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プロフェッショナルとして、倫理的にも正しい判断をすること

2018年01月22日 10:30

 こんにちは。カナダの薬剤師事情を紹介している青山です。

 カナダのお土産としてメープルシロップが有名ですが、採る時期により違いがあることをご存知でしたか。

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メープルシロップの樹液は冬から春にかけて採れる。時期が遅くなるにつれ、ライト、メディアム、ダークと色が濃くなり、味も順に濃くなる。

 今回は倫理の考え方について話していきます。倫理と聞くと、 私は日本で在学中にヘルシンキ宣言を習った程度の記憶しかありません。

 なぜ薬剤師が「倫理」について勉強する必要があるのでしょうか。それは、プロフェッショナルたる薬剤師であるならば、「倫理的」(「思いやりのある、道徳的な」)に正しい判断が下せることも当たり前だとカナダでは考えられているからです。確かに、薬剤師の各々によって、薬に対しての考え方が異なるのはおかしいですよね。

 まずは、この例を考えてみてください。

例1:あなたは調剤薬局の薬剤師です。金曜の夜9時に、閉店準備をしていたところ、インスリンを毎日使っている糖尿病の患者が薬局に来ました。同じインスリンの処方箋を持ってきましたが、処方箋の期限が切れていました。もう患者の手元にインスリンは一切無いそうです。処方元の病院はもう連絡がつきません。どうしますか?

 この例は、法律VS倫理の1例です。なぜここで法律の話を持ってきたかと言うと、法律と倫理を分けて考えることが、最初のステップとして必要だからです。下図のように、まず状況を把握し、従うべき法律があるか確認します。法律があれば法律に従い、ない場合は倫理の問題へと発展します。

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 期限の切れた処方箋は調剤できないことが法律で決められています。しかし、今回の状況では、インスリンを調剤することが倫理的に正しい行為と考えられます。このように法律と倫理が相反する場合、法律を遵守すべきであるので、患者はインスリンをもらうことができないという現状になっています。

 カナダでは、こういった不都合なケースに対応するために、エマージェンシーリフィルの存在や(第5回参照)、基本的に1年ある処方箋の期限が、患者の利便性の向上に役立ちます。

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カナダでは、写真のような公共テニスコートが無料で使える。テニスやゴルフなどスポーツが盛んである。

例2:高脂血症の患者がリピトール®の処方箋を持ってきました。医師から「患者が不安になって飲まなくなるから、リピトール®の副作用については説明しないでくれ」と言われました。どうしますか?

 例2は、倫理VS倫理の問題です。まず状況を確認します。

 リピトール®の副作用を説明しなければ、患者を不安にさせることはなく、アドヒアランスが向上しそうです。しかし、インフォームドコンセントが不十分です。しっかり説明した上で患者の理解を得た方が倫理的であるような気もします。どちらも一長一短で迷いますが、実際の臨床ではどちらかを選択しなくてはいけません。

 次に、法律があてはまるかについて確認します。薬の情報提供の内容までは法律で定められていないようです。したがって、この問題は倫理の問題といえそうです。倫理VS倫理になった場合、倫理の四原則(自律、無危害、善行、正義)を考えます。今回の例で特に重要な原則をあげると、次の2つです。

(1)Beneficence: 善行(患者の利益を追求すること)
(2)Autonomy: 自律(患者が自己決定できること)

リピトール®の副作用を説明しない→ 患者が不安に思わず、アドヒアランスが向上→効果最大化【(1)善行の原則を尊重】
リピトール®の副作用を説明→患者の自己決定権の尊重【(2)自律の原則を尊重】

 つまりこのケースは、(1)善行 VS (2)自律 となります。現在は、自分の生き方を患者が選択する時代です。したがって、(2)自律を(1)善行よりも優先する考え方が主にされています。よって、例2では、副作用を伝えないという医師の指示に対して疑義を申し立てます。

 薬剤師がどう行動すべきか考える時、「医師が良いと言ったから」という理由だけで判断実行してはいけません。薬剤師がプロフェッショナルであるということは、解決困難な問題に対し、薬学的な視点に加え、倫理的な視点から考えなくてはいけないのです。

 今回は倫理について取り上げました。少し難しい内容でしたが、実践で使えるということがわかってもらえたら嬉しく思います。どうしたら良いか迷ったとき、一度考えてみてはどうでしょうか?

【コラムコンセプト】

薬剤師を取り巻く環境は日本と海外で違う。しかし、やっていることは本質的には同じ。患者のために薬を調剤し、鑑査し、投薬 (服薬指導) する。そして、その薬物療法を評価し、医師や他の医療従事者とより良い治療方法を再考していくこと。カナダの薬剤師事情を紹介しながら、日本での業務に取り入れられる方法を考えるコラム。

【プロフィール】プロフィール写真.jpg

1986年生まれ。名城大学薬学部卒。日本の病院薬剤師、調剤薬局、ドラッグストアで勤務した後、カナダへ留学。スプラットショーカレッジの薬剤師アシスタントプログラムを介し、Loblow pharmacyでインターン研修。2015年ブリティッシュコロンビア大学(UBC) CP3コース終了後、2016年カナダ薬剤師免許の取得。

blog: SHAWN'S WORLD
Twitter:@shinshinskysky

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