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第6回 誰も来んかもしれんよ

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2018年02月01日 08:00

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今日は日曜ミサの日か

 嵯峨島へ行くときには、三井楽町の貝津港から定期便に乗船します。島は比較的広いのですが集落が固まっているため、会場は1カ所で行うことが可能です。朝の定期便に乗り、お薬説明会・相談会を行ってから住民宅を訪問して、午後からゆっくりと島を散策しても、夕方の定期便に余裕で間に合います。

 この日もいつものように定期便に乗りました。後からシスターが2人乗船してきました。「もしかして、今日は日曜ミサの日か?」ーー嵯峨島は島民の約3分の1がキリシタンです。その昔、本土の外海町というところから移り住み、潜伏しながら生活していたといいます。その方たちは、説明会の会場付近に多く住んでいますので、もし日曜ミサと重なっていると、参加者がかなり少なくなるのは目に見えています。案の定、"島のオープンカー"がシスターたちのお出迎えに来ていました。座席には座布団も敷いてあり、乗せる気満々です。

goto6_sisters.JPGいろいろ問題があるかもしれませんが...
以前のことなので細かい話はご勘弁願います

やっぱり誰も来ない

 事前に、町内会長さんにお薬説明会開催の了解は得ていたので、いろいろ言っても仕方ありません。やるしかないので、とりあえず準備をします。移動式のスクリーンとプロジェクターを設置してパソコンと接続します。そして、飲み合わせの実験に使用するため試験管も並べます。あとは、皆さんが来るのを待つばかりです。

 町内会長さんが来られました。ゴロンと横になり、タバコを吸っています。そして待つこと30分、誰一人、現れません。

 町内会長さんがひとこと「誰も来んかもしれんよ」。集客には、町内会長さんの熱意も関係します。「そうですか〜、もうちょっと待って誰も来なかったら、町内会長さんお一人でもさせていただきますので、最後まで付き合ってくださいね」とお願いしましたら、町内会長さんがひとこと「よかよ、どうせ会場ば閉めんばいけんけん」...あいちゃ〜、です。

ひとり、またひとり

 しかたない、始めるかーー30分待ちましたが、誰一人として来る気配がありません。「では、町内会長さん、よろしくお願いします」というわけで、説明会のスタートです。

 すると、一人の男性が現れてくれました。「今日、薬の話があるって聞いたけど」。やりました!どうにか二人です。と喜んでいると、ひとり、またひとりと増えてきました。そしてどうにか8人くらいになりました。開始を少し遅らせたので、ミサが終わった人たちも帰りに寄ってくれたようです。

goto6_lecture.JPG人数がそこそこ集まったところで説明会を開始

やった!ウケた

 薬の実験は、お薬説明会開始1年目はカプセルを指にくっつけるペタペタ実験だけでした。2年目は、お茶にインクレミンシロップを入れて真っ黒になる様子を観察する実験を加えました。3年目もこの実験を再演しました。去年見ているからな〜、と思いながらもやってみると、お茶が真っ黒になる瞬間、やはり「お〜っ!」と声を上げてくれます。皆さん優しいです。それとも覚えていないのか?まぁ、いいです。盛り上がるのであればなんでも。

 そして4年目となる今回は、これまでの実験に加えてグレープフルーツに重曹を入れるブクブク実験を追加してみました。皆さん興味津々です。コツは、ちょっと多めにジュースを入れること。ジュースが少ないと試験管の中で泡がモコモコして終わるのですが、多めだと試験管から泡があふれ出します。どの会場に行っても、皆さん、何が起きたのかと目を丸くしてくれます。そして案の定、歓声が上がります。大成功!思う壺です。...やった!最初はどうなることかとヒヤヒヤしましたが、なんとなく説明会らしい格好がついてきました。よかった。

goto6_experiment.JPGあふれ出す泡、上がる歓声。実験成功!めでたしめでたし

島の人たちも忙しい

 さあ、なんとか無事に終われそうです。そしてそれぞれの方に薬の相談をさせていただき、終了後、会場でお弁当を食べたら、しばし島の探索へ。

 すると、会場の外では先ほど参加してくれた方々が、家族総出でウニの殻割りをしていました。朝からウニを取りに行き、教会でのミサに出て、お薬説明会に参加して、さあ本番のウニの殻割りというわけです。

goto6_uni.jpgおいしそうなウニがいっぱい!しかし、殻割りはたいへん

 島の人たちも忙しいです。この島には水がありませんので、ほとんどの人が漁師さんです。漁師さんたちは、満月のときは漁には比較的出ないので、私たちは、できるだけ満月に近い日曜日に説明会を行うように計画を立てていました。そして今回また1つ、新たなルールが加わりました。嵯峨島に行くときは、日曜ミサだけでなく、ウニの収穫時期は避けねばなるまい。また1つ勉強させられました。

 さて、次はどの島に行きましょうか。

五島曳船詩・嵯峨島編

嵯峨島は多くの薄い層でできている

 10歳に満たない頃のこと。知り合いのおじさんがこの島で校長をしていたことがあり、当時から放浪癖のあった私は、夏休みの間、しばらくこの島に滞在した。小さなバッグに下着と海水パンツとバスタオルを適当に詰めて、知り合いの家を泊まり歩いた。いつものことであるから、家人も慣れたものである。

 この島は、完全なる火山島で水がない。当時は雨水をため、それを湧かして飲料水にしていた。遊びはといえば、切り立った岸壁の狭い足場を渡り、釣りをしたり岩場の水たまりで泳いだりであった。

goto6_saganoshima_pool.JPG岸壁を渡る筆者

 幼い私は岩場を渡り歩くのが恐ろしく、同年代の地元の少女がぴょんぴょんと跳ねるように渡るのと比べられ、よく笑われたものだ。その頃、島の子供たちが修学旅行で福井県の東尋坊へ行ったと聞いた。子供たちの感想は「これの何がすごいのか」。それはそうだろう、この島の景色が日常なのだから。

 この島は、雄々しい男岳と広くなだらかな女岳で構成されており、土地は全てが横縞の薄い層を成している。高地は断崖絶壁、低地は轟くような波が打ち付ける。海は遣唐使の時代は大陸に向けての航路であるが、それがとてつもなく恐ろしい挑戦であったことは、岸壁に立ち、荒れ狂う波を見るだけでも感じ取れる。

goto6_saganoshima_cliff.JPG轟く海

 そしてこの島には、その厳しい自然とともに、悲しく、そして強く生きた武将や流人、キリシタンの歴史があることを忘れてはならない。もし何か道に迷ったときには、この岸壁に打ち寄せる波と風と島の歴史を体感しにくるといい。ヒトの心もまた、この島と同じように多くの薄い層でできているはずだから。

goto6_saganoshima_strata.jpg海岸の地層

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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