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勤務変更はどったんばったん大騒ぎ

2018年02月21日 08:00

 「kikoさん、ちょっと相談なんですが」

 水曜の朝、出勤するなりエリア長のKさんが深刻な表情で話しかけてきた。

「なんですか?」

「明後日の金曜日、kikoさんはお休みの予定でしたよね。で、代わりに僕が入ることになってて」

「そうですけど」

「実は◯◯店のMさんがインフルエンザになってしまったんです。それで明日は他の店舗からヘルプが出せるんですが、明後日はどうしても僕が行くしかなくて...それで申し訳ないんですが、もし可能でしたら金曜日に出勤してもらいたいんですが...」

「ええーっ?!」

 突然の申し出に、返答がしどろもどろになってしまう。

「あー、その...ちょーっとですね...」

「何か外せない用事がありましたか?」

「そういうわけではないんですが...」

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 ーー外せない用事、と言えないこともないけれど...。

「もちろん勤務は調整して代休は確保しますから」答えに詰まる私に、Kさんが言う。

「いや、そういうことでもなくてですね...」だが、私は頭を抱えてカウンターに突っ伏してしまった。

「だって、その代休って来週以降ですよね?」

「そうなりますね」

「ううーん、来週かあ...。いや、その...実はですね...」

 何からどう伝えればいいのやら...としばし悩んだ末、恥を忍んで全てを正直にぶちまけることにした。

「実は、そろそろ洗濯が限界で」

「え?」

「私、休みの日しか洗濯しないんです。だから洗濯機はすでにだいぶ満杯で、それを日曜まで持ち越すとなると、そもそも着替えが...、いや、ギリギリ足りるか...?」

 仕事のある日に洗濯せずに済むよう、我が家では子供の制服のポロシャツは洗い替えを多めに買い揃えてある。普段着や下着もだ。もっとも、それはうちが一人っ子だからできるのであって、兄弟の多い家庭でそれは難しいだろう。

 よその働くお母さん方は、仕事から帰って疲れていても、毎日洗濯して、夜に部屋干ししたり畳んだりしているのかもしれないけれど。

「あと、夕飯のおかずが明日までしかないです。日曜に買い物に行った時に、休み前日の木曜の分までは全部献立を考えて、材料もそのように全部買い揃えてあるんです」

日曜日のうちから、そこまで計画するんですか?!

そこまで計画するんです!

 こういう時、「適当に冷蔵庫にあるもので何か作れば?」という意見もあるだろう。だが、金曜の昼間に買い物に行く予定だったから、それ以降の買い置きはない。肉も魚も卵も食べ尽くした後で、残り野菜の味噌汁とご飯だけではさすがに厳しい。「冷蔵庫の中に適当なものがある」という状況は木曜の夜で終わってしまうのだ。

「しかも明日の木曜の晩ご飯はレトルトカレーってところまで込みです!」

「あはは...」何もそこまでぶっちゃけなくても、とでも言いたげにKさんが苦笑いを浮かべた。

 だが、ここまでぶっちゃけたのは、「一食ぐらいレトルトカレーで済ませればいい」という切り札すら既に使ってしまっていると示すためだった。

 悪いことに、今週末は御義母上おははうえさまが旅行なので、土曜日恒例の夕食お呼ばれがない。つまり、食材の買い出しに行くことなくさらに二日分の夕食を準備しなければならない。

 だから、代休が来週では意味がないのだ。

 とはいえ、なんとかして誰かが都合をつけないことにはどうにもならない。そんな危機的状況でも、朝から次々と処方箋はやってくる。業務を二人でこなしつつ、頭を悩ませる。

 Kさんは引き続き他を当たってみますと言ってくれたものの、合間を見てはあちこちの店舗に電話をかけているが、良い返事は返ってこないようだ。

 去年の冬に私が嘔吐下痢で休んだ時にヘルプの手配をしてくれたのは、他ならぬKさんだった。こういう時はお互いさまだし、なんとかして役に立てるものなら役立ちたい。

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 ーーこれはどう考えても夫の協力を求める以外に手立てはない。

