Ph.リトーひとり薬剤部from小笠原

小笠原での予防接種

  •  2018年04月23日 10:15

 今年はちょうど上京時期と重なったこともあり、父島で満開の桜を見ることはできませんでした。父島の桜の見ごろはだいたい1月下旬頃ですが、「気づけばもう散っていた」ことも多いです。 これを書いているのは3月中旬。引き揚げまでもう少し、私の部屋からは物がどんどんなくなっていきます。

 小笠原村の場合、薬剤師は村職員になるので、私は退職と同時に職員住宅からも出ていかねばなりません。退去直前に慌てたくなければ、引き揚げの準備をかなり前から始めておく必要があります。

目次

  1. 小笠原からの退去は一苦労
  2. 小笠原での予防接種

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大神山公園は、以前紹介した神社を含めたゾーンの他、町の中心部に沿った海側のゾーンも含まれる。この写真のお祭り広場では各種イベントの他、夏祭りのときは盆踊りが開催されるメイン会場となる。隣接するビーチにはウミガメが産卵に来ることもあるそう。何しろここは「町の裏側、徒歩30秒でたどり着ける平坦な公園」である。ビーチやこの公園は家族連れなどで、いつも利用者が多い。

小笠原からの退去は一苦労

 次の行き先に持っていけないようなものは処分しますが、もし誰か欲しい人がいればあげてしまいます。私の場合、2月から赴任した看護師さんに、家電や消耗品の残りをたくさんあげました。小笠原からだと、車や大型家電などを処分したり持って帰るよりは、誰かにあげた方が結局安上がりなのです。洗濯機や冷蔵庫などは、私も前任の薬剤師さんからもらいました。ここは狭い島、探せば誰かしら「それ欲しいです」という人はいるものです。それに、粗大ごみは月に1回しかない上、ゴミ捨て場所は狭く、あまり一度に多くは捨てられません(クリーンセンターへ持ち込むという「奥の手」はありますが)。

 私の場合、曲者は金属ゴミ。金属ゴミの収集日は毎週木曜ですが、私の撤収日である3月20日は火曜日。15日木曜の朝に金属ゴミを出してしまうと、以後金属は捨てられません。それまでに家電や金属の不要物をすべて捨てないといけないし、それ以後は缶詰も食べることができないし、レンジで加熱すらもできなくなるわけです。誰かに頼んで捨ててもらえばいい話ですが、いくら職場の人とはいえ「他人にゴミを押し付ける」ことは、なるべくしたくないものです。

 荷造り用の段ボールや梱包用の紙は貴重品です(新聞紙は島内でほとんど見かけたことがありません)。これらは納品時のものを取っておくか、通販の段ボールに入っていたものを捨てずに取っておきます。電気やガス、ネットなど各種手続きなどは、昼休みなどを利用して早いうちにやっておかねばなりません。

 家の片付けが終われば、退去日までのどこかで村職員のチェックを受けて、退去完了となります。何もない家では(普通の人は)生活できないので、引き揚げまでの数日は宿をとるのが一般的です。年度末の3月末、宿はどこも満室だと聞いていたのと、私は来たときのサバイバルを経験しているし、引き揚げ当日の朝がちょうど燃えるゴミの日なので不要物は(布団を含め)全て捨てることができます。そこまで計算して宿は取らず、最終日まで職員住宅で過ごすことにしました。

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島の東側、初寝浦。眼下に見えるビーチまでは、道路から遊歩道が続いているが、意外と距離がある。ここもビーチまでの遊歩道入り口がわかりにくく、私はいつも通り過ぎてしまう。ちなみにこのビーチ、吉野(奈良)の脳天大神と並ぶ難所である。体力のあまりない人が、調子に乗って下まで降りていくと、容易にたどり着けるが復路は一転、炎天下を延々と登り続けるという試練が待ち受けることとなる。熱中症で初寝浦から登れなくなって救急車が出動、などということも過去何度かあったので、水の持参は絶対、無理は禁物である。

