薬剤師目線で考える 今月、世間を賑わした健康情報

「不要な薬を返すので、返金して欲しい」と言われた時は

健康保険法上の解釈と対応

  •  2018年05月24日 08:00

 「不要な薬を返すので、返金してほしい」

 薬局には、しばしばこう言って薬を持参される方がおられます。しかし、不要な薬を回収して適切な方法で廃棄することはできますが、「返金」することはできません。「納得いかない」と食い下がる方もおられますが、法律上、返金は不可能です。

 患者さんからの問い合わせや要望に回答できるよう、薬への返金が出来ない理由、対応方法について一度おさらいしてみましょう。

この記事で学ぶこと

  1. 「返金」に応じられない法律上の理由

  2. 未使用医薬品の再利用は品質劣化や異物混入リスクによりNG
    しかし、その説明では、納得してもらえないことも

  3. 「薬が余る」に潜む、薬の使い回しや自己判断による減薬に注意

「返金」に応じられない法律上の理由

薬の受け渡しは診察や治療と同様、返金できる性質のものではない

 調剤薬局で行われている「処方箋に基づき調剤し、薬を渡す」という行為は、単なる商品の売買ではなく、健康保険法上の「療養の給付」として、診察や治療と同様に位置付けられています。

※療養の給付 1)
健康保険の被保険者が業務以外の事由により病気やケガをしたときに、健康保険を使って治療を受けること。
 a.診察
 b.薬剤または治療材料の支給
 c.処置・手術その他の治療
 d.在宅で療養する上での管理、その療養のための世話、その他の看護
 e.病院・診療所への入院、その療養のための世話、その他の看護

 既に行われた診察や治療を、さかのぼって「無かったことにする」ことができないのと同様、調剤薬局で「療養の給付」として渡した薬についても、返金できる性質のものではないと法律上解釈されています2)

医療用麻薬は返却してもらう義務があるが、返金はできない

 容態が変わった、使用している患者が亡くなったなどの理由で医療用麻薬が余った場合、患者やその遺族は余った医療用麻薬を返却する義務があります。調剤済みの医療用麻薬は、管理薬剤師が、 他者立ち合いの下、回収が困難な方法(焼却・放流・酸やアルカリによる分解など)で適切に廃棄し、30日以内に調剤済麻薬廃棄届を提出しなければならないからです3)

 この場合も、患者や遺族に対して「返金」することはできません。

未使用医薬品の再利用は品質劣化や異物混入リスクによりNG
しかし、その説明では、納得してもらえないことも

 未使用の医薬品を返品され、「全く手を付けていないから、再利用できるだろう」と言われたことはありませんか?

 いったん薬局から外に出した医薬品は、家庭における管理状況が不明ですし、別の流通経路からの医薬品と混ざってしまう、製造ロット番号がわからなくなってしまうなどのケースが起こり得ます。たとえ渡してから数分程度しか経過していなくとも、その医薬品に対する「異物混入のリスク」も考えなければなりません。さらに、血液や体液が付着していた場合は感染症のリスクにも繋がります。

 患者さんの「手をつけていない」「きちんと管理していた」「異物混入などしていない」という主張はもっともなのですが、それを品質の根拠とし、返品された医薬品を再び流通に乗せることは、医薬品の適正な流通を司る薬剤師として絶対にできることではありません。

 こうしたリスクを伝えると「自分をそんなに信用できないのか」「そんな悪いことをする人間だと思っているのか」と、逆上されてしまう場合もあります。そういった兆しがある場合は、「法律上できないのです」と、端的に説明する方が適切です。

「薬が余る」に潜む、薬の使い回しや自己判断による減薬に注意

 薬が余った、でも「返金」はしてもらえない。じゃあ、家族・兄弟・友人間で使い回そう、と考える人も少なくありません。
 医薬品を使ったことで大きな副作用に見舞われた場合、医薬品副作用被害救済制度によって年金支給などの補償を受けることができますが、この制度を受けられるのは「薬を適切に使用していた場合」に限られます。たとえ家族のものであっても、他人に処方された薬を使って起こった副作用では、対象外になります4)

 万が一の時に補償が受けられないといった事態を防ぐためにも、他人の薬は絶対に使わないよう注意喚起が必要です。

 また、「不要な薬を返すから返金して欲しい」という患者さんの中には、「不要」と自己判断されている方がいます。「なぜこの薬が必要なのか?」を理解しないまま間違った取捨選択をすると、病状の悪化や副作用といった不利益を被る恐れがあります。
 薬を飲みたくない、減らしたいという患者さんの希望は尊重すべきですが、医師・薬剤師と相談の上で、正しい優先順位で薬を減らさなければなりません。本当に不要かどうか、患者さんはなぜ不要と考えたのか、「返金」を求める背景にも考えを巡らせる必要があります。

1) 全国健康保険協会「健康保険ガイド「療養の給付」」
2) 日病薬発第16-341号 平成17年1月27日付
3) 麻薬及び向精神薬取締法 第29条、第35条
4) 独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」 医薬品副作用被害救済制度に関するQ&A

(関連記事)
3月後半の押さえておきたい健康情報

【コラムコンセプト】
TV・新聞・週刊誌・インターネット......毎日さまざまなメディアから大量の健康情報が配信されます。それを見た患者さんが「こんな情報を見たけれど、私の治療って大丈夫?」と聞いてきたらどうしますか?医療や薬に関する情報は、命に関わるもの。正確さ、専門性が求められます。薬剤師は薬の専門家として、患者さんの持ち込んだ情報が適切かどうかを判断し、対応しなければなりません。このコラムでは毎月、世間を賑わした健康情報をリストアップし、必要に応じて解説します。患者さんからの突然の質問に困らないよう、情報収集の一手として役立てて頂ければ幸いです。

fabf9fbe.jpg

【児島 悠史氏 プロフィール】
京都薬科大学大学院修了後、薬局薬剤師として活動。「誤解や偏見によって生まれる悲劇を、正しい情報提供と教育によって防ぎたい」という理念のもと、日々の服薬指導のほか、Webサイト「お薬Q&A~Fizz Drug Information」を運営。医学論文などを情報源とした信頼性のある医療情報や、国民の情報リテラシー向上を目的とする記事を配信。近著は、「薬局ですぐに役立つ薬の比較と使い分け100」。