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スタミナ向上に悪用されたEPO製剤

組織ぐるみで使用されたセンセーショナルなあの事件も

2018年06月22日 14:00

スタミナ向上に悪用されたEPO製剤

 近年、市民やジュニア選手が出場するスポーツ大会でも導入されるようになったドーピング検査。アンチ・ドーピングの知識はオリンピック選手に限らず、全てのアスリートにとって必須のものになっています。スポーツファーマシストではないけれどアスリートの役に立ちたいと考える薬剤師T子を中心に、実務で押さえておきたいアンチ・ドーピングに関する情報をお伝えします。

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今回学ぶこと

  1. 専門家を巻き込んだEPO製剤のドーピング(S2)
  2. 医薬技術の発展に合わせてドーピング検査も進化

専門家を巻き込んだEPO製剤のドーピング(S2)

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蛋白同化薬(S1)糖質コルチコイド(S9)ホルモン調節薬(S4)ベータ2作用薬(S3)興奮薬(S6)。そして、利尿薬と隠蔽薬(S5)。いろいろな禁止薬を学んできたわね。薬剤師としてアスリートの相談に乗るための必要最低限の知識は得られたのかしら...。

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あとは、持久力を上げる目的で行われるドーピングについて理解しておいてほしいな。持久力を上げるためには、心肺機能を強化すればよい。その方法にはいくつかあるけれど、どれがアンチ・ドーピング規則違反になるか、分かるかな?

クイズ:禁止されている物質・方法は次のうちどれ?

〈a〉自己血輸血
〈b〉高地トレーニング
〈c〉エリスロポエチン(EPO)製剤
〈d〉酸素カプセル
〈e〉血液クレンジング(オゾン療法)

T子.PNG

う~ん、薬を投与するから...答えは〈c〉かな...。

S男.PNG

答えは〈a〉〈c〉〈e〉だよ。薬だけが使用禁止というわけではないんだ。

禁止表【表1】でチェックしてみよう。〈c〉は、「S2.ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質」、〈a〉〈e〉は「M1. 血液および血液成分の操作」に該当するよ。

04表1.JPG
T子.PNG

エリスロポエチン(EPO)製剤は血液中の赤血球を増やす。この作用によって血液の酸素運搬能を上げ、持久力を高めるという目的でドーピングに使用されるのね。

S男.PNG

そう。もともとは、酸素濃度が低い高地でのトレーニングが、持久力を向上させる強化トレーニングの定番だったんだ。EPO製剤は、高地トレーニングと同様の効果が得られるから、ドーピングとして使うアスリートが出てきた。

例えば、自転車競技でEPO製剤を使ったドーピング規則違反を耳にしたことはない? ツール・ド・フランスにも出場する有名選手らによるドーピング違反については、実録ドラマ※1も制作されている。ショッキングな話題だったよね...。

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健康な人がEPO製剤を使って赤血球を急激に増やすと、血圧上昇や血栓塞栓症のリスクが上がる。健康被害も心配だわ。

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そう。過去にはEPO製剤の不適切な使用による死亡例も報告されているんだ。

T子.PNG

危険性も理解して、使用を防止していかないといけないわね。

医薬技術の発展に合わせてドーピング検査も進化

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ところで、EPOは体内にあるホルモンでしょ? ドーピング検査では、体内ホルモンとEPO製剤との判別が難しいのでは?

S男.PNG

そうだね。だから、まず血液検査をして、ヘモグロビンや赤血球数などが生理的な変動範囲に比較して疑わしい数値であったケースでは、さらに尿を検体として電気泳動法を行う。そうして遺伝子組み換えEPOを検出しているんだ。また、アスリート・バイオロジカルパスポート(ABP)※2も有用だよ。

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EPO製剤の特許が切れて、バイオシミラーが多く販売されているけれど、同じ検査法で検出できるの?

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先行品とバイオシミラーとの違いである糖鎖構造に着目して検出できるようにしているよ。デザイナードラッグ(無承認医薬品)でも同様の問題が生じている。既存の医薬品の構造をほんの少し変化させてつくるデザイナードラッグは、質量や化学的な性質を変更しているから、検査の特異性が高いほど除外されてしまい、見逃されてしまう。

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デザイナードラッグが生まれるたびに新たな抜け道ができてしまう...いたちごっこね。

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こうした背景の下、WADAは、EPO受容体作動薬メトキシポリエチレングリコール-エポエチンベータ(CERA)※3のヨーロッパにおける販売に先駆けて、開発元の製薬会社と協力して検出法を確立した。販売後の2008年の北京オリンピックで違反を摘発し、新薬のドーピング防止の試みとして注目されたんだ。

※1 『疑惑のチャンピオン』ツール・ド・フランスを7連覇したが、後にタイトルを剥奪、自転車競技界から永久追放されたランス・アームストロングの光と影を描いた映画。日本では2016年7月から上映された。

※2 ABP:禁止物質を直接検出するのではなく、アスリートの血液検査や尿検査の数値をデータベース化して長期間追跡する方法。各アスリートの変動範囲を予測し、その範囲の逸脱からドーピングを検出する。

※2 日本では2011年に、ミルセラ®(エポエチンベータペゴル)として販売されている。

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