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「この街で生き、そして逝く」を支える

薬剤師、市民団体の立場から在宅NSTを考える

2018年04月12日 18:30

 在宅医療とは地域に患者を戻すことである。ところが地域には、病院のような至れり尽くせりの機能はない。認知症者を含む超高齢世帯や独居世帯の増加は、食事や買い物、通院などの患者の日常を誰が支えるのかという問題を提起した。栄養サポートもその1つだ。

 第33回日本静脈経腸栄養学会(2月22〜23日)のシンポジウム「病院NSTから在宅・地域連携NSTへ」から、株式会社ヤナセ薬局在宅医療部(豊田市)の柴田賢三氏、一般社団法人みんなの健康サロン海凪(みなぎ)(輪島市)代表理事の中村悦子氏の講演を紹介する。柴田氏は、多くの場合、管理栄養士のいない在宅チームで薬局薬剤師が栄養サポートを担う経験を報告。看護師でありNST専門療法士でもある中村氏は、市民間の共助のプラットフォームになる組織づくりの現状を説明した。

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"食"の提案機能を持つ薬剤師を目指す

 在宅医療を担う薬局は増えているが、在宅NSTの一員として活動する薬局薬剤師は少ない。ヤナセ薬局は1941年の創業で、在宅医療部も2000年設立と長い歴史を持つ。現在は専任薬剤師4人と兼任1人で在宅のさまざまなニーズに対応しているが、そこで在宅NSTに取り組む柴田氏の取り組みを紹介する。

 同氏が強調するのは、在宅では病院のような専門性の高いNSTは提供できないという点だ。患者ごとに集まったメンバーで、固有の栄養サポートを追求していくしかない。自宅で最期を迎えることを希望する患者の増加で、症状に応じた可変的な栄養サポートが求められるようになった。その中で同氏は、経口摂取へのこだわりを持ち続け、薬剤師として食べることのサポートができないか、日々追求している(表1)。

表1.薬剤師の視点に基づく在宅NSTの考察

  • 病院内のような独立したNSTを稼働することは難しい→患者ごとに結成された在宅医療チームが栄養管理も行う必要がある
  • 自宅で最期までを過ごす患者の増加→その時々に応じた可変的な栄養管理への対応が必要
  • 経口摂取へのこだわりを持ち続ける→食べることを常に念頭に置いた関わり

(柴田賢三氏提供)

 例えば同薬局の在宅ワークシートには、①栄養管理上の合併症②MNA(Mini-Nutrition Assessment)による栄養評価③HBE(Harris-Benedict Equation)による投与組成・投与量の記入欄―が設けられている。

 在宅NST薬局に求められる機能としては、①完全24時間対応②輸液管理システムの整備③医療・衛生材料の提案・提供④医療用麻薬や輸液製剤の処方設計・無菌調剤・供給・指導⑤薬剤使用状況の把握・評価・情報共有⑥通院カンファレンスへの参加―などがある。②では、経腸栄養用や静脈栄養用、疼痛緩和用などの注入ポンプをレンタルし、総合的輸液管理を行っている。③については特定保険医療材料への対応は当然で、重要なのは個々の患者や他職種の利便性に即した、それ以外の材料を供給することだという。また、⑤に基づいて医療機関と認識を共有することで、ポリファーマシーを改善て、経口摂取が可能になった例もあるという。

 ところが、同氏は「こうした取り組みを6年間やってきたが、満足いく結果は得られなかった」という。なぜなら終末期患者の「食べたい」と言う希望に対し、「食べやすいものを食べてください」という当たり前の返答しかできなかったからだ。今後は、「少しでも食べる楽しみを味わいたい」「今の食事にもう少しだけ何かを付け加えたい」といった声に対して、少量で高カロリーあるいは高蛋白の栄養食・流動食・介護食を勧めるなど、食に関わる提案機能を強化しようと考えている。

食支援ができる居場所をつくる

 在宅医療とは患者を地域に戻すことであり、そこで生じる高齢者の生活支援や見守りなどの多様なニーズを満たすには地域住民の協力が不可欠である。そうした視点から中村氏は、「みんなの健康サロン海凪」を創立し、市民団体として在宅NSTの実現を目指している。

 同氏は、NST専門療法士の資格を持つ看護師である。市立輪島病院で訪問看護に携わりながら、NSTの一員として働いてきた。退院時に適正な食形態、栄養補助食品、口腔ケア用品などを説明して継続的な栄養ケアを促したが、再入院例が目立つため、フォローアップの不十分さを痛感していた。そこで、退院した地域住民が適切な栄養ケアを続けられる仕組みをつくるため、2015年に歯科開業医とともに、「みんなの健康サロン海凪」を設立したのだという。

 海凪のスタッフは看護師1人、介護職2人、歯科医師1人、有償ボランティア1人、ボランティア数人である。市内のショッピングセンターの空き店舗を借りて運営している。活動内容は、福井の紅谷浩之氏の「みんなの保健室」ののれん分けである「みんなの保健室わじま」、食支援を行う「みんなのカフェわじま」、有償ボランティアが外出支援や通院介助を行う「キャンナスわじま」、介護保険・医療保険適用の訪問看護ステーションの4本柱が連携しつつ、地域患者のニーズに応える形を取っている。

「みんなの保健室わじま」は、医療と介護の無料相談や指先血液検査、栄養アセスメントなどを行い、出前でがんサロンや認知症カフェなどの啓発活動をしている。

「みんなのカフェわじま」では、栄養バランスを考えた日替わりランチをワンコイン(500円)で提供、口腔ケア用品や介護食、栄養補助食品も販売している。吸引器を設置し、キザミ、トロミ、ミキサー食に対応可能で、摂食・嚥下関連医療資源マップの飲食店部門にも登録された。こどもCaféも併設し、中学生以下には300円ランチを出し、宿題をしても待ち合わせに使ってもよい場所として開放している。

 輪島市は人口2万7,502人で、毎年減少が続いている。高齢化率は43%で、今なお上昇中である。こうした街で「生きたい」「逝きたい」と願う患者をいかに支えるか。「地域での高齢者の居場所をつくり、栄養難民、リハ難民を生み出さない取り組みが急務だ」と、中村氏は強調している(表2)。     

表2.地域の看護師の視点から見た介護予防と生活支援

  • 病院に頼らない身体づくり
  • 入院治療が終わっても、障害が残らない身体づくり(医療の前)
  • 障害が残っても受け入れられる地域づくり(医療の後)
  •         ↓
  • 栄養の過不足の調整と運動の推奨
  • 栄養難民・リハ難民をつくらない
  • 孤独の回避→社会参加・居場所づくり
  • 1人はいいけど独りぼっちにしない!

(中村悦子氏提供)

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