった頃、私が出勤する土曜日は保育園に行かず、家で過ごしている間に子供の好きそうな動画をいろいろと夫に見せてもらっていたらしい。

小学生になった今では、アニメやゲームの動画など、自分で見たいものを探しては寸暇を惜しんでパソコンにかじりついている。

なんとかして時間制限をさせたいところだが、どうしたものか...と思っていた矢先のこと。

ある日の夕方、私は翌日の夕食のおでんを仕込んでいた。

宿題の途中で飲み物を取りに来た息子が、まだ殻をむいていないゆで卵が4つ、ボウルに入れられているのに気づいた。

「あっ! 僕、殻むきしたい!」

「えっ? ...いいけど、宿題が終わってからね」

「はーい」

他の具材の準備をしながら、チラチラと息子の様子を伺う。息子はリビングのパソコンで、アニメの動画を流しながら宿題をしていた。ここ最近、宿題の監督を夫に任せきりにしているうちに、いつの間にかそんな癖がついてしまっていたのだ。

夫には文句を言ったが、「宿題をやりたくないのを、ああやって紛らわせながらでも最後までやってるんだからいいじゃないか。やらなくなってしまったら元も子もない」と言って、取り合わない。

だが、動画が目の前で流れていては、集中できるはずもない。案の定、息子は漢字ドリルを広げてはいるが、遅々として進まない。

おでんの仕込みはさっさと終わらせて、今日の夕食に取りかかりたいのに...。

結局、ドリルとプリントの宿題を終わらせるのに、1時間近くもかかってしまった。

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「できた! 卵むく!」

「はいはい、わかったからさっさとやって!」

だが、そこで夫からのクレームが入った。

「ダメだよ、まずはちゃんと宿題を終わらせたことを褒めてやらなきゃ」

ええー?! なんで私だけがダメ出しされてるの?! 悪いのはこの子でしょ!こみ上げる怒りをググッとこらえ、「おりゃー!」と力任せにゆで卵をテーブルに叩きつけて割ろうとする息子を制止し、殻のむき方を教える。

息子が寝た後、私はあらためて夫に「動画を見ながらの宿題はやめさせるべき」と切り出した。

「いくらなんでもあの分量の宿題に1時間はかかり過ぎ!」

「うん。最初はボーカロイド曲をBGMにしてるだけだったから、いいと思ってたんだけどね」

「いや、ボカロもどうかと」

「本人も時間がかかり過ぎてるのはわかってるよ。いずれ自分で気づいて『やめる』って言い出すから、それを待ったほうがいい。イライラして、頭ごなしに言うのはダメです」

ええー、本当かなあ...? 夫は教育学部の出身なので、素人判断で言っているのではないことはよくわかる。

ていうか、結局、私にダメ出しなのかい...。

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まずはちゃんとできたってことを褒めなきゃ

イライラして頭ごなしに言うのは良くない

私は夫より帰宅が遅く、子供に接する時間が短いために、「もっとちゃんと言ってやらないと!」という焦りもあるのだろう。しかし、そうやって次々とダメ出しされると、感情的になってしまう自分を否定されているようで、あぁ自分はダメな母親だ...と、気が滅入ってしまう。もちろん、ダメ出しのつもりで夫が言っているのではないのはわかる。冷静に指摘してくれているのも、私に配慮しているのだということも。だが、やはり「あなたのやり方では良くない。こうすべき」ばかり言われていると、どうにもキツい。

どうせ私は良い母親なんかじゃないんだもん...。

モヤモヤする気持ちを、気づけばツイッターに長々と吐き出していた。あまりに長文の愚痴を見かねたのか、あるフォロワーさんからリプライが来た。

そんなことないですよ。ちゃんと考えてあげてるいいお母さんじゃないですか

自分でも驚くほどに、その言葉がすとんと腑に落ちた。ズブズブと自己嫌悪の沼に落ち込んでいたのが、明るい太陽の下にぽっかりと浮かび上がれた気がした。

「私はダメな母親だ」と落ち込むのは、「良い母親になりたい」「母親とは、こうあるべきだ。自分もそうなれればいい」と思うからだ。そうでなければ、そもそも悩むことすらないだろう。

アドバイスや励ましの言葉をくれる存在が身近にいるというだけでも、私は随分と救われている方だ。夫の助言も、できる範囲で少しずつでも実践したい。そうすることで、こんな私でも、少しだけ『いい母親っぽい私』として子供に接することが出来つつある気がする。

だが、もしも冷静な助言や励ましをくれる人が身近にいてくれなかったとしたら、どうだろう。私の他にも、『良い母親』でいられない自分自身にひどく落ち込んだツイートをしている人を、しばしば見かける。

いい母親になりたい。なるべきだ」という気持ちと、「こんな私じゃ、いい母親になんてなれない」という気持ちの間で母親は揺れ動く。それはまるで、バランスをとってピタリと静止しようとすると倒れてしまうやじろべえに似ている。

母親とは、24時間365日、怒らずイラつかず、菩薩のように優しくて、育児に関する一切の落ち度があってはならないなんて、そんなことはないはずだ。良い母親になれない自分と、なりたいと思う自分との間で引き裂かれるからこそ、つらいのだ。

そんな母親たちの近くにも、「あなたはちゃんと考えてるいい母親ですよ」の一言を届けてあげられる人がいてほしいーー

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ところで夫の報告によると、息子は「今日は動画見ずに宿題やる」と自分から言いだして、30分ほどで宿題を終わらせたのだそうだ。

「静かだと早く終わる」

そう息子は言って、終わらせた宿題のドリルをテーブルに広げっぱなしのまま、ユーチューブでゲーム実況動画を見始めたのだった。

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【コラムコンセプト】
仕事に家事に育児と、目まぐるしい日々を送る母親薬剤師。新薬や疾病の勉強もしなきゃいけないが、家のことだっておろそかにできない。追い立てられるように慌ただしい毎日だ。そんな中で、ふと立ち止まり、考える。「働く母親って、どうしてこんなにいろんなものを抱え込んでしまっているんだろう?」「薬剤師の業務って、どうしてこんなふうなんだろう?」忙しさに紛れて気付けずにいる感情に気付いたら、働く母親に見える景色はきっといくらか変わるだろう。日常の業務に埋もれたままの何かを言葉にできたなら、薬剤師を取り巻く世界も少しずつ変えていけるだろうか。


【へたれ薬剤師Kiko プロフィール】Hetare_kiko_columm.png

卒後9年間病院勤務ののち、結婚を機に夫の地元で調剤薬局に転職。産休育休を経て、現在は中規模チェーン薬局にフルタイムで勤務。アラフォー。9歳の息子、夫(not薬剤師)と3人暮らし。食事は手抜き。洗濯は週3回。掃除はルンバにおまかせ。どういうわけだか「コトバ」に異様にこだわる。座右の銘は「モノも言いようで門松が立つ」。(Twitter:@hetareyakiko)

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