カナダと日本での経験から薬剤師業務を考えてみた by青山慎平

カナダの保険調剤のシステム

~持続可能な医療制度のための3本柱~

  •  2018年04月17日 10:00

 こんにちは。カナダの薬剤師事情を紹介している青山です。

 カナダの冬と聞くと「雪が降って寒い」というイメージがあると思いますが、ここバンクーバーでは、雪よりも雨の降る割合が非常に多く、1週間のうち1日でも晴れの日があればラッキー、というような天気です。それだけ雨が多いので、雨が降っても傘をささずにフードだけで凌ぐ人も多いです。

aoyama12_1.jpg雨の日のバンクーバー

 最近日本では、漢方薬の自己負担額の引き上げ案が議論されていると聞いています。漢方薬の自己負担額引き上げの是非は置いておくとして、これは「薬剤ごとに自己負担率を変更する」というシステムに基づいており、既にこのシステムを保険調剤に取り入れている国もあります。つまり、国レベルで費用対効果の高い薬剤の使用を推進し、医療費の削減を目的としています。

 このシステムは、医療費の増加が大きな問題となっているカナダにおいても取り入れられており、医療費を削減し、保険医療を持続するために役立っています。今回は、その中の保険調剤のシステムについて紹介します。

 カナダでは薬剤の承認時、国または州ごとに、それらの自己負担率が決定されます。そして、ブリティッシュコロンビア州では下記の3つの考え方が、選択基準として導入されています。

1.Limited Coverage Drug Program

 ガイドラインで第一選択薬ではない薬剤、また第一選択薬であっても低コストの代替薬のある薬剤は、保険適用としない考え方です(専門医は例外あり)。

 例えば、糖尿病の治療薬では、メトホルミンや一部のSU薬、NPH(中間型)インスリンは保険適応となる一方で、DPP-4阻害薬やチアゾリジン系薬などは保険適応になりません。ただし、保険適応薬が効果不十分であった場合や副作用が出現した場合など、保険適応外の薬剤でも申請すれば使用できることがあります。

2.Referenced Drug Program(リファレンスドラッグプログラム)

 同薬群の中で、最も費用対効果の高い薬剤を保険適用とする考え方です。

 例えば、ACE阻害薬群では、最も費用対効果の高いラミプリルのみが全額保険適用です。一方で、その他のACE阻害薬を使用する場合には、ラミプリルを基準とした差額分を自己負担する必要があります。このように、慢性疾患の治療において費用対効果の高い薬剤の使用を推進するための考え方がReferenced Drug Programです。

表: リファレンスドラッグプログラム

aoyama12_3.jpg現在は8領域でこの考え方が取り入れられている

3.Low Cost Alternative Program

 同成分で最も安価な薬剤の使用を推進させるための考え方です。日本と同じようにカナダでも、患者が先発品または後発品を自由に選べるのは同じです。しかし、先発品後発品を含め、最も安価な薬剤との差額分を患者が負担する必要があります。

aoyama12_4.jpg最も安価な後発品Aの500円が保険で支払われる。
それを越える額は全額患者負担になるので、どの薬剤を患者が選んでも国の負担額は変わらない

 これら3つの考え方が「薬剤ごとに自己負担率を変更する」システムの柱になっています。このシステムのおかげで、薬局は保険適応薬剤を中心に採用することができ、日本の薬局と比べ、薬剤の在庫品目は少ない印象があります。

 また、これらの考え方は医療費の削減だけでなく、より「エビデンスに基づいた薬剤選択」に貢献していると言えます。自己負担率を決定する際に、臨床経験豊富な医師や薬剤師が、これまでのエビデンスや実臨床での必要性を加味しています。

 医療者側からすると選択肢が制限されているように感じますが、現場の医療者はガイドラインに半強制的に従う形になり、患者にとっては適切な治療を受ける権利が守られているといえるでしょう。

 逆に日本では、ガイドラインやエビデンスによる処方制限は無く、医師の責任下であれば、どのような薬剤でも処方可能です。すなわち、医師個人の能力差が治療効果に影響を与えやすいとも言えます。

 したがって、日本の薬剤師は、より積極的に、適切な治療薬の選択に介入していくことが重要だと思います。

aoyama12_2.jpgノースウエスト準州の州都イエローナイフ。
オーロラ帯のほぼ真下に位置しているので、年間を通してオーロラの出現率が高い。

【コラムコンセプト】

薬剤師を取り巻く環境は日本と海外で違う。しかし、やっていることは本質的には同じ。患者のために薬を調剤し、鑑査し、投薬 (服薬指導) する。そして、その薬物療法を評価し、医師や他の医療従事者とより良い治療方法を再考していくこと。カナダの薬剤師事情を紹介しながら、日本での業務に取り入れられる方法を考えるコラム。

【プロフィール】プロフィール写真.jpg

1986年生まれ。名城大学薬学部卒。日本の病院薬剤師、調剤薬局、ドラッグストアで勤務した後、カナダへ留学。スプラットショーカレッジの薬剤師アシスタントプログラムを介し、Loblow pharmacyでインターン研修。2015年ブリティッシュコロンビア大学(UBC) CP3コース終了後、2016年カナダ薬剤師免許の取得。

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