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第8回 初めてのテレビ取材

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2018年04月02日 08:00

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突然の依頼

 久賀島の説明会の数日前のことです。いつもお薬説明会を一緒に回ってくれている井上広平先生から電話がありました。

「地元のケーブルテレビの方から、お薬説明会を取材させてほしいって頼まれましたけど、どうしますか?」

 まぁ、断る理由はありません。聞くと、撮影は当日だけではなく事前にいろいろなシーンを撮影するとのことでした。最初は説明会における内容の打ち合わせをしているところ、次は番組の間にスポットで入る番宣です。2人で少しセリフ合わせをしてから本番です。少し緊張気味ですが、カメラマン兼ディレクターのお姉さんにおだてられながら、無事終了。翌日は、仕事をしているところを撮らせてくださいと、それぞれの薬局で撮影もありました。そしてお薬説明会当日を迎えます。

goto8_interview.jpgインタビューに答える井上先生

またまた突然の報告

 お薬説明会の朝、井上先生からまた突然の報告がありました。

「フランスのコルシカ島在住で、レジオンドヌール勲章も受けておられる松井守男画伯が、久賀島にアトリエを構えているんです。その画伯が、お薬説明会に参加したいと言っているんですが、一緒にお連れしてもいいですか?」ちょっとびっくりですが、これもお断りする理由もありません。

 というわけで、海上タクシーの方にお借りした軽自動車に、私と井上先生、ケーブルテレビのお姉さんに松井画伯、それに機材も大量に乗せて、パンパンの状態で久賀島の会場へ向かうことになりました。

水をたくさん飲むと薬が薄くなる?

 今回のお薬説明会は2本立てで行います。午前は久賀島公民館、午後から大開公民館での開催です。午前の会場は、昨年、場所を間違えたところです。今度は間違えません。会場に到着すると、既にたくさんの人が待ってくれていました。皆さん、松井画伯とは顔見知りのようで、気さくにいろんな話をされています。

 さて、松井画伯をゲストに迎え、撮影の準備も整ったらお薬説明会のスタートです。今回は、軽快な関西弁の井上先生が説明担当で、私は実験の担当です。まず、カプセルを少量の水を付けた指で触るペタペタ実験です。

「こんなになっちゃうと困るので、薬は多めの薬で飲んでくださいね〜」

 すると住民からは「大丈夫。俺、水なしで飲むの慣れてるから。上手かっぞ〜!」いやいや、だから〜と話している最中に、横から松井画伯が「水をたくさん飲んだら、薬が薄くなるんじゃないの?」なるほど、そんな考え方があったのか、新鮮です。「確かに薄くなる感じはするかもしれませんけど、身体に吸収される薬の量に変わりはないんですよ」

フランスの水は?

 次は、お茶と鉄剤の実験です。お茶が真っ黒に変わると「オーッ!」と、お約束の歓声が上がります。このシーンはケーブルテレビでもアップで放映されたらしく、後日も番組を観た私の患者さんたちからも大反響でした。

goto8_tea.jpgお茶と鉄剤の実験風景、大開公民館での様子

 会場の皆さんたちからは、いろんな質問が飛んできます。そして、松井画伯からは「フランスの水は硬水だけど問題ないの?」さすがにフランスの水のことまで頭にありませんでした。次回からは、外国のミネラルウォーターの話も加えることにします。

フランスにはお薬手帳はない?

 そしてお薬説明会の最後に、お薬手帳のことを説明します。この島には診療所はありますが、お薬手帳は配布されていません。「お薬手帳を持ってきていますので、必要な方には差し上げますよ」というと、皆さん手を出してくださいます。松井画伯も同様です。フランスには、お薬手帳はなさそうです。皆さん、初めて手にするお薬手帳に興味津々です。

goto8_okusuritecho.jpgお薬手帳を受け取る松井画伯

 お薬説明会が終了したら、昨年同様、大量の豆類を湯がいたものが出てきて、松井画伯も交えて楽しい懇親会のスタートです。その間に、皆さんさまざまな質問を投げかけてくださいます。

「薬はだいたい麦茶で飲むようにしちょっけど、よかっかな?」これに対して「麦茶には、一般的にカフェインとかは含まれていませんけど、CMでも言っているように、ミネラルがとても豊富です。薬に影響を与えることがあるので、注意したほうがいいかもね〜」と説明することにしました。

 またある人は「夕方、血圧を測ってから夕食後の薬を飲むかどうか決めてるけど、そっでよかかな?」とのこと。なるほど、いろんな人がいます。さすがにそれは止めてもらいました。

次はカラオケを

 午前の部の終了後、画伯のアトリエにお邪魔しました。絵を見せていただいた後はアトリエでお弁当。なんだかいつもより豪勢に感じます。

 食べ終わったら、次は大開公民館です。こちらの撮影も順調で、参加者たちも取材を受けていました。皆さん、さすがに年の功で、おべんちゃらも上手です。「よく分かった〜」「楽しかった〜」本音は分かりませんが、カメラが回っていないときに「他の人には聞かれんばって、あんただけに」といろいろ相談してくださるばあちゃんもいますし、帰り際には「今度はカラオケばすっけん、1時間早ぅ来んね」と言ってくださったのは、本音と取っていいのかな、と、ちょっと嬉しくなりました。

さて、次はどの島に行きましょうか。

五島曳船詩・久賀島 牢屋ろうやさこ

この島には奇跡の祈りをつないできた人々がいる

 久賀島を訪れた時、必ず真っ先に訪れる場所がある。そこは「五島崩れ」と呼ばれる隠れキリシタンが迫害にあった場所の1つで、牢屋ろうやさこという。

 かつて6坪ほどの小屋に200名ほどの信者が閉じ込められ、棄教を迫られた。信仰を捨てなかった者たちの多くは命を落とし、その様子が「信仰の碑」の前に並べられる墓石のような石に、ひとりひとりの名前と共に刻まれている。

「これからパライゾに行くから 父さんも 母さんも さようなら」10歳の少女である。

goto8_stone.jpg殉教者の名前が刻まれた墓石のような石

 その背後には、こちらを圧倒するがごとく木々が立ち並ぶ。かつて小屋があった場所には、牢屋の窄殉教記念教会が建ち、内部には小屋の位置が記されている。ここには揺るがない強い心と魂が眠っている。

goto8_rouyanosako.jpg牢屋の窄 信仰の碑

 何がここまで人の心を強くするのか私には知るすべもないが、この島には、その心を大切に、そして静かに守りつないできた人たちがいることを忘れてはならない。その者たちは木造の美しい浜脇教会を建て、牢屋の窄で亡くなった者たちの魂に祈りを捧げ続けた。その教会は、1931年に久賀島の五輪地区に移築され、旧五輪教会と呼ばれている。

goto8_church.jpg旧五輪教会

 遺された者たちは、おそらく言葉では言い表せないほどの差別と偏見を受けながらも、先人の教えを受け継ぎ、そして祈りを続けてきたであろう。それは奇跡と言っても過言ではないはずである。旧五輪教会は、平成30年現在、世界遺産候補の1つとなっているが、この教会という建物よりも、守り続けられてきた、この祈りこそが大切な遺産なのだろう。そして、訪れるものに、信じることの尊さや、人を想う心を感じさせてくれるはずである。

 この島には奇跡の祈りをつないできた人々がいる。

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キリシタン墓地

 

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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