 さすがにまだ9歳の息子に二日分の夕食の手配と洗濯はちょっと厳しい。頼れるのは夫だけ。だが、その夫にだって都合があるだろう。一人暮らしなら、カップ麺とコンビニ弁当の夕食が続いても自分が我慢すればいいだけだし、洗濯物だってそんなに溜まらないからどうとでもなる。

 だが、家族がいると、そうはいかない。

 まあ、仕事の日でもバリバリと家事がこなせる人なら問題ないのだろうが、残念なことに私はそうではない。なんにせよ、私の一存で決められない

 患者さんが途切れた隙に、私は休憩室のロッカーからスマホを取り出し、夫にメールを送った。

「...というわけで、明日か明後日の朝イチで洗濯を済ませて乾燥機にかけておくので、帰ったら洗濯物を片付けてほしいのと、金曜と土曜の夕食の買い出しをお願いしたいのだけど、可能?」要点だけ伝えて、業務に戻る。

 昼休みにスマホを見ると、夫からの返事が届いていた。

「明日の木曜日が早く帰れるので、適当に材料を買ってきて鍋を作ろうと思う。洗濯もその日に。レトルトカレーは金曜に回そう。土曜は外食で」

ーーよっしゃー! なんとかなったー!

 しかも、新たな段取りまで考えてくれている。実にありがたい。

「金曜日、大丈夫です。出られます」急いで調剤室に戻り、Kさんに報告する。

「ありがとうございます! 助かりました!」Kさんが深々と頭を下げた。

「いろいろと、家事は夫にぶん投げました...」「ご主人にも、ありがとうございましたとお伝えください」Kさんは繰り返した。

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 兼業主婦が急な勤務変更を受け入れようとすると、どうしても大騒ぎになってしまう。決して、休みなのに仕事に出てきたくないとか、そういうことだけではない。やるべき家事がその日にあれば、どうしても出られなくなってしまう。夫の仕事がハードで代わりに家事を頼めない家庭なら、なおさらだ。

 それでもなんとか都合をつけて、それが職場の役に立てたことが私には嬉しかった...のだが。

 ーーあ。掃除どうしよ...。

 我が家にはルンバがあるとはいえ、リビングダイニングの椅子やこたつを片付けなければ掃除はさせられない。結局、その週はルンバはおろかクイックルワイパーで乾拭からぶきすらできないまま、床に落ちた細かいゴミや埃を見ないふりをして過ごした。

 別に掃除しなくたって死にはしない。そう自分に言い聞かせながら...。

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【コラムコンセプト】
仕事に家事に育児と、目まぐるしい日々を送る母親薬剤師。新薬や疾病の勉強もしなきゃいけないが、家のことだっておろそかにできない。追い立てられるように慌ただしい毎日だ。そんな中で、ふと立ち止まり、考える。「働く母親って、どうしてこんなにいろんなものを抱え込んでしまっているんだろう?」「薬剤師の業務って、どうしてこんなふうなんだろう?」忙しさに紛れて気付けずにいる感情に気付いたら、働く母親に見える景色はきっといくらか変わるだろう。日常の業務に埋もれたままの何かを言葉にできたなら、薬剤師を取り巻く世界も少しずつ変えていけるだろうか。


【へたれ薬剤師Kiko プロフィール】Hetare_kiko_columm.png

卒後9年間病院勤務ののち、結婚を機に夫の地元で調剤薬局に転職。産休育休を経て、現在は中規模チェーン薬局にフルタイムで勤務。アラフォー。9歳の息子、夫(not薬剤師)と3人暮らし。食事は手抜き。洗濯は週3回。掃除はルンバにおまかせ。どういうわけだか「コトバ」に異様にこだわる。座右の銘は「モノも言いようで門松が立つ」。(Twitter:@hetareyakiko)

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