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カナダ・アルバータ州で、薬剤師が処方できるようになった経緯

2018年03月13日 10:15

薬剤師が薬や検査を処方することが可能で、医師や住民から信頼を得ているというカナダのアルバータ州。University of AlbertaからRoss T. Tsuyuki氏と岡田浩氏(ともに薬剤師)が来日した。「薬剤師にとっての障壁は、薬剤師自身だ」と述べる両氏が、日本で薬剤師の有用性を示すために必要なエビデンスの構築について講演した。

日時:2018年2月9日(金)14:00~16:00
講演Ross T. Tsuyuki氏(University of Alberta)、岡田浩氏(University of Alberta EPICORE Centre、京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系健康情報学)
会場:株式会社ファーコス

tuyuki_okada.jpgRoss T. Tsuyuki氏(左)と岡田浩氏(右)

処方できるようになった後も、エビデンスを構築してきたアルバータ州の薬剤師

州によって差はあるものの、カナダの薬剤師は処方内容の変更やワクチン接種の実施、臨床検査のオーダーなどが可能だ。カナダでは1998年に深刻な医師不足が問題となり、アクセスの良い薬局・薬剤師が、医師の代役を務めると手を挙げたことがきっかけとなった。

その後、徐々に制度改正の準備や薬剤師の教育などを進め、10年後の2008年、アルバータ州で医師から独立して、薬剤師が薬剤の処方をできるようになった。現在同州では、薬学部のカリキュラムに処方設計が組み込まれており、1年以上の実務経験がある薬剤師は、申請すれば薬剤の処方が認められるシステムになっている。認定された薬剤師は、患者のアセスメント後に特定分野以外全ての薬物が処方可能で、処方内容に対する法的責任を負うことになっている。

薬剤師の処方に対する反発は、カナダでも開始時には一部の医師で見られたという。しかし、薬剤師が処方を行うことによる有用性についてエビデンスを積み重ねることで、最終的には患者や医師から受け入れられてきた。何より、患者が薬剤師による薬剤の処方を支持したことが大きな成功の要因となった。

アルバータ州では、薬剤師が処方や介入を行うことで患者のアウトカムが良くなるというエビデンスを積み重ね続けている。薬剤師による処方や介入で、血糖コントロール不良の2型糖尿病患者のHbA1cが1.8%改善1、高血圧患者の血圧が18.3mmHg改善2、心血管リスクが21%低下3することなどが示されている。「患者にとっての魔法の薬は、薬剤師自身だ」と、Tsuyuki氏は述べる。

加えて、薬剤師による処方や介入が経済的なメリットをもたらすことも示唆されている。例えば、高血圧患者に対する薬剤師の処方や患者ケアをカナダの人口の半数に適用すると、医療費の削減効果は30年で157億カナダドル(1兆4,000億円)に上るとの試算もある。これは、薬剤師はガイドラインやエビデンスにのっとって処方する割合が高いためだという。構築されつつある薬剤師の有用性に関するエビデンスは、他州でも薬剤師の処方を導入する動きを生み出している。

日本でも薬剤師自身が薬剤師の有用性のエビデンスを構築しよう

北米では、慢性疾患管理は薬剤師が行った方がよいという考えが珍しくなくなっているという岡田浩氏。「世界で起きていることは、遅れても日本に必ず入ってくる。10年先か20年先かは分からないが、このようなトレンドは知っておいてほしい」と述べる。

岡田氏は、日本で薬剤師がエビデンスを構築していく重要性を指摘した上で、手助けとなるツールが必要だとした。その一例が、The RxING Practice Toolだ。

The RxING Practice Toolは、患者の心疾患リスクの度合いを可視化するツールだ。年齢、既往歴、身長、体重、喫煙の有無、血圧などの患者情報を入力すると、心疾患リスクが表示される()。この画面には、血圧や総コレステロール、HDLコレステロール、喫煙の有無、HbA1cの値を変動できるスライドバーが付いており、数値を上下させることで疾患リスクの高さも変動する。

例えば、患者さんと一緒に画面を見ながら、「たばこをやめたら、心疾患リスクが○%から○%に減りますよ」「血圧を下げれば、将来の心血管リスクがこれだけ下がりますね」などと、患者指導に役立てることができる。患者と面談するたびに入力していくことで、臨床データが蓄積される。

「このツールを使うことで、エビデンスに基づいた情報提供が可能になる。さらに患者データを蓄積することで、日本での薬剤師の介入による有用性のエビデンスを構築したい」と、岡田氏は期待を寄せる。このThe RxING Practice Toolは薬局での臨床研究として、薬局で患者さんに行動変容を支援するプログラムについての研修を参加薬剤師向けに実施後、今年(2018年)5~6月に日本で開始予定だという。

図 The RxING Practice Toolの心疾患リスク表示画面(カナダ版)

okadashi1.JPG
血圧やHDL、HbA1cを動かすと、心疾患リスクが変動する。その患者さんにとって最もクリティカルな要素が分かるので、治療のために何を改善すべきかを把握できる。現在、日本版を作成中。
okadashi_2.JPG

何より住民の健康を守る-日本の医療制度を守るために

本来、急性疾患に対応するためにつくられた医療制度は、慢性疾患患者の急増により医療費の高騰が問題となっており、高齢者が増え続ける先進国では共通の課題である。

そこでカナダでは、医師不足の対策として、軽症の患者および糖尿病や高血圧など安定している慢性疾患患者は医師ではなく薬剤師などが対応するようにしたのだ。

「薬剤師が慢性疾患に対応できなければ、日本の保険医療は持たないのではないか。日本では、薬剤師の職能を発信している人が少ないことも気にかかる。薬剤師が治療に関わることは、遠い世界のことだと思っているかもしれないが、世界のトレンドではそれほど珍しい話ではない。インフルエンザの流行を少しでも防ぐために、先進国ではワクチン接種は薬局で行うようになっている」と、岡田氏は付け加える。

なぜこのようなことができるのだろうか。「医療者の権利よりも、市民の健康を守ることに重点をおいて議論がなされているからだ。『薬剤師の職能を拡大しよう』でなく、『医師の権利を守ろう』でもない。このような議論が日本でも起こることを期待したい」とのことであった。

議論で必要となるのはエビデンスだ。しかし、日本では薬局でのエビデンス構築は始まったばかりである。岡田氏は、「薬局での臨床研究を行い、薬剤師が地域の健康増進に何ができるのかを明らかにする作業をすぐに始めなければならない。研究は結果が出るまでに時間がかかるので、今すぐ行うことが必要だ」と述べた。

最後にTsuyuki氏が述べた「薬剤師にとっての最大の障壁は、カナダでもそうだったように『そんなことはできない。責任を取りたくない』と言う薬剤師自身である。いきなり責任感を持つことは難しいが、成功体験を積むことによって自信が得られ、責任を負う覚悟ができてくる。カナダでもできたのだから、日本でもできると期待している」という言葉が印象的だった。

RxING Registry Japan 説明会
5月12日(土)17:00~21:00 小田原保健センター(神奈川県小田原市)
5月13日(日)14:00~18:00 株式会社ファーコス(東京都千代田区)
5月19日(土)15:00~19:00 阪神調剤薬局(兵庫県芦屋市)
5月26日(土)16:00~20:00 第一薬科大学(福岡県福岡市)
本説明会に関するお問い合わせ、あるいは参加ご希望の方は、下記メールアドレスにご連絡ください。
岡田 浩
bufobufo.ok@gmail.com

編注)2018年4月16日 説明会日時を追記しました。

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