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薬剤師必読!最新論文解説/そこまでやるか!? 驚嘆のスタディ

神戸大学微生物感染症学講座感染治療学分野教授 岩田健太郎

2018年02月15日 11:00

研究の背景:日本でも昔はコモンだった腸チフス

 皆さんは、腸チフスという疾患をご存じだろうか。ご存じない方も少なからずいらっしゃるのではと推察する。病名を聞いたことがないという人だって、珍しくはないはずだ。そのくらい日本では珍しい病気になっている。

 しかし、国際的には非常に重要かつコモンな疾患である。日本でも輸入感染症として時々(われわれ感染症屋は)見る。

 昔は、日本でも割とコモンな疾患だった。五社英雄監督の『鬼龍院花子の生涯』では、主人公を演じる夏目雅子が腸チフスになり、抗菌薬なしで自然治癒している(!)。ちなみに、岩下志麻が演じる養母は腸チフスで死亡した。

 この程度の説明では「ふーん、そう」と流されてしまいそうなので、もう少しつかみのポイントを加えておくと、同作は夏目雅子のヌードシーンが出てくる映画だ。あ、そこの先生、目、覚めましたか?

 冗談はこのくらいにして、腸チフスとはおかしな名前である。そもそもチフス(typhus、いわゆる発疹チフス)はリケッチアの感染症だが、症状はチフスに似ていて、チフスではないサルモネラ感染を英語で「チフスのような=typhoid」と呼んだのだ。andro-は「男性」を指すラテン語で、アンドロゲン(androgen)が男性ホルモンなのはそのためだ。で、男の人間みたいなんだけど、実は違う...と、名付けられたのがアンドロイド(android)というわけ。まあ、最近ではアンドロイドといえばスマホのOSのことで、もとの意味も分からなくなっているが。

 いずれにしても、チフスっぽいサルモネラ感染をtyphoid feverといったのだが、誰だか知らないが日本ではこれを腸チフスと呼んだ。腸というから腹痛、下痢の病気かと思いきや、そんなことはなく、むしろ不明熱にカテゴライズされる熱の病気である。診断は血液培養などで行い、抗菌薬で治療する。中途半端な経口抗菌薬を投与すると、診断ができなくなるからご法度だ。

 世界ではまだ数千万人の腸チフス患者がいるといわれている。特に、南アジアとサハラ以南のアフリカに多い。これは、不衛生な水や食べ物が大きな原因である。

 今では信じ難いことであるが、日本も第二次世界大戦後までは非常に不衛生な国であり、上水道が整備されず、下水道が整備されず、感染症がとても多かった。戦後GHQが感染症対策を遂行するとき、上下水道の完備は当時の日本では金がかかり過ぎだろうと考え、予防接種政策を整備し、予防接種法を施行させた(昭和23年)。このへんの事情は拙著『予防接種は「効く」のか?』(光文社新書)に詳しいので、ぜひ、お読みいただきたい。

 何が言いたいかというと、「腸チフスは抗菌薬で治療可能だし、上下水道の整備といった衛生改善で予防もできるが、貧しい国でその実現は難しい」ということだ。日本もかつてはそうだった。

 また、抗菌薬は治療の第一選択だが、薬剤耐性菌が世界的な問題になっており、抜本的な対策とはいえない。そしてワクチンは、そういう地域では比較的安上がりな対応策だ、という点を指摘したいのだ。

 ところが、現存する腸チフスワクチン(注射の不活化ワクチン、経口の生ワクチン)は効果が不十分で、劇的な予防効果を示してこなかった。特に、小児で使いにくい、あるいは効果がないのが問題である。例えば、注射の不活化ワクチンは、5歳未満では免疫が付かない。新しいワクチンの開発が期待されてきたのは、そのためである。

 というわけで、今回紹介するのは、新しい腸チフスワクチンの効果を吟味した研究だ1)

1)Jin C, Gibani MM, Moore M, Juel HB, Jones E, Meiring J, et al. Efficacy and immunogenicity of a Vi-tetanus toxoid conjugate vaccine in the prevention of typhoid fever using a controlled human infection model of Salmonella Typhi: a randomised controlled, phase 2b trial. Lancet. 2017 Dec 2;390(10111):2472-2480.

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