小笠原での予防接種

 引っ越しの話はこのくらいにして、薬剤師業務でまだ説明していないこととしては、予防接種の点検があります。月に2回程度、小児の予防接種が診療所で行われます。接種は医師が、調剤、接種介助は看護師がやることになっているため、薬剤師の仕事は主に出来上がった注射薬や問診票、母子手帳のチェックとなります。

 回ってきた問診票、シリンジに充填された薬剤、母子手帳を見比べて点検しますが、これがまた気を抜けない業務です。本人のものかどうか、体温は37度4分以下か、問診票の記載に問題はないか、注射剤のロットシールが問診票と母子手帳に貼られているか、使用期限は切れていないか、前回の予防接種から間隔はあいているか、シリンジに不備はないか、などなど注意すべきことは多いです。子供だと一度に2種類や3種類を同時に接種することもあります。問診、調剤などでもチェックはされていますが、何か見落としがあれば一大事です。

 小児の予防接種のみならず、毎年10月ごろから何度か(1~2回は休日に設定されます)、島民を対象としたインフルエンザ予防接種日が設けられます。予防接種点検業務では、このインフルエンザが一番大変で、毎回100人を超える接種希望者がやってきます。狭い島なので、インフルエンザなどの感染症はあっという間の大流行になりかねません。島民の予防意識は、かなり高いと思います。

 薬剤師は、問診票や出来上がった注射剤の点検が仕事になります。カルテ表紙に記載があるのですが、意外と見落としがちなのが「アルコール綿が使えない人」です。予防接種の問診、調剤などは流れ作業で準備し、その都度担当者が確認しているのが建前ですが、接種希望者が100人を超えるような場合、忙しさも尋常ではなく、気を抜けば思わぬ所で見落としが発生するかもしれません。予防接種点検業務も、薬剤師の重要な業務の1つとなっています。

 これまで、小笠原村診療所での薬剤師業務について、長きにわたり紹介してきましたが、業務は多岐にわたり、島特有の事情も絡み、忙しさは想像をはるかに超えるものです。次回がいよいよ最終回、引き継ぎの話などをしたいと思います。

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初寝浦を見下ろすポイントには、旧軍の施設の廃墟などがあり、戦跡ツアーなどで訪れる人が多い。その廃墟の近くにあるのが首なし尊徳像。戦前は港近くの小学校にあったようだが、軍によってこの地に移設され、その後米軍占領下で何故か首だけ持ち去られたようである。人里離れた場所に、このような像があるのは実に異様な光景だ。しかし、首だけ持ち帰って何をする気だったのだろうか。

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ガスや車の名義変更の手続きをした帰り、漁港から足元を覗いてみれば、大きなサメが泳いでいた。漁港内でも時折サメが優雅に泳いでいるのを見かける。特に襲ってきたりはしないが、釣りをしているときに足元に来られると、魚が逃げるので少々困ったことになってしまう。水がきれいなので漁港は海底まで見えることが多く、サメ以外にもエイやウミガメが泳いでいるところも見たことがある。

【コラムコンセプト】
僻地や離島の薬剤師業務って、給料は高いだろうけど、周りに何にもない不便な所で大変そうなイメージがある。それに不便な地で「生活」もしていかなければいけないから結構な覚悟が必要そうだ。......けど実際のところはどうなの?そんな興味と疑問を併せ持つ薬剤師のために、日本で最も行きにくい離島で働く薬剤師が送るコラム連載。良い面悪い面全てを含め、離島におけるありのままの薬剤師業務や生活を、面白おかしくお伝えしていけたらと考える。堅苦しい薬の記事の合間にここを読めば、「私は都会でないと無理だ...」と思っている人も、(保証はできないが)案外すんなり僻地でもやっていけるかもしれない。

【小西良典氏 プロフィール】cfe16ed4007e8fd8d26248d6a2afad043c7a3e9f.jpg
大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。旅行経験から、全国どこの街でも道に迷わない自信がある。趣味は工作、パソコン、料理、ロシア語など多数。最近は、毎日録画をしている昼の映画や海外ドラマを片付けるだけで週末が終わっていく。