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薬を飲み忘れる患者さんの心理とは

AHEADMAPワークショップin名古屋

2018年06月19日 10:00

 論文を読み、実際の患者さんの要望と併せて最適な治療を提供する。薬剤師の間で、少しずつこの動きが広がりを見せているが、より大きな波にしなければいけない。そういった課題を持って生まれた特定非営利活動法人アヘッドマップによるワークショップが開かれた。

0519AHEADMAP.jpg

ワークショップ概要

『薬を飲めない、飲まない...にどう向き合えばよいのでしょうか?』

日時:2018年5月19日(土) 13:15~18:00

会場:愛知県名古屋市中村区 名駅セミナーオフィス

主催:特定非営利活動法人AHEADMAP
   (共同代表 桑原秀徳、青島周一、山本雅洋)

患者さんの治療への関心が重要

 参加者は30人を超え、会場は満員状態。病院薬剤師と薬局薬剤師が同数程度参加していることに加え、大学の薬学部講師や一般の参加者もあった。

 今回のテーマは、患者さんの飲み忘れ(残薬)問題だ。薬剤師であれば、誰もが頭を悩ませたことがあるだろう。参加者は6班に分けられ、なぜ患者さんが薬を飲み忘れるのかという議論から、ワークショップがスタートした。

0519AHEADMAP1.jpg患者さんが薬を飲まない原因などを書き出していく参加者

 各班での議論では、「患者さんは、インターネットや週刊誌などから得た中途半端な知識を持っている」「一包化できない薬剤は余りがち」「患者さんが薬を飲まなければいけない理由を分かっていない」「薬が効いているかの実感がないと飲まなくなる」「睡眠薬は必ず飲むのに、糖尿病薬は飲まない」などといった意見が出た。

 ここで、青島周一氏が登壇し、服薬アドヒアランスについて解説した。そもそもアドヒアランスという言葉は、医療者が一方的に指示するのではなく、患者さんの価値観をしっかりと治療に反映させ、医療者と患者さんが一緒に治療方針を決めていくという意味合いがある。しかし、「服薬アドヒアランスがとてもいい患者さんは、それほどいないという印象」と同氏は述べた。

0519AHEADMAP2.jpg青島周一氏(AHEADMAP共同代表)

 例えば、糖尿病患者の服薬アドヒアランスに影響を与える要因として、(1)低血糖(副作用)の経験、(2)用法の複雑性、(3)コスト、(4)医療者との信頼関係-の4つがあるという1)

  1. 低血糖(副作用)の経験:低血糖の副作用を起こしたことがある患者さんは、「飲み過ぎるとまた低血糖を起こしてしまうのでは」という恐怖感を抱きがちだ。また、低血糖の重症度によっても服薬アドヒアランスに差があり、中~重度の低血糖を起こした経験がある患者さんのアドヒアランスは、かなり低くなるとの結果がある2)
  2. 用法の複雑性:DPP-4阻害薬のアドヒアランスが一番良く、メトホルミンが一番悪いとの研究結果がある3)。これは、服薬回数が少ない薬剤の方がアドヒアランスが良いことを示唆しており、納得感はあるだろう。
  3. コスト:薬を飲む回数を減らすことで、受診時期を先延ばしして医療費を節約しようと考える患者さんも存在している。
  4. 医療者との信頼関係:医療者がしっかりと説明してくれない、要望を聞いてくれないなどの不信感が生じると、それが服薬アドヒアランスにも関わってくることがある。

 糖尿病以外にも話を広げると、服薬アドヒアランスに影響を与える要因として、認知機能低下がある。これは深刻な問題で、実際に認知機能が低下した患者さんでは服薬アドヒアランスが10.7~38%程度になるとの研究結果がある4)

 他に興味深いものとして、疾患別に服薬アドヒアランスを比較した研究がある。7つの疾患のうち、高血圧や甲状腺機能低下症、2型糖尿病患者と比べ、脂質異常症、骨粗鬆症、痛風の患者さんの服薬アドヒアランスは低い傾向が示されている5)

 これは、なぜ薬を飲むのかについての患者さんの理解度に関係していると考えることができる。例えば、家に血圧計があり血圧を測っている患者さんはある程度いると予想されるが、家で骨密度や尿酸値を測っている患者さんはほとんどいないだろう。血圧は身近な数値で、変化が目に見えて分かりやすいので、患者さんが治療に関心を持ってくれやすいのだ。逆に骨密度や尿酸値は血圧のように気軽に測れず、目に見えにくいと患者さんの関心が薄れ、服薬アドヒアランスが低下していく。服薬アドヒアランスと患者さんの治療への関心は、相関性が高いのである。

服薬アドヒアランスが良い=患者さんのアウトカムは改善?

