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第7回 初めてのお泊まり

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2018年03月01日 08:00

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黄島に泊まってみよう

 お薬説明会のために島を回り始めて4年目、黄島と黒島に行くときのこと。私は、前日入りして島に宿泊してみようと考えました。というのも、黄島でいつもお世話になっている町内会長さんは、島で唯一のお寺の住職なのですが、副業で海上タクシーもされており、島へ行く時にいつも利用させていただいていたのです。そしてこのお寺、実は民宿も営んでいます。リビングにはでっかいスピーカーやラジコン飛行機なども置いてあり、とてもお洒落で落ち着いた雰囲気で、一度泊まってみたいと考えていました。また、このときはたまたま私1人でお薬説明会を開催する予定だったので、身軽だったということもあります。宿泊してゆっくりといろいろ話すことで、島の実情も、日帰りするより深く理解できるようになるのではないかという考えもありました。

突然の電話

 突然、民放のテレビ局の方から1本の電話がありました。黄島へ行く数日前のことです。「黒島に住んでいる親子の長期取材をさせていただいているのですが、その方たちから平山さんが黒島へ行かれるとお伺いしたので、ぜひとも同行取材させていただきたいのですが、いかがでしょうか?」とのことでした。

 前日から黄島のお寺に宿泊することを説明すると、黒島の撮影に行くときには同じ海上タクシーを利用することもあり、お寺に宿泊したこともあるので大丈夫とのことでした。いきなりいろんな話が進むものです。私も、特に断る理由もありませんので、初めての黄島宿泊&同行取材が決定しました。

お風呂、入れますよ〜

 私の薬局は土曜日も通常18時まで営業です。一人薬剤師なので、私が抜けるときには薬局を閉める必要があります。この日は、黄島へ行くのが遅くなると迷惑をかけると思い、海上タクシーは午後5時の待ち合わせでお願いしました。土曜日ではありますが、一応、早く閉める旨を周囲の医療機関に連絡して島へ行く準備を整えます。そして、さあ港へ向かおうとした瞬間、近隣の医師から1本の電話。

「在宅の患者さんが不穏を起こしているようです。薬を持って患者さん宅へ来ていただけませんか?」危機一髪です。私は、指示された薬を持って患者宅へ向かいます。「飲み込みも困難にはなってきているのですが、口腔内崩壊錠なので、口を少し湿らせて、口の中に入れ、ゆっくりでもいいので飲み込ませてください」などと患者の家族に説明をして、医師と打ち合わせをしてから、そのまま港へ向かいます。

 港には、すでに船が横付けされていました。急いで船に乗り込み、いざ!黄島です。1日の仕事を終えての帰り道ですから私もそこそこ疲れています。宿泊先のお寺へ到着しますと、奥様からのひとこと。

「平山さん、お風呂入れますよ~」

 なんという心地よい響きなのでしょう。私も部屋へ荷物を置いたら早速風呂場へ。疲れた身体に、熱い風呂が心地よく感じます。そして風呂上がりのキンキンに冷えたビール。「生きててよかった~!」最初に書きましたが、ここはお寺です。でもアルコールは大丈夫なようです。つまみは島で釣りたてのハガツオです。なによりです。五島のハガツオは最高です。最初はビール。そして焼酎を飲んでいると、ご住職から「自分は日本酒の熱燗しか飲まないんだけど、一緒にどうですか?」もちろん断る理由はありません。それから、お銚子が数本空いてしまうまで、島や住んでいる人たちの話を伺いました。今後の調査の参考になります。

島の朝陽はなんともいえず美しい

 黄島で迎える朝には2つの目標がありました。ひとつは、早起きして島の朝陽を拝むこと。そしてもうひとつは、ご住職と一緒に、朝のお勤めをさせていただくことでした。

 そしていよいよ朝です。私は五時過ぎから起き出して、ゴソゴソしていますと、なんとご住職は、すでに釣り客を釣り場へ移動させるために出かけておられました。帰ってきてから朝のお勤めとのことですので、その間、私は朝陽を求めて島の海岸線を移動します。この日は天気もよく、素晴らしい朝焼けでした。

goto7_oushima_sunshine.jpg黄島の朝焼け

 そして住職の帰りを待って、一緒にお勤めをしたら朝食です。身も心も引き締まったところで、午前中は黄島の住民センターでのお薬説明会・相談会です。集まるメンバーももう4年目ですので、なんとなく顔見知りですが、今回は、テレビ局の人たちが一緒です。撮影は黒島だけのようで、黄島の説明会は下見なのか手ぶらで参加されていました。会場からの帰り道、カメラマンからは「ジュースに薬を入れたら泡がブクブクしたのでびっくりしました」、そしてディレクターからは「私は、うがい薬にジュースを入れたら色が消えたのが衝撃的でした」との感想が。この年から、イソジン液とジュースの実験を加えていたのです。若い2人にも、薬の実験は印象に残ったようでした。

黒島での撮影

 さて、黒島ではいよいよ撮影本番です。この島は当時96歳のお婆ちゃんと67歳の娘さんの2人だけがお住まいです。なので、お説明会は簡単にして、飲んでいる薬の確認や残薬調査を行います。そして健康状態をお伺いした後、血圧などを測って終了しました。テレビカメラが回っていますので、なんとなくみんな緊張気味です。それからご飯を食べたら、ばぁちゃんと手を繋いで港まで歩いてお別れです。ばぁちゃんは、いつものように姿が見えなくなるまで船に向かって手を振って見送ってくれます。

goto7_kuroshima_gmother.jpgいつも手を振って見送ってくれる黒島のばぁちゃん

 この2人とは、これから先にもいろんなことがありますが、その話はまた今度。そして黄島のお寺への宿泊は、その翌年以降も続くことになります。

五島曳船詩・黄島編

黄島の胎内には仏様が宿っている

 黄島には、やたらと猫がいる。人間の数よりも遥かに多いようで、都会からわざわざこの島に猫の写真を撮りに来るものも多いらしい。人間の数は今や50にも満たないが、昔は鯨と鰹漁が盛んで最盛期には1,000人を超える者がいたそうだ。島の生活道路には立派な石垣が並び、当時の賑わいが容易に想像できる。

 この島には水はないが、早くから海水を淡水にする装置が設置され、水に困ることはない。港から坂を登り、古い学校跡の裏を進むとやがて道沿いにたくさんのお地蔵様が現れる。そのお姿は、まるで仏様への道案内をするかのようである。

goto7_oushima_jizo.jpg道端に並ぶ地蔵様

 そして、その先のぽっかり開いた狭い穴に入ると、海岸に伸びる細い通路が現れる。その急な下りの通路をロープや木々を頼りに下って行くと、やがて海岸に出る。目の前には溶岩洞窟の入り口があり、その中へ入ると一筋の光も入り込む余地のない真の闇が現れる。洞窟の中は、夏は涼しく冬は温かい。真っ暗な洞窟を這いつくばり、急な坂を登りながらひたすら島の中心の方へ進むと、やがてお堂が現れる。そこには観音菩薩が祀られ、島の人々の祈りのための品々が供えられている。

goto7_oushima_kannon.jpg洞窟内に鎮座する観音菩薩

 この洞窟は、人々の願いを島の一番深い胎内で受け止めているようである。真の闇は一筋の光に希望を感じさせてくれる。きっとこの島はいつでも優しく迎えてくれるであろう。母のように。たくさんの猫たちとともに。この島の一番奥底の胎内には仏様が宿っている。そして人々の心に温かい光を与えてくれる。

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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