新規登録

第4回 島の実態とは?

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2017年12月01日 08:00

goto11_map_03_72.jpg

なんもいらん!帰れっ!

「すみませ〜ん。薬剤師会から来ました〜、薬剤師の平山で〜す。ちょっとよかですか〜?」

「なんもいらん、帰れっ!」「薬剤師?知らん!なんばしが来たっか。用はなか!」

 二次離島訪問調査は、だいたいにおいて、こんな感じで進みます。

 基本的には、五島市を通じて二次離島の全世帯に通知をして、事前に同意の意思表示をしたところに調査に行くのですが、最初の郵送形式でのアンケート調査の経験上、島のお年寄りがなかなか返信してくれないことは分かっています。そのため、同意の返信がなかったお宅も一応訪問して、説明の上、調査に同意していただけるようだったら、その場で同意をいただいてから調査するという手法を採りました。

 したがいまして、家という家は全て巡り、人影を見つけたものなら道ばたでもいいので、片っ端から声をかけます。なので、調査員は不審者扱いされたり、怒鳴られたりは当たり前です。今回はそのようにして得られた調査結果を、ほんのさわりだけですが、紹介させていただきます。

goto4_seataxi.jpg島へ渡る移動手段は海上タクシー

郵送方式アンケート調査結果との乖離

 前回の郵送方式で行ったアンケート調査で、二次離島住民のインターネット使用率が14.7%と紹介しましたが、今回、訪問調査をしてみると7.5%しかいませんでした。郵送方式のアンケート結果の半分です。やはり前回調査では、郵送されてきたアンケートに回答できなかった高齢者が多かったようです。やはり、島に行ってみないと実態は見えてこないし、肌で感じることもできません。ちなみに、ネット販売で医薬品を購入した経験がある方は2名いらっしゃいました。

goto4_researcher1.jpg訪問してみるといろいろなことが分かります

そもそも島の人は医薬品を使用しない?

 一般用医薬品をどのくらい使用するか尋ねると「ほとんどない」と回答した方が63.9%、「月1回程度」の方が11.5%と、みなさんあまり医薬品を使用していませんでした。また、一般用医薬品の入手ルートとしては「配置薬」が27.0%と最も多く、次いで「一次離島のドラッグストア」でした。二次離島の人たちは、日常的には一般用医薬品を使用することはありませんが、使用しなければならない状況になったときには、身近にある配置医薬品を利用する方が多いようです。また、福江島の大波止付近には大型ドラッグストアが複数ありますので、日用品と一緒に一般用医薬品を購入する方も多いのかもしれません。

 しかし、今後、一般用医薬品を購入する手段として最も期待する方法を尋ねると「薬剤師による配達」が32.1%と最も多かったのです。その理由としては「信頼できるし安心」「薬剤師から説明を受けて購入したい」あるいは「医薬品以外の健康相談などもしたい」「病院の薬も相談したい」というものでした。また、説明を聞くことができないから怖くて一般用医薬品を使用しないという方もいらっしゃいました。ちなみに、ネット販売に期待する方は1名だけでした。

医薬品の情報は?

 一般用医薬品の情報の入手方法について尋ねたところ「入手していない」と答えた方は66.7%に上りました。多くの方が一般用医薬品を使用していないので仕方のないことなのですが、それにしても多いです。一般用医薬品の入手ルート別に情報の入手状況をみると「保険薬局(一次離島に行った際)で購入」した方では85.0%が薬剤師から情報を入手すると答えましたが、「ドラッグストア(一次離島に行った際)で購入」した方では約半数しか情報を入手していませんでした。また、入手ルートとして最も多い「配置薬を利用」する方のうち、情報を入手していると回答したのは27.9%に留まりました。

 では、二次離島の住民は、一般用医薬品の情報を必要としていないのでしょうか。そうではないようです。薬剤師による配達に期待が高いように、医薬品は薬剤師から説明を受けてから使用したいと考えている方もいるようです。実際、調査時にも自分の薬を持ち出して調査員に健康や医薬品についての相談をもちかける方が多く見られ、医薬品などの情報を必要としていると推察されました。さらには調査中に、情報不足が原因と考えられる医薬品に関する問題事例が確認されたのです。こうしたことから、やはり医薬品の適正使用のためには薬剤師の介入は不可欠であると考えました。

goto4_researcher2.jpg調査時に薬の相談をもちかけられることも多い

お薬説明会・相談会をやってみよう!

 これらの経験から私たちは、二次離島の住民に「薬剤師」という職能を認識してもらい、薬剤師が医薬品に介入することのメリットを理解してもらうべく、薬剤師による医薬品などの情報提供や一般用医薬品の供給活動を定期的に実施しようと思い立ちました。

 二次離島で定期的にお薬説明会や相談会を開催、必要とあらば自宅にお邪魔して医薬品の保管や服薬管理についてアドバイスをし、そして医師や看護師とも連携できれば、二次離島の皆さんにとってかなり有益ではないかと考えたのです。

 一般用医薬品の供給方法についても、かかりつけ薬剤師・薬局をつくっていただくことで、薬剤師が住民の医薬品使用状況を把握できれば、郵送で医薬品を送ることも可能であろうし、服薬指導や情報提供も併せてできるはずです。

 というわけで、まずはとにかく、お薬説明会・相談会をやってみよう!ということになったわけです。さて、次回から、島で起きるドタバタ劇を少しずつ紹介させていただきます。

Hirayama T, et al. Yakugaku Zasshi 2013;133:913-922.(PDF

五島曳船詩・福江島 大瀬崎灯台編

この海には人々の祈りが満ちている

 「キリスト像に見えます」沖縄在住の写真家・新井直久氏から言われた言葉である。宗教はさまざまであるし、見え方もおのおのであろうが、そこに人々の祈りを求める心は同じなのかもしれない。

goto4_oosezakisea.jpg大瀬崎灯台

 福江島の西端の海沿いの道から一気に大瀬山まで山道を登っていくと、真っ青な海から、高さ100m以上の切り立った断崖絶壁が雄々しくそびえ立つ姿が目に飛び込んでくる。そこからまたしばらく登ると展望台があり、山から伸びる岬の先っぽにポツンと立つ灯台が見渡せる。その姿は何とも表現しがたいくらいに美しい。灯台まで歩いて行くと、その景色にとてつもなく感動すること間違いない。よくぞこんなところに灯台を建てたものだと驚くばかりである。その展望は遠くから見ても近くに行っても美しく、映画『灯台守』や『悪人』の舞台としても有名である。

 しかし、大瀬崎断崖の駐車場から灯台に向かわずに、横に延びる山道を登った大瀬山の頂上に、いのりの女神像と鐘が建立されていることは、意外に知られていない。

goto4_goddess.jpgいのりの女神像

 太平洋戦争において、お国のために南方へ赴き戦地に散っていった戦士たちの御霊を慰めるために建立されたと聞く。女神像を作成したのは、長崎の平和祈念像と同じ、北村西望氏である。それぞれの思いを抱きながら鐘を突き、女神と共に灯台の向こうに延々と広がる海に向かって静かに手を合わせてみるのも悪くない。灯台の向こう、東シナ海に沈む夕陽があれば申し分ないが、帰りは真っ暗な山道であることは覚悟しなければならない。

goto4_oosezakisunset.jpg大瀬崎灯台の夕景

 でも、この景色は、きっと全身で感じたくなるはずである。この海には人々の祈りが満ちているから。

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

トップに戻る