 「価値の時間割引」という概念がある。人間は、将来的に起こることの価値を割り引いて思考する傾向にある、という考え方だ。その割り引き方は人によってさまざまだが、例えばワクチンは将来的に疾患を予防することよりも、副反応を重視しがちだ。スタチンの服薬アドヒアランスが低いのは、将来的な心血管イベントの予防よりも、副作用の筋肉痛やコストの問題、服用が面倒といった価値の方が重視されやすいから、と考えることもできるだろう。患者さんの心理傾向も、服薬アドヒアランスに非常に影響を与えることが分かる。

 さてここで、「服薬アドヒアランスが良いとどのようになるのか」と青島氏は問いかける。普通に考えれば、服薬アドヒアランスが良ければ患者さんのアウトカムは改善すると答えるだろう。実際、スタチンの服薬アドヒアランスが良い人は、悪い人に比べて心血管死亡が15%低く、総死亡も45%低くなり、他の薬剤でも同様の結果が示されている6)

 では、服薬アドヒアランスが良い人はどのようなタイプなのか考えてみよう。認知機能は低下していないだろうし、医師の言うことも聞き、普段から健康習慣に気を付けているタイプの患者さんが多いのではないだろうか。つまり、「服薬アドヒアランスがいいと予後がいい」という相関関係の中に、バイアスがかかっている可能性があるのだ。服薬アドヒアランスが良いから改善したのか、服薬アドヒアランスが良いという患者さんの生活習慣が予後改善につながっているのか、判別が難しくなってくる。

 服薬アドヒアランスが良いと死亡リスクは減るのか調べた研究がある7)。薬物治療全体では、メタ解析で、服薬アドヒアランスが良いと死亡リスクが44%低下するという結果が出ている。ただし、有害な薬物療法では、死亡リスクが増えることも示唆されている。

 さらに興味深いのは、プラセボの服薬アドヒアランスが良くても、死亡リスクが44%低下するという結果だ。これは、プラセボが患者さんの予後を改善したというよりも、服薬アドヒアランスが良いという患者さんの生活習慣が予後改善につながっていると考えた方が理にかなっている。

 「服薬アドヒアランスを良くしましょうと言うが、その薬が患者さんにとって十分なベネフィットをもたらすという前提があるのか。残薬問題や医療コストという問題は、服薬アドヒアランス向上で改善できることもあれば、そもそもその薬は必要ないかもしれないというところで解決できることがあるかもしれない」と同氏は述べる。

 このように、服薬アドヒアランスを向上・維持させることが、必ずしも患者さんのアウトカムを改善しているわけではない可能性について、認識を持ったことがある薬剤師はどれだけいるだろうか。常識を疑い、患者さんにより良いアウトカムをもたらすためにはどのように考えればよいのか、この後、ワークショップを通じて、参加者と議論しながら理解を深めた。

ワークショップ参加者の感想

・こういったワークショップに参加することで、自分自身のモチベーションを保つことができます。北海道から参加しましたが、学ぶことも多かったし、楽しかったです。(薬局)

・良い薬をつくっても、良いエビデンスがあったとしても、患者さんに飲まれなかったら何にもなりません。患者さんが薬を飲まないことに関して、そこにどのような問題点があるのか、皆で議論して抽出し、どのように対応したらいいのか考える機会もありました。大学で、学生たちにもこのようなことを考える機会をつくろうと思いました。(薬学部講師)

・お薬を飲める、飲めないというのは、薬剤師の腕の見せ所だと思います。医師に対してのアプローチ、薬に対してのアプローチ、患者さんに対するアプローチと、3つの視点から勉強することができ、とても参考になりました。(薬局)

次回のワークショップは日時未定だが、大阪、広島、大分で開催予定。
AHEADMAPウェブサイト:https://aheadmap.jimdo.com/

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