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お薬手帳は忖度しない

2018年06月25日 08:00

 各店舗ごとの「半年以内に再来局でのお薬手帳持参率」が社内報で公表された。見ると、ほとんどの店舗が75%以上で、一番高い店舗は80%を超えていた。

 ーーおお。意外と高い。

 通常の業務では、「あっ、忘れてきた」「いつも同じ薬だからいらないよ」などと患者さんに言われてガックリくることのほうが記憶に残るせいか、せいぜい6割、下手をすると5割ぐらいじゃないかと思っていたのだ。

 ーー結構、みんな持ってるじゃん。

 普段から病院通いをしていなさそうな若い人でも、「お薬手帳はお持ちですか?」と聞くと、バッグから取り出して渡してくれたり、「今日は持ってないが、うちにある」と言われることが以前より増えているように感じる。患者さんだけではない。院内処方でお薬手帳に対応していなかった病院でも、最近になってシールが発行されるようになったところが増えている、特に、市内にある◯◯医科大学附属病院はこれまで薬情だけで、手帳シールはもらえなかった。

「1冊のお薬手帳で、すべての医療機関でもらっている薬が記録できる」

 これがお薬手帳の意義だ。そのことを薬剤師はずっと、患者さんに啓蒙してきた。

 ところが、24時間365日体制で救急診療を行い、ドクターヘリまで駆使して県内全域から重症患者を受け入れる巨大病院が、お薬手帳を持って行ってもシールを貼ってくれなかったのだ。A4判の薬情はもらえるが、大きすぎるし、そもそも大学病院にかかっている患者さんは服用薬剤数も多く、薬情が何枚にもなると手帳には貼れない。

 なので、「お薬手帳を持ちましょう」と患者さんにお勧めしても、「でも、いつも行っている◯◯医大はそんなの貼ってくれないよ」と言われたら、もう次の言葉が出てこないのだ。

 だが、ようやく「◯◯医科大学附属病院」と印刷されたシールが手帳に貼られているのを見かけるようになった。ドクターヘリ専用ヘリポートまで完備している大学病院が、どうしてお薬手帳シールは出せないのかと、ずっと不思議に思っていたが、これで堂々と「どこの病院・薬局でも使えます」と言えるようになったのだ。

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 だが、シールを貼るだけでは、お薬手帳の実力は発揮できない。

 医師の診察時に手帳を見せれば、重複投与や相互作用を防ぐことができる。既にそうしている患者さんもいるが、できていない場合も多い。そもそも、診察の時に「他に飲んでいる薬があるか、ないか」を医師に伝える必要があるというのが、あまり一般に浸透していないようだ。

 よく患者さんに言われるのが、「飲んでいる薬はあるけど関係ないと思った」というセリフだ。関係あるかどうかは、本来、患者さんには判断できない。けれど、「特に問題ないかもしれないのに、忙しい先生にそんな話をするのは申し訳ない」とか、「先生に『関係ないよ』ってウザがられないかなあ」などと無意識に遠慮してしまうのではないか。

 患者さんは決して、悪気があって手帳を見せなかったり、「飲んでる薬はないです」って言ってるわけではない...多分違うと思う...違うんじゃないかな?...でも...。

 ーーでもそれって、『忖度』ってやつじゃない?

『忖度』の結果、患者さんは飲んでる薬があっても「ないです」と答えてしまう。

 あるいは、医師から「他に飲んでる薬はないですか?」と聞かれないから、知らせる必要もないのだろうと患者さんが『忖度』してしまう。

 それは、「医師のやることに不備はない」という信頼の現れだと言えなくもない。しかし、それによる不利益を被るのは、他ならぬ患者さん自身だ。医師だって、知らない間に治療上の困難を抱えることになる。

 それを解決するのが、お薬手帳だ。

「診察の時にお薬手帳を医師に見せる」
「どこの薬局でも、病院でも、ドラッグストアにも持参して、処方されたり買ったりした薬は全部記録する」

という習慣が定着すれば、その心配はなくなる。

 だが、そのお薬手帳を、今の医療現場は十分に活用できているだろうか?

