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ドーピング違反は誰が決める?どうやって?

日本アンチ・ドーピング規律パネル委員長から薬剤師にメッセージ

2018年06月19日 17:00

ドーピング違反は誰が決める?どうやって?

 競技会でのドーピング検査で尿中から禁止物質が検出されたとしても、それだけでドーピング違反となるわけではありません。

 アスリートには、自己の体内に禁止物質が入り込んだ経緯について説明・立証する機会が必ず与えられます。その説明を聞いた上で、ドーピング違反が成立するか、また成立するとしていかなる制裁が下されるかにつき、中立的な裁定機関である日本アンチ・ドーピング規律パネルが決定します(日本において)。同パネルは法律家・医師・スポーツ関係者により構成されており、日本ドーピング防止規程に基づいて決定を行います。

 なお、その決定に不満を有するアスリートには、さらに日本スポーツ仲裁機構に上訴する権利が与えられています。 これまでに、規律パネルの決定に不満を有して実際に上訴したアスリートがいます。

 さて、今回、日本アンチ・ドーピング規律パネル委員長の早川吉尚氏から、薬剤師にメッセージをいただきました。

薬剤師の皆さんへ~
悪質化するドーピングへの対策にさらなるご支援を

日本アンチ・ドーピング規律パネル委員長
早川吉尚

 日本アンチ・ドーピング規律パネルをご存知でしょうか?

 検査手続過程で検体から陽性反応が出たからといって、その競技者がすぐに資格停止となるわけではありません。競技者被告人であり、JADA検察官とすると、日本アンチ・ドーピング規律パネルは、裁判官のような役割を務めています。競技者が真にドーピング行為を行っていたか、そうであるならばどのような処罰が与えられるべきか、2006年の発足以来、中立的な立場から百件ほどのケースにつき判断を下してきました。

 そのような立場から、これまでのわが国のドーピング事例の傾向を見てくると、大きく3つの時期に分けることができるように思われます。

 第1期はアンチ・ドーピング規則が何であるかを知らずに違反をしてしまう競技者が大半で、規則の内容や趣旨を説明し続けるといった時期でした。

 第2期は、アンチ・ドーピング規則については浸透したものの、うっかり違反してしまう競技者が後を絶たないといった時期でありました。もっとも、スポーツファーマシストの皆様の努力もあって、近年、「うっかり違反してしまった」というケースは減少しています(そのため、わが国のスポーツファーマシスト制度は、今、世界的に注目されています)。

 では、第3期である現在はどのような時期なのでしょうか。実は、うっかりケースが減った分、悪質ケースの割合が非常に増えてきています。昨年の終わりに発覚した、ライバル選手のボトルに禁止物質を混入させたカヌー競技における事例は、その典型です。当該事件は、違反者が良心の呵責から混入を告白したからよかったものの、それがなかったら無実の選手を処罰してしまうところでした。

 現在、ドーピング行為との戦いはより深刻なものになっています。悪質な競技者であればあるほど、検体から陽性反応が出ないような手法を駆使して、巧妙にドーピングを行っているというのが実情です。そのような状況では、検体の分析という従来の対策だけでは足らず、内部告発の推奨、入管・税関での情報の取得、追跡、さらには、捜索・差押えといった対策が、世界の主要国において、立法によるバックアップの下に採用されるようになっています。

 しかし、残念ながらわが国では、2020年に東京にオリンピック・パラリンピックを迎えるにもかかわらず、上記のような新たな対策を可能にする法制度がまだ整っていません。クリーンな競技者が損をする体制では、スポーツファーマシストの皆様のこれまでの努力も無駄になってしまいます。

 捜索・差押えをも含めたアンチ・ドーピング法の国会での制定のために、アンチ・ドーピングにご理解のある皆様のご支援をいただけましたら幸いです。               

 【2018年5月7日取材】

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