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第10回 教会でのお薬説明会

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2018年06月01日 08:00

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憧れの白い教会

 船で久賀島に向かうと高台に真っ白な教会が見えてきます。「五島崩れ」と呼ばれたキリシタンの弾圧で亡くなられた方たちへ祈りをささげるために建てられた浜脇教会です。

 当時の木造の教会は、同じ島内の五輪地区に移設され現在は旧五輪教会と呼ばれ、その後に信者たちの手によって現在の浜脇教会が建てられました(五島曳船詩・久賀島 牢屋の窄)。過疎化により、信者たちはずいぶんと少なくなったようですが、それでも多くの信者による祈りがささげ続けられています。

 久賀島につくと、港から集落へ向かう時に、必ずこの教会の横を通ります。教会の前には、日曜ミサのために集まった人たちの車や電動の車椅子がたくさん止まっていますので、ここに人が集まっていることは容易に想像できます。

 ただ、教会の中ではミサが行われているので、お薬説明会は難しいだろうと聞かされていました。でも往生際の悪い私は、教会の脇の道を通るたびに、教会を眺めながら「この教会で、説明会をしたいな~」と、相棒の井上先生と、いつもこぼしていたのです。

goto10_hamawakichurchsea.jpg海から望む浜脇教会

救いの神出現

 そんなある日のことです。たまたま、この教会付近の方が、ご夫婦で私の薬局へ来られました。そこで、お薬説明会を久賀島全域で行っていることなど話をしていますと、なんという偶然でしょう。その患者さん、その地区の町内会長をしていて、毎週日曜日には、ミサのために浜脇教会へ行っているというのです。

 そこで試しに、「よかったら、お薬説明会をさせてもらえませんか?」と話をしてみましたらなんと「日曜ミサで、みんな日曜日には教会に集まるから、ミサの後にやったらいいよ。教会の裏に集会所があるから」と、夢のようなお言葉をいただきました。まさに救いの神です。

goto10_hamawakichurch.jpg憧れの浜脇教会でお薬説明会を開催できることに!

あんた手品師やろ

 さて当日です。今回は、いつもの井上先生の他に、私の家内も特別参加することになったので、説明会前後に、たっぷりと島の名所も巡ることにしました。そして説明会前の散策の途中、アサギマダラと遭遇しました。アサギマダラは、秋になると本土から五島まで渡ってきて、少し休んだら、台湾や南西諸島まで一気に飛んでいくのだそうです。この蝶とは、その後もいろいろな島で出会うことになります。

goto10_asagimadara.jpg花の蜜を吸うアサギマダラ

 さて、集会場へ行ってみますと、そこには聖母マリア様も鎮座されていました。さすがに教会です。なんか雰囲気が違います。説明会は、ミサが終了してからということで9時30分スタートの予定だったのですが、ミサが早めに終わったからと、皆さんぞろぞろと会場へ入ってこられます。そして9時過ぎには20名ほどが集まって下さったので少し早めにスタートしました。後ろの方にはシスターまでもが座ってくださっています。

 開会前に会場の方から1つの要望がありました。「まとめて話をされると最初の頃の話を忘れてしまうので、説明の途中で質問をさせてほしい」ありがたいです。私達も会場とやり取りしながらのほうが楽しいので、是非にということになりました。

「食べ物と薬の飲み合わせについて」「薬は、どのくらいの期間使用してよいのか」「薬を飲む水の種類について」などなど、皆さんとても積極的にいろんなことを聞いてこられます。そして、いつものように実験をしていますと、近くに座っていたオジィちゃんが「あんた手品師やろ。俺達がやっても、そんなにはならんはずや」と、色の変わった試験管の中身を眺めています。そう来たか~なかなか楽しいです。

goto10_meeting.jpg教会の集会所での説明会の風景

なんかあったときには、あんただおらんじゃん

 説明会が終わると、それぞれの薬に関する相談会を行います。すると、以前の二次離島の訪問調査で顔見知りになったおばあちゃんが、「懐かしかねえ~」と声をかけてくれました。2年前の調査で、少しだけお話をさせていただいていたのですが憶えてくださっていたようで、手を握って喜んでくれました。涙が出そうです。

 そして皆さんといろいろ話をしている間に、自宅まで薬を取りに行って、改めて相談に来られる方なども出てきました。なかなか終われそうにありません。60分の予定が、なんと2時間近くにもなってしまいました。

 そして、住民代表のような方から「病院の薬の説明を聞きたくても、ここに薬剤師はおらんけんね~、毎年やってもらったらとても助かるね。来年は、薬の飲み合わせの話や、食べ物と薬の飲み合わせなんかについて、もっと詳しく説明してほしい」と、とてもありがたい要望を頂きました。

 そしてこう続けたのです。「こんなやって話しば聞かるっときはよかばってん、なんかあったときには、あんただおらんじゃん」私は、この言葉にショックを受けました。そして、また新たなステージへと進むことになりますが、その話は、また今度。

さて、次はどの島に行きましょうか。

五島曳船詩・福江島 魚津ケ崎編ぎょうがさき

ここの木々は、逆らうことなく風の流れのままに伸びることを知っている。

 五島には、遣唐使の寄港地とされる場所がいくつか存在しているが、魚津ケ崎ぎょうがさきもその1つである。入り江や島影があるので船を寄せておいて、強い風を避け、次の良い風が吹くのを待つのに都合が良かったのであろう。

 私たちの子供の頃はキャンプ場としてよく利用した。現在は立派なキャンプ用の調理場が設置され、岬の先端にはバンガローも建っている。岬の先端であるから、海から昇る朝陽も見えるであろうし、海に沈む夕陽もまた格別であろう。隣にある海水浴場への専用の通路もあり、なかなかに贅沢な空間である。

 地域の方たちの努力で春には菜の花が眩く咲き誇り、梅雨になると紫陽花が美しく目を楽しませ、秋になるとコスモスが一面に彩りを見せる。まるで訪れる人たちを楽しませるために、季節の流れに添って姿かたちを変えているようである。

goto10_nanohana.jpg一面に咲き誇る菜の花

 しかし訪れるのが花の季節でなくても、木を眺めるだけでもなかなかに面白い。ここの木々は一方向に向かって伸びていて、風が無くても、まるで強い風が吹いているように見えるのである。その姿をずっと見ていると、まるで風の姿が見えるかの如くである。もし、次に向くべき方向に迷うことがあれば、この岬に立って、木々と共に風を全身に感じてみるのもいい。もしかしたら次に委ねるべき風を感じ取ることができるかもしれない。

goto10_tree.jpg風の流れのままに伸びる魚津ケ崎の木々

 何と言っても、ここの木々は、逆らうことなく風の流れるままに伸びることを知っているから。

 

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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