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 午後の最初の患者さんは、「いつもの薬をもらいに来た」高齢の女性だった。近所の内科の処方せんで、アムロジピンとプラバスタチンとレバミピドが朝食後だけで出されている。薬歴には、「薬を飲むと胃が悪い気がするから、いつも胃薬も一緒にもらっている」と書かれていた。

 監査を終え、印字されたシールを貼ろうとお薬手帳を見てみると、1週間前に処方された整形外科の薬が記録されている...毎食後のロキソプロフェン14日分と一緒に、テプレノンカプセルが。

 ーーえっ? これって同種同効薬が重複してるんじゃないの? 1週間もダブって飲んでる?!

 これダメなんじゃ...と、一気に脳内に暗雲が立ち込める。

 ともかく内科の先生に疑義照会してレバミピドを削除してもらって、でも「整形の方を中止して」って指示になるかも...。けど、それだとテプレノンが1週間分も無駄になるし...。

 そもそも、1週間も重複して薬を飲んでいたことは、もうどうにもならない...。

 どんよりしたまま疑義照会しようと受話器を取り、もう一度お薬手帳を見て、「あれっ」と気づいた。

 ロキソプロフェンは毎食後だが、テプレノンだけ昼夕食後の指示になっている。

 ーーこれって、もしかして。

 受話器を置き、待合室の患者さんにお薬手帳を示してお聞きすると、「転んで腰を打ったから整形で痛み止めと胃薬を出してもらったんだけど、先生が手帳を見て、『胃薬はもう出てるから、昼と夜だけでいいね』っておっしゃって...」

 ーーなあんだ、重複してないじゃん!

 レバミピドではなく、テプレノンが処方されているのは、おそらく整形の先生が使い慣れた薬だからだろう。

「さすが先生ですね。ちゃんと手帳を見て、お薬を出してくださったんですねえ。きちんと診察の時に手帳を見せたのが良かったんですね」

ここぞとばかりに、先生と、それから患者さんの行動を褒め称えるーーちょっとだけ大袈裟に。他の病院に行くときにも必ず手帳を持って行って、先生に見てもらう習慣をすべての患者さんに身をつけてもらいたいから。

 医師にも、それが当たり前になってもらいたい。

 忙しい診察の合間でも、いつもと同じ薬でも、手帳シールを出せない病院でも、そんなことをお薬手帳は忖度することなく、医師と患者さんの役に立つのだから。

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【コラムコンセプト】
仕事に家事に育児と、目まぐるしい日々を送る母親薬剤師。新薬や疾病の勉強もしなきゃいけないが、家のことだっておろそかにできない。追い立てられるように慌ただしい毎日だ。そんな中で、ふと立ち止まり、考える。「働く母親って、どうしてこんなにいろんなものを抱え込んでしまっているんだろう?」「薬剤師の業務って、どうしてこんなふうなんだろう?」忙しさに紛れて気付けずにいる感情に気付いたら、働く母親に見える景色はきっといくらか変わるだろう。日常の業務に埋もれたままの何かを言葉にできたなら、薬剤師を取り巻く世界も少しずつ変えていけるだろうか。


【へたれ薬剤師Kiko プロフィール】Hetare_kiko_columm.png

卒後9年間病院勤務ののち、結婚を機に夫の地元で調剤薬局に転職。産休育休を経て、現在は中規模チェーン薬局にフルタイムで勤務。アラフォー。9歳の息子、夫(not薬剤師)と3人暮らし。食事は手抜き。洗濯は週3回。掃除はルンバにおまかせ。どういうわけだか「コトバ」に異様にこだわる。座右の銘は「モノも言いようで門松が立つ」。(Twitter:@hetareyakiko)

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