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生物学的製剤がもたらした成果と今後の課題

アッヴィ合同会社 ヒュミラ®発売10周年メディアセミナー

2018年06月29日 10:15

 従来、関節リウマチや炎症性腸疾患、乾癬などの自己免疫性疾患は、薬物治療が困難とされていた。しかし、生物学的製剤が登場したことにより、これらの疾患の寛解を目指すことが可能になっている。世界初のヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤であるアダリムマブ(ヒュミラ®)が日本で発売されて10年が過ぎたことから、生物学的製剤の意義や今後の課題を振り返るプレスセミナー(6月20日)が開催された。

生物学的製剤の登場と治療環境の変化で患者アウトカムが一変

180626_takeuchishi.jpg竹内勤氏

 関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis; RA)について、竹内勤氏(慶應義塾大学医学部 リウマチ・膠原病内科 教授)が講演した。RAは進行性、全身性の炎症性疾患で、適切な治療をしなければ、10年後には半数程度の患者は日常生活が不自由になると言われていた。しかし、生物学的製剤の登場がきっかけとなり、治療法および患者アウトカムが一変した。

 2010~2011年に起きた診療環境の変化も見逃せないという。関節破壊を起こす可能性の高い患者を早期に特定するACR/EULAR新分類基準と、治療目標達成に向けた治療戦略であるTreat To Target(T2T)が2010年に、翌2011年には、より高い治療目標を設定したACR/EULAR新寛解基準が策定されたのだ。これにより、明確な治療目標とtight controlが標準的なRA治療に組み入れられた。同氏は、「治療目標を定め、メトトレキサートや生物学的製剤などの薬剤を軸にして、治療法を見直すことが大事だ」と述べる。

 ヒュミラ®をはじめとした生物学的製剤の登場と診療環境の変化により、患者は関節破壊の進行を長期にわたり抑制できるようになった。今後の課題としては、より高い寛解率を目指すための生物学的製剤の早期導入の検討、感染症をはじめとする副作用、生物学的製剤には宿命と言える免疫原性(いわゆるアレルギー)、コストといった要素が挙げられるという。

外科処置をするケースが減り、患者のQOLを大きく改善

180626_hibishi.jpg日比紀文氏

 炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease; IBD)の主要疾患である潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis; UC)とクローン病(Crohn's Disease; CD)は、ともに原因が不明で根本的治療法はない。UCの国内患者数は20万人程度、CDは5万人程度と言われている。

 「以前はUCに対してはプレドニゾロンと5-アミノサリチル酸、CDには栄養療法(エレンタールや絶食)でしか対応できなかった」と述べるのは、日比紀文氏(北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター)だ。しかし、たった1つの炎症性サイトカイン(TNFα)を抑制することで症状を改善できることが明らかとなり、抗TNFα抗体を皮切りに数々の生物学的製剤が登場して、UCとCDの寛解導入・維持が可能になった。炎症抑制が主体だった従来の治療から、免疫抑制が主体の治療法にパラダイムシフトが起きたのである。

 これにより、難治性UCやCDにおいても、大腸切除を回避できるケースが増え、外来治療を行いながら日常生活を送る患者も増えているという。今後、複数の治療薬から患者に合わせた適切な治療法を提供することで、より多くの患者が日常生活を過ごせるようにしたいと、同氏は述べた。

いかに早期に治療を開始するかが重要

180626_kobayashishi.jpg小林里実氏

 乾癬については、小林里実氏(社会福祉法人聖母会 聖母病院皮膚科 部長)が講演した。乾癬は皮膚が赤くなり(紅斑)、新陳代謝異常より皮膚の肥厚、鱗屑を生じる慢性の炎症性疾患である。関節の腫れや痛み、関節破壊を起こすこともある。皮膚症状が目に見える形で現れるため、患者の身体的・精神的QOLを著しく下げることが知られている。

