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ドーピングを隠すためのクスリ!?

そのクスリ、禁止薬です!

2018年05月10日 08:00

 近年、市民やジュニア選手が出場するスポーツ大会でも導入されるようになったドーピング検査。アンチ・ドーピングの知識はオリンピック選手に限らず、全てのアスリートにとって必須のものになっています。スポーツファーマシストではないけれどアスリートの役に立ちたいと考える薬剤師T子を中心に、実務で押さえておきたいアンチ・ドーピングに関する情報をお伝えします。

登場人物.PNG

今回学ぶこと

  1. 他の禁止物質の使用を隠す隠蔽薬(S5)

  2. 利尿薬とARBの合剤、痛風治療薬のうっかりに注意!

  3. おさらい:隠蔽薬(S5)

他の禁止物質の使用を隠す隠蔽薬(S5)

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これまでに蛋白同化薬(S1)糖質コルチコイド(S9)ホルモン調節薬(S4)ベータ2作用薬(S3)について勉強しました。ドーピング違反になる禁止物質の捉え方は、薬剤師が慣れ親しんでいる分類名や分類方法とは違う場合があるのよね。禁止表にある「隠蔽(いんぺい)薬」という分類、これも聞き慣れない名称なんだけど。

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ドーピング特有の分類なんだ。禁止物質には、競技能力の向上に直接影響を及ぼすもの以外に、他の禁止物質の使用を隠す働きがある物質も含まれていて、隠蔽薬と呼ばれている。具体的に【表】に示そう。

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利尿薬とARBの合剤、痛風治療薬のうっかりに注意!

S男.PNG

最近は、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)と利尿薬(ヒドロクロロチアジド)の配合剤が複数販売※1されているから、うっかりドーピングに注意が必要だ。実際、高血圧治療のため、プレミネント(ロサルタンカリウム・ヒドロクロロチアジド配合剤)を禁止物質と気付かずに服用してしまった2010年の違反事例がある。

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高血圧や痛風など、よく出る薬にも禁止物質が含まれる場合があるのね。

痛風治療薬は全て使用禁止なのかしら?

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いや、痛風治療薬(尿酸排泄促進薬)の中で禁止されているのはプロベネシドだけ。その鍵はトランスポーターだよ。プロベネシドは、OAT※21、OAT3活性を阻害して、アニオン性医薬品の腎からの排泄を阻害する。蛋白同化薬のグルクロン酸抱合体など、禁止物質の有機アニオンの排泄を阻害するため、使用が禁止されているよ。他の痛風治療薬はOATを介さないため、このような作用はないんだ。

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プロベネシドにこんな作用があったのね。今まで見えていなかった作用だわ。

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ドーピングという視点から薬を見ることで、薬の別の側面を理解することができるよ。

※1 プレミネント®、コディオ®、エカード®、ミコンビ®、イルトラ®などがある。

※2 OAT(organic anion transporter)は、腎臓の細静脈から有機アニオン(負電荷を持つ化合物群)を取り込み、尿細管へ移動させる働きを持つ。

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隠蔽薬(S5)

隠蔽薬の種類

薬理学的には「隠蔽薬」という分類はないが、利尿薬、痛風治療薬(尿酸排泄促進薬)、血漿増量物質、抗利尿ホルモンなどが該当する

利尿薬がドーピング物質として禁止される理由

  • 尿量を増加させ、尿中に排泄する禁止物質や代謝物の尿中濃度を下げて禁止物質の検出を隠す
  • 柔道、ボクシングなどの体重別種目で、体水分の排泄を促して減量し、有利に導く

禁止されている利尿薬

アセタゾラミド、ブメタニド、フロセミド、インダパミド、スピロノラクトン、チアジド類(クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド等)、トリアムテレン、バプタン類(トルバプタン等)。

ただし、ドロスピレノン、眼科用に使用される炭酸脱水酵素阻害薬のドルゾラミド、ブリンゾラミド等は除く※3

※3 ドロスピレノン(黄体ホルモン)は、化学構造がスピロノラクトンに類似しているためごく弱い利尿作用を有するが、禁止物質から除外されている。ドルゾラミド、ブリンゾラミドは緑内障治療点眼薬として用いられる。腎上皮において炭酸脱水酵素の働きを抑制し、Na+、HCO3-の尿細管からの再吸収を抑制することによって利尿効果をあらわすが、局所使用は禁止されない。

 

痛風治療薬がドーピング物質として禁止される理由

併用している薬物の尿中排泄阻害作用があり、禁止物質の検出を隠す

禁止されている痛風治療薬

プロベネシド

 

血漿増量物質がドーピング物質として禁止される理由

血漿量を増やし、禁止物質の検出を隠す

禁止されている血漿増量物質

アルブミン、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン、マンニトールのいずれも静脈内投与など。

血漿増量物質は「浸透圧利尿薬」と「血漿増量薬」に分類され、前者はイソソルビド、マンニトールなど、後者はアルブミン、デキストランなどが該当する。グリセロール(浸透圧性利尿薬)は、隠蔽効果は軽微であると考えられ、2018年より禁止表から除外された。

 

抗利尿ホルモンがドーピング物質として禁止される理由

血漿量を増やし、禁止物質の検出を隠す

禁止されている抗利尿ホルモン

デスモプレシン。ただし、歯科麻酔におけるフェリプレシンの局所投与は除く

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