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玄関先まで聞こえた「グピュー、グピュー」音

2017年12月26日 09:00

 短かった秋を感じる暇がないまま、一雨ごとに冬の訪れを感じる11月某日。3年以上前から隔週訪問している、患者さんのお宅を訪問した際、玄関前でこれまで聞いたことのない大きな音『グピュー、グピュー』が外まで漏れていました。

 患者さんは、70歳男性、要介護5、独居。病名は、多系統萎縮症、排尿障害、小脳失調症状、喘息、肺気腫で、主訴は運動失調、歩行困難、構音障害、排尿困難。

訪問看護師も記録していた「グピュー、グピュー」の音

 いつも通り、玄関先から声をかけました。「こんにちは」「グピュー、グピュー」「こんにちは」「...」(この間はとても緊張しました...)「こんにちは」「はい」の返事に安堵して家に上がるといつもの定位置、ベッドを背もたれにして座卓に手を置いて伏せてうたた寝をしておられた様子でした。

 この異変を医師へ連絡した方が良いのか迷いながら『在宅連携ノート』を見ると、2~3日前の訪問看護さんも同じ音を聞いておられたことが分かり、これについては報告書を持参した際に伝えしました。

最近はきちんと飲めていたのに、急に残薬が増えて・・・

 「変わりはないですか?」「はい」「いつも通り、お薬をカレンダーにセットします」「おねがいします」と、いつも通り残薬の確認から始めました。

 訪問当初の3年前は、多系統萎縮症を発症して4年が経過しておられましたが、その治療薬である【セレジストOD錠】の残薬が361錠ありました。3年前の訪問開始以来、残薬361錠を1日2回、朝夕食後にキチンと服用していただきたく、付箋に日付を書いて貼付して『薬ケース』にセットすると共に、「この病気の進行を遅らせてくれる薬は今のところこれしかないので、効果は実感できないかも知れないが続けて服用することが大事」と繰り返しお話しました。

 そして、それまで続けて服薬する習慣のなかった方が、時に飲み忘れながら361錠を1日2回で服用するうちに、同年12/16の訪問で、残り18錠となり、医師へ報告したことを薬歴簿に記入していました。

 それ以降はきちんと服薬できていたのですが、この1か月は夕食後の薬の飲み忘れが6~7回/2週と急に増え、この日も同様に残った状態でした。

 「どうしたんですかね、これまできっちり服用していたのに」と少し怒った顔で質問する私に、いつもの笑顔で「忘れた」と返事し、特にこれといった理由はないご様子。嚥下についての確認のみを行い「ヘルパーさんがお皿に用意してくださるのだから、ご飯を食べた続きに服用しましょう」とだけ声かけをしました。

そして訪問から2日後の夜に

 訪問から2日後の夜、駆け付けた家族に見守られながら亡くなった、とケアマネジャーと主治医から電話をいただき驚きました。

 この3年間、徐々に体が動かなくなるのに合わせて、バルン留置となり、居室に手すりが増え、ベッドサイドにP-トイレが設置され、会話の内容も聞き取りにくくなっていく中、「独居でも最期まで家で過ごしたい」という希望を叶えられました。死因は「脳幹出血疑い」。

 3年以上訪問していると、徐々に病状が進行しやけになっておられるような言葉を聞いたり、お孫さんが訪ねてくれたと嬉しそうに写真を見せて下さったり、広島カープが優勝した際には一緒に喜んで...、と色々なことが思い出されます。訪問が重なり、遅い時間になってしまっても、いつも笑顔で迎え入れて下さいました。笑顔の裏には、色々な葛藤や想いがあったのではと察しますが、最期まで毅然としておられた姿が印象的です。

「グピュー、グピュー」の音の原因は

 最後の訪問時に聞いた「グピュー、グピュー」の音。医師に聞いたところ、『多系統萎縮症』では覚醒時には著明な呼吸障害を認めないが、睡眠時には特異ないびき音を発生して喘鳴をともなう閉塞性呼吸障害を示し、時には突然死を来すこともある、とのことでした。

【コラムコンセプト】

ケアマネとしても薬剤師としても在宅活動を長く続けて筆者が、地域包括ケアの中でどのように薬剤師として貢献していくか、日々のエピソードとともに綴っていきます。

【角山美穂 プロフィール】

2009年11月、「在宅専門薬局」と言う想いでつぼみ薬局を開局。当初は、併設した「つぼみ薬局居宅介護支援事業所」の介護支援専門員として居宅を訪問したり、「つぼみ薬局」の訪問薬剤師として活動。現在は「街角相談薬局」という立ち位置で活動中。

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