 乾癬治療に対する患者の希望は、「もっときれいにしたい」「治療効果を早く出したい」が多かった2ものの、生物学的製剤が登場するまでの治療法では全身の皮疹の30~50%を改善できる程度だった。頭部や爪の症状の改善は難しく、関節症状には有効な治療法がなかった。抗TNFα抗体が登場してからは、全身の皮膚症状の90%以上が消退するケースもみられ、関節症状の進行も抑制、改善させることが可能になったのである。

 現在は効果が高い生物学的製剤が増えてきたが、投与方法の複雑さや効果の持続性、高いコスト、間質性肺炎などの副作用から、「いつまでこの薬が使えるのか」「使えなくなったらどうなるのか」という患者の不安は残ったままだという。また、乾癬患者は結婚を諦めたり、さまざまなものを失ってきたため、3割以上の患者が「乾癬の症状が消えても、元の自分に戻れない」と回答した調査もある3)。そのため、患者がさまざまなものを失う前に、早期の適切な治療が重要だと、同氏は述べた。今後は、化膿性汗腺炎や壊疽性膿皮症などの疾患でも、生物学的製剤の開発が進み、治療選択肢がなかった患者のQOLに大きく貢献することが期待されるとした。

生物学的製剤によって劇的に変わった患者の生活

 患者によるパネルディスカッションが行われ、長谷川三枝子氏(日本リウマチ友の会)は、「国内で生物学的製剤が広まり、治療の選択肢が増えた。病気によって自分の人生が支配されていた時代から、治療によって自分の人生を選ぶことができるような時代になってほしいし、なりつつあると感じている。若い患者には、早期診断、早期治療を行い、社会に出て力を発揮してほしい」と語った。

 大蔵由美氏(東京乾癬の会)は、「10代から乾癬で悩んできた。尋常性乾癬から感染性関節炎になり、いずれ車椅子になると宣告された。しかし、日本で生物学的製剤が認可され、皮膚症状も改善され、車椅子生活になることもなく、人生がガラリと変わった」と述べる。乾癬患者は引きこもりがちで、適切な治療にアクセスできていない患者がたくさんいるという。大蔵氏は、治療法の啓発や疾患についての情報発信によって、乾癬患者が暮らしやすい社会をつくっていきたいと語った。

 萩原英司氏(IBDネットワーク)は、「この10年、生物学的製剤によって寛解導入率も高くなってきた。入院しないケースも増え、学校に通いながら、働きながら、自分の未来を選択できるようになった。ただ、IBD領域において、生物学的製剤はそれほど多く認可されているわけではない。効果が減弱していくケースもあり、今後の課題だ」と述べた。

 若年性特発性関節炎(JIA)親の会(あすなろ会)の栗原光晴氏は「全身型、間接型ともに指定難病になった。今後、さらに治療方法の研究が進んでほしいし、成長期にある子供を持つ親の立場からすると、より安全に使える薬剤の登場に期待したい。疾患に関する社会的認知度を上げて、進学や就労に関する問題を解決していきたい」と述べた。

治療選択肢のさらなる拡大に向けて

 日本において、アダリムマブ(ヒュミラ®)は化膿性汗腺炎について承認申請中で、潰瘍性大腸炎(高用量)、潰瘍性大腸炎(小児)、壊疽性膿皮症については第Ⅲ相試験中である。また、リサンキズマブ(JAK阻害薬)は、経口無機化合物で免疫原性がないという特徴があり、尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症について承認申請中だ。

 さらに、ウパダシチニブはアトピー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、関節症性乾癬、軸性脊椎関節炎、クローン病について第Ⅱ~Ⅲ相試験中だ(以上、2018年6月時点)。これらの薬剤が上市されれば、治療選択肢がさらに増え、「治療によって自分の人生を選ぶことができる時代」にまた一歩近付くだろう。

1. Smolen JS, et al. Ann Rheum Dis 2016; 75: 3-15.
2. 根本治 他.日皮会誌 2003; 113: 2059-2069.
3. Psoriasis Uncovered J web調査.2011年5月.

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