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処方変更を提案するためのトレーシングレポート活用法

AHEADMAPワークショップin名古屋

2018年06月20日 11:15

AHEADMAPワークショップin名古屋では、Evidence-Based Medicine(EBM)を実践した症例報告も行われた。

論文から入手した情報と、患者さんの希望などを総合的に判断して治療方針を決定するEBMの手法を生かし、トレーシングレポートを用いて処方医に提案した事例を、根本真吾氏(日本調剤横浜支店)が紹介した。

nemotoshi.jpg根本真吾氏

ワークショップ概要

『薬を飲めない、飲まない...にどう向き合えばよいのでしょうか?』

日時:2018年5月19日(土) 13:15~18:00

会場:愛知県名古屋市中村区 名駅セミナーオフィス

主催:特定非営利活動法人AHEADMAP
   (共同代表 桑原秀徳、青島周一、山本雅洋)

症例(症例検討に影響のない範囲で改変)

80歳代男性

現病歴:狭心症、内外頸動脈狭窄、緑内障、糖尿病、腎機能低下〔慢性腎臓病(CKD)ステージG3a〕、末梢動脈疾患

処方内容

ワルファリンK 2.5mg/日
ラフチジン 10mg/日
サルポグレラート 150mg/日
ベニジピン 4mg/日
リナグリプチン 5mg/日

直近の検査値:収縮期血圧(SBP)150~180mmHg(かなり幅あり)、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP) 91.4pg/dL、血清クレアチニン(sCr) 1.3mg/dL、プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR) 2.1、HbA1c 7.2%、食後血糖248mg/dL、推算糸球体濾過量(eGFR) 42mL/min/1.73m2

家族の言葉:「ラフチジンとサルポグレラートは服用後に幻覚症状が認められるため、家族の判断で服用していない」「ふらつきがあるため、ベニジピンは飲まないときもある」「収縮期血圧150mmHgを超えたときはベニジピンを飲むようにしている」「頸動脈にステントを入れているので、ワルファリン服用している」「リナグリプチンは飲めている」「医師に相談したら、きちんと飲んでくださいと言われてしまった」「飲まない薬がどんどんたまってしまうので困っている」

トレーシングレポートの内容

nemotoshi_zu.png

参考文献

1.J Prev Med Public Health 2015; 48: 105-110. PMID: 25857648
→60歳以上の退役軍人において、SBP 120~179mmHg群とSBP 110~mmHg群で死亡率に差は見られない(コホート研究)

2.N Engl J Med 2016; 374: 2009-2020. PMID: 27041480
→平均血圧138.1/81.9mmHgかつ心血管疾患リスクが中程度の患者を対象に降圧治療を行っても、心血管死・脳卒中・心筋梗塞の複合アウトカムに差は見られない(ランダム化比較研究)

3.J Hum Hypertens 2017; 31: 299-304. PMID: 24048292
→Ca拮抗薬は起立性低血圧を増加させ、ARBではリスク低下と関連する(観察研究)

4.Age Ageing 2016; 45: 249-255. PMID: 26758532
→降圧薬を中止することで起立性低血圧は起こりにくくなる可能性がある(ランダム比較化試験の二次解析)

5.Age Ageing 2011; 40: 23-29. PMID: 21068014
→H2ブロッカーは、有意ではないもののせん妄のリスクを1.4倍増加させる可能性がある(メタ解析)

6.Case Rep Oncol 2012; 5: 409-412. PMID: 22949902
→PPIはH2ブロッカーと比べ、せん妄のリスクが有意に低い。また、H2ブロッカーの中止により、中止3日後からせん妄スコア(Delirium Rating Scale)が有意に減少する(後ろ向き研究)

7.Diabetes Res Clin Pract 2018; 138: 1-7. PMID: 29382588
→PPIの使用は、アルブミン尿を悪化させない(前向きコホート研究)

8.Gastroenterology 2017; 153: 702-710. PMID: 28583827
→PPIはH2ブロッカーに比べ急性腎障害を増やす可能性がある(後ろ向きコホート研究)

同氏がトレーシングレポート作成時に意識していることは、A4サイズで1~2枚程度にまとめ、要点だけ書いて送ることだという。このケースでは、処方医も胃薬については理解してくれたようで、「試しにやってみよう」と提案通りに変更してくれた。ベニジピンに関しては、血圧が高いので継続して飲んでほしいと処方医は考えており、薬局からも「しっかり飲んでください」と伝えてほしいとのことだった。

実は処方医も悩んでいる。薬のことなら薬剤師に!

処方変更の結果、収縮期血圧は150mmHgをほぼ維持できるようになり、幻覚はなくなったとのこと。ふらつきも減ったことで、「不定愁訴を解消できたし、薬剤師として仕事ができたな」と思っていたという同氏。

しかし、後日患者さん家族から聞いたところ、実はワルファリン以外の薬を飲むと調子が悪くなることがあり、相談しても「飲んでください」としか言わない処方医を信頼できなくなっていたそうだ。そのため、自分たちで判断して、血圧が高いときだけベニジピンを服用していたことが分かった。これを聞いて、同氏は「介入が遅かった」と気付いたという。

この件を通じて、薬剤師の処方提案は必須であると感じたという同氏。「臨床で何か問題が生じたとき、原因追及や問題提起をするだけでは不十分で、薬に関しては薬剤師が提案できるような関係を構築していくことが、患者さんに認めてもらうためにも必要。患者さんの不定愁訴が解消しないことについて、実は処方医も悩んでいる。信頼関係を持って話をして、患者さんに不利益をもたらす処方を早期に発見、早く処方変更を提案することが重要」と強調した。

今後の課題は、薬のことは薬剤師に聞いてもらえるよう、処方医との信頼関係を築くことだそうだ。「患者情報から薬剤情報まで、幅広くトレーシングレポートを活用し、どんなささいな情報でも正確に伝えることで、処方医と信頼関係を築くことができると考えている」と同氏は述べる。薬薬連携のさらなる推進ために導入を予定しているDr.JOY※1へ、医師にも参加してもらえるよう働きかけているという。

他の薬剤師の事例を参考に、まずは実践すること

トレーシングレポートを10~30分ほどでつくるという同氏だが、当初は、論文を読んで、情報をまとめて、医師に伝わりやすい文章を書くのに1週間ほど要したそうだ。

「現場で出合う疑問は、起立性低血圧や低血糖など似通っている事例が多く、実践していくことでどんどん早く対応できるようになっていく。自分が論文を読み、EBMを実践するきっかけとなったのは、ニンジャ先生の起立性低血圧の記事※2を読んだこと。この事例と似ていた患者さんがいたので、まずトレーシングレポートを書いてみようと思った。それがうまくいったので、今までやってきたことと違うことができそうだなと実感した体験が大きかった。まずは実践することが大事」と締めくくった。

※1 医療機関専用のSNSで、薬局と病院の情報共有などを簡単に行うことができる。

※2 薬剤師の医学論文との付き合い方ー2
  涙の理由を探れ!
  薬局薬剤師の記録的巻物「起立性低血圧は死亡リスクを増加させますか

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