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最終回 報酬改定で業界再編の主役は中堅薬局に

2018年05月31日 10:00

最終回 報酬改定で業界再編の主役は中堅薬局に

株式会社日本M&Aセンター
業界再編部 調剤薬局業界担当
小林大河

2018年度診療報酬・調剤報酬改定では、全体として大手調剤グループの点数の減額幅の拡大と、対物業務についていた加算が今まで以上に対人業務に加算されるようにシフトされた。これらの改定が薬局経営者に驚きをもたらした一方で、すでに2020年の改定を見据えて動き出している経営者も少なくない。

塩崎恭久厚生労働大臣の「57,000軒の薬局についても全て残すわけではない」という発言は、改革の第一歩としてのターゲットが「大手チェーン」であったというだけで、今後は中堅・中小薬局も他人事ではないだろう。大手チェーン上位10社を集めてもシェアは14%程度で、残りの86%の薬局が次回以降の改定対象になるということは想像に難くない。つまり、今回の改定の影響が少なかった中堅・中小薬局も安心してはいられず、むしろこの期を逃さずに次の改定への対応策を練る必要があるのではないだろうか。

既に動き出した中堅薬局は、選択と集中を真剣に検討しているように思える。地域を定め、良い案件に集中して店舗を出店し、自社の顧客基盤をつくる。一方、飛び地にある店舗や将来人口減が見込まれる地域の店舗は、独立希望の薬剤師に任せたり、事業譲渡で他社に譲ったりすることで、財務基盤を安定させ次の10年を生き残れる体制をつくろうとしている。

M&A市場でも変化が起きている。譲渡オーナーは、誰もが知っている大手調剤薬局に譲りたいというケースが多かったため、大手調剤薬局がバイサイド(buy side、買い主側)のメインプレーヤーであった。しかし、2016年の改定で、処方箋受付回数が月4万回以上の大手グループに入ると基本料が減額されるようになったことや、今回の改定で40万回以上の企業が更なる減額を余儀なくされたことにより、その構図が変わってきた。中堅薬局がM&Aのバイサイドのメインプレーヤーとなりつつあるのだ。

実際、当社の仲介案件でも、2016年はバイサイドにおける大手調剤薬局の割合はおよそ7割であったが、2017年度はおよそ3割に減り、7割が中堅薬局という逆転現象が起きている。しかしながら、その内訳を見ると、実際に買収を実現できているのは一部の中堅薬局に偏っている。

買収を実現している企業は、社内でM&Aの予算をしっかり策定し、ファイナンスの方法を固め、案件に対して明確な基準をつくっている。案件の検討において、もっとも大切なのは決裁のスピードである。どれだけ慎重に検討したとしても、リスクを完全には排除しきれない。数カ月かけて検討し、さあ価格提示だという頃には、他社がすでに価格提示し、交渉が終わってしまっているということも多い。金額の条件が他社より低くても、スピード感を譲渡オーナーに買われてM&Aの相手先として選ばれることもあり、結果として、投資金額を抑え優良な案件を獲得することにつながる。

それゆえ、事前に体制を整えておくことが、中堅企業のM&A戦略成功のポイントなのである。やみくもに情報を集めて検討をするのではなく、まずは社内の考え・基準を明確にし、スピード感をもって決断できる体制を構築していくべきであろう。

総括~次の10年に向けて

これまでの連載で、調剤業界の再編ステージが明確に変わったことを伝えてきた。過去の10年間で、国がリーダーシップを取って理想の薬局像をつくり、その方向に報酬改定で誘導し、「どの薬局に行っても似たような価格で同じサービス」を受けられるようになった。次の10年で、国は、高度薬学管理機能・かかりつけ・在宅・健康サポートなど、それぞれの薬局ごとに機能を変えていく方向に舵を切ったが、果たしてどの企業が調剤業界のマーケットリーダーになり、薬局はどのような姿になっているのだろうか。

一方で、この10年で業界再編が進行し大手調剤グループができあがった。アインファーマシーズは若い女性向けのアインズ&トルペ、日本調剤は後発医薬品製造事業、クオールはローソンとの連携、メディカルシステムネットワークは薬局ネットワークなど、国の求める最低限のサービスを超え、それぞれの特徴を生かした独自のモデルをつくり上げている。ドラッグストアも調剤薬局事業に本格的に参入し、小売のノウハウを最大限に生かし、1つのモデルを確立しようとしている。

独自の薬局づくりをしているのは大手調剤グループに限った話ではない。中堅薬局の中で新たなモデルを作り上げた例として、当社で仲介した千葉県のハーブランド薬局がある。ハーブランド薬局は、グループで8店舗を持ち、数十施設から処方箋を受けていた。小塩社長は、20年前から薬局のあるべき姿を考え続け、地域医療に貢献するために、薬局のみにとどまらず自社で訪問看護・訪問介護・針灸施設を運営し、包括的な地域医療のプラットフォームをつくり上げた。その結果、ハーブランド薬局には報酬改定ごとに新たな加算がつき、増収を実現している。

スーパー、ドラッグストア、ホームセンターなど再編が進んだ業界では、大手は良質のサービスを低価格で提供し、中堅は地域の細かなニーズにあったサービスを提供することで高付加価値を創出している。報酬改定や国の方針によって、「在宅を始めなければいけない」「かかりつけ薬局にならなくてはいけない」という考えではなく、今こそ本来の薬局のあるべき姿をそれぞれの経営者が考え実現していく時代が来ているといえるだろう。

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