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在庫管理は災害時の想定も

2018年03月16日 10:15

 1月下旬から2月上旬にかけて、休暇で内地上京してきましたが、どこもとても寒かったです。小笠原諸島に長くいると、突然の寒冷な環境には体が慣れません。逆に、春休みに内地から観光で小笠原に来た人は、こちらの暖かさに慣れないかもしれません。観光客でも、体調を崩して診療所を受診する人は多いです。体調を崩しては楽しい旅行も台無し、やはり出先での体調管理には気を付けたいものです。

 さて、3週間薬剤師不在だった父島ですが、医薬品の欠品などは発生しませんでした。看護師さんが発注をしてくれていたものの、今年ドック期間終了後に私が戻ってくる便までの3週間の間(私が出ていく日に発注したものも含め)、医薬品の入荷はありませんでした。欠品が発生しないよう、かつ使用期限切れ医薬品が発生しないように、一体どのくらいの在庫を心がければよいか、今回は私なりの在庫管理の考え方について紹介したいと思います。

目次

  1. 台風などの悪天候時に備える
  2. 離島における災害時に備えた在庫の考え方

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二見港の正面に見える切り立った山が、旭山(撮影時おがさわら丸は出航中)。こうしてみれば港の目の前で近いように見えるのだが、実は山の裏側から登ってこないといけないため、車か原付がないと山頂どころか山頂までの遊歩道入り口にたどり着くことすら難しい。遊歩道入り口の駐車場から山頂まで、徒歩約20分。案内看板によれば旭山の標高は267m。中央山よりはやや低いが、遮るものがなく距離も近いので、港や町がよく見える。ちなみに旭山は北峰と南峰があり、遊歩道が途中で分かれている。北峰は見晴らしが良いが、南峰からは北峰の影になって町がほとんど見えない。

台風などの悪天候時に備える

 私が考える適正在庫は原則として「納品なしで3週間経過した時点で、普段購入している単位の箱が1つ残る量」です。

 例えば、ノルバスク®錠は現在1,000錠入りの箱で購入していますが、処方数の平均などから計算し、3週間経過した段階で1,000錠入りが1箱手つかずで在庫として残っているよう、普段の在庫量を決めます。納品が週に1回なので、2回納品がなくても支障が出ないようにするわけです。

 なぜ3週間なのかというと、まず冒頭にも書いたおがさわら丸のドック期間が3週間です。また、台風などでおがさわら丸が欠航になれば、納品は2週間後になる場合も多いです。数年前、台風で2便連続欠航になって数日後に臨時便が出たことがあり(しかも感染症の流行と同時)、このときは解熱剤や抗菌薬などが不足しました。そうなると2週間分の備蓄では不安が残ります。当然ですが3週間経過時点で在庫がゼロになってもいけません。専門診療の準備にしても、診療期間はぜいぜい数日なので、3週間(つまり平時の3倍処方されると考える)を念頭に置いておけば、明日から専門診療が始まったとしても、概ね乗り切ることは可能だと考えられます。

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旭山(北峰)から見た二見港や町並み。港には"ははじま丸"が停泊中。画面中央やや右に診療所、さらにその右上には私の家の屋根も見えている。この通り見晴らしは非常に良く、どこか景色の良い場所知らないかと聞かれれば、私はこの旭山をいつも勧めている。ちなみに、山頂までの遊歩道入り口にある小さい駐車場は、カーブの先の見通しの悪い所にあるせいで、油断していたら通り過ぎてしまう。日本でも放送されている「ハワイファイブオー」という海外刑事ドラマでは、2年ほど前に「日本の風景」として、なぜかこの旭山から見下ろした父島の映像が使われていた。

離島における災害時に備えた在庫の考え方

 このような在庫管理の考え方は、災害時の備蓄という側面もあります。災害時は島が孤立することも十分にあるでしょう。私は、救援が来るまで3週間を想定しています。村では災害時に備え、さまざまな対策が考えられているようです。

 しかしながら、現時点では「診療所内薬局では、医薬品の何をいくつ備蓄しておくか」について、明確に決まっているわけではありません。災害時の備蓄医薬品について、以前に他の病院の備蓄一覧などを参考に、一覧表を作ってみたりはしたものの、何が必要とされるかは病院や自治体によってさまざまだし、通常在庫と区別して保管すると使用期限の管理が煩雑になります。それだったら「いっそのこと診療所内薬局の医薬品在庫を(期限切れ廃棄が出ない程度に)増やして、在庫すべてが災害時用備蓄を兼ねるようにすればいい、津波が来てもさすがに高台にある診療所は水没しないだろう」と考えるようになりました。

 ちなみに災害といっても、小笠原諸島が災害に遭った場合ばかり考えていてはいけません。おがさわら丸は東京と父島を結んでいるわけですが、東京都内が災害に遭い、おがさわら丸が出航できないケースも起こりうるからです。おがさわら丸が出航不能な場合、小笠原諸島へは自衛隊や海保などが救援物資を運んでくれることもあるでしょうが、東京都内の救援が優先になり、物資が来ないことを除けば平常通りの父島への救援は後回しとなることでしょう。以上のように、「3週間納品なしでも支障を来さないこと」という考え方は、私1人が勝手に想定していることですが、そう見当違いではないと思っています。

 こうして、私の4年以上の父島生活で、何度も欠航やドック期間などで在庫に不安を感じ、失敗もしながら在庫数に関する考え方が確立していきました。

 一方、今回のドック期間は貨物船共勝丸での納品がなく、不在中の注文分と合わせて、私と同じ便で多数の納品が来ました。それを見た事務さんから「少し発注を控えてください」と注意を受けてしまいました。欠品が発生すれば、在庫管理の不備を責められるわけですが、欠品なしで乗り切れたとしても「これだけの在庫があったから助かった」という認識にはつながりにくいものです。在庫管理をきちんとしていれば、欠品や期限切れ廃棄など本来発生しないのが当たり前だからです。

 現状では廃棄ロスの大部分は「ほとんど使わないけど、ないと困る」救急用の注射薬や抗菌薬で、外用薬、内用薬の期限切れ廃棄はほとんど発生していません。しかしながら3週間の備蓄という想定は、明確に数字で根拠を示せているわけでもありません。このあたり、医薬品の在庫管理というのは薬剤師が1人でやっているわけですし、他職種からは見えにくいので難しい所だなと思います。

 結局のところ毎週きちんと在庫を把握した上で、天候や災害をうまく「予想」し、専門診療やドック期間などでその都度在庫を増強する方が、平時の在庫を圧縮できることは確かです。おそらく前任の薬剤師さんはそのような在庫管理をされていたと思います。

 しかしその「予想」は、私にとっては非常に困難なものでした。次の薬剤師さんはまた別の考え方をされると思いますが、私流の在庫管理方法は、きちんと次の薬剤師さんへ伝えることができればいいなと思っています。

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旭山への遊歩道は、最初は鬱蒼と茂る森の中を進むが、山頂が近づくとこのように一気に視界が開ける。ここも周囲の植生は明らかに内地とは異なっている。ここに限らず、父島にある眺望の良いスポットは、雨上がりはぬかるんで滑りやすいし、ごつごつした石や岩が露出していて足場の悪い場所も多い。くどいようだが、怪我などしないよう十分に注意したい。

【コラムコンセプト】
僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。

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