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第11回 奈留島でお薬説明会をしませんか?

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2018年07月02日 08:00

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 SNSというのは便利なもので、見ず知らずの方とも何となく知り合いになってしまうことがあります。私もFaceBookを利用していますが、ある日、五島市の奈留島出身で、医療用製品の専門の会社にお勤めの方から連絡をいただきました。その方は、お勤めの関係で関東地方にお住まいとのことですが、ご両親が奈留島にいるとのことでした。

 そして話の流れで、奈留島でお薬説明会をしましょうという話になりました。せっかくなのでと、雑誌社の取材付きでとの申し出でした。

 人集めも会場の手配も、その方のご両親が全面バックアップとのことでしたので、こちらとしても、ありがたいお話です。何が苦労するって、毎回、人集めが一番大変なのですから。

前島に行こか!

 奈留島は二次離島ではありません。私たちが二次離島として定義しているのは「本土との直接的な移動手段がなく、薬局・店舗販売業がないような、大離島の周辺に点在する小離島」となっています。奈留島は、本土からフェリーが通っていますし、薬局もあります。平成の大合併までは1つの自治体だった島で、奈留島にある奈留高校は、松任谷由実さんの『瞳を閉じて』という曲が愛唱歌となっていることでメディアでもよく取り上げられます。

 別に、一次離島であってもお薬説明会をさせていただくことにはやぶさかではないのですが、一応、二次離島の調査研究という名目があります。

 そこで目に止まったのが前島です。前島は、離島調査の第2弾の二次離島訪問調査のときは上五島からのメンバーに回ってもらっていたので、私はまだ上陸したことがありません。干潮時には、隣の島とつながるトンボロがあります。久賀島まで行くと、その様子を眺めることができるので、「行ってみたいな〜」と常々話していました。そこで、「前島に行こか!」と、話が盛り上がってきました。

薬は船に積んであるよ

 さて当日です。今回は、いつもの井上先生と保健所の嵩下先生の他に、以前、前島に訪問調査に行ってくれた、上五島の鈴木慎太郎先生にも同行してもらいました。彼は、新上五島町の有川で薬局を経営している離島対策委員会の古参メンバーです。

 午前中は前島で開催ですが、私たちが住む福江島から前島までの交通機関はありませんから、まず奈留島へ向かいます。そして奈留島の港で海上タクシーに乗り換えて前島です。

 前島は当時、人口30人とのことでしたが、半分くらいは島を離れているとのことです。高齢者ばかりですので、島を離れて入院したり、施設へ入所の方が多いそうです。どこの島も同様です。この日は7名の方が集まってくれました。皆さん初めてのことでしたので、とても熱心に話を聞いてくれます。

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前島での説明会風景

「薬は湿気のないところで保管してくださいね〜」というと、「薬は船に積んじょっよ」と返ってきます。「ですよね〜、光や湿気を避けて、できるだけ潮風も避けて、缶カンとかに入れておくといいかもですね〜」と精一杯の答えです。

「薬は指示通りに、1日3回の薬は3回服用してくださいね〜」と血中濃度のグラフを見せながら説明すると、「夜、漁に出るけん、昼飯は食わんよ。じゃけん、昼の薬は飲まん」となります。なるほどです。それぞれのライフスタイルがあります。それなりの服用の仕方を説明します。

 その後、前島を散策します。トンボロは、もう少しのところでつながっていませんでしたけれど、でっかい蛇は出てくるし、目つきの悪い猫ににらまれるしで、なかなか楽しい散歩でした。

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トンボロ。あともうちょっとでつながりそう

奈留島の説明会は、おかげさまで楽勝?

 午後からは、奈留島です。さすがに地元の方が声掛けすると、たくさんの方が集まってくださっていました。

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奈留島での説明会風景

 一通りの説明会をした後、個別相談会です。なかなか興味深い話が飛び込んできます。

「薬を7種類も服用しているが、化学反応とかは起きないの?」「リウマトレックス、フォリアミンを服用していて、セサミンや梅肉エキスなどのサプリメントを飲んでいるが、どうなのでしょう」「目にいいからと、タウリンを3万円で購入させられたが、ずっと飲んでいてよいのだろうか」「エリスロシンをずっと服用しているが、本当に問題ないのだろうか」「チューブの軟膏の開封時の有効期間は?」「カネミ油症にクロレラが効果的と聞いたが、どうなのだろうか」

 カネミ油症の患者さんは、五島にはとても多いのです。なかなかの難問が、次から次へと飛んできます。皆さんなら何と答えますか?

 そして最後に相談に来られた方から帰り際に「本当に来てよかった。ずっと相談したかったんだけど、誰にも聞けずにいたんです。本当にありがとうございました。本当に来てよかった」と、何度も言ってもらえました。これで1日の疲れはぶっ飛びます。来てよかったです。

 さて、次はどの島に行きましょうか。

五島曳船詩・福江島 辞本涯じほんがい

この場所は未来への希望で満ち溢れている。

 福江島の北西の半島の先端に柏という地区がある。そしてさらに先っぽの部分が柏崎と呼ばれ「辞本涯」の石碑と弘法大師空海の像が建立されている。遣唐使船の国内最後の寄港地である。

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辞本涯の碑と弘法大師空海像

「辞本涯」というのは、「この国の最果ての地を去る」という弘法大師空海の言葉である。付近には、遣唐使が水を汲んだとされる「ふぜん河」も現存する。

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ふぜん河

 804年、4隻で構成された第16次(18次との説もある)遣唐使船団は、この地で水を補給し、風を待って大陸へ向けて決死の覚悟で漕ぎ出した。しかし4隻のうち、第3船と第4船は嵐に遭い遭難し、残りの2隻だけが無事に唐までたどり着いた。第1船には弘法大師空海と三筆の1人である橘逸勢、そして第2船には伝教大師最澄と、後に三蔵法師の号を得る霊仙がいたという。

 半分はたどり着けないのであるから、彼らの覚悟たるや尋常ではない。柏崎の岩場から身を乗り出すと、海の底からかき混ぜられるかのごとき強いうねりに圧倒され、その大自然のスケールに飲み込まれるようである。よくもまあ、こんな海に乗り出そうと考えるものだと驚くばかりである。

 当時の人たちは、この荒れ狂う目前の海を全身で感じながら、遥か海の向こうに何を思ったのだろうか。きっととてつもない恐怖を感じたはずである。しかし、その恐怖に負けないだけの強い意志を持ち、光り輝く未来への希望を全身にまとっていたはずである。

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波打つ海

 私もまた、夕刻、この地に立ち、遥か海の向こうに沈む夕陽を眺めてみた。きっと同じ夕陽を眺めたのだと想像するだけでぞくぞくする。もしかすると、弘法大師空海も共に並んで夕陽を眺めているのではないかという感覚にも陥る。

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同じ夕陽を眺めたのかもしれない

 何かに押しつぶされそうになったら、この地を訪れ、圧倒的な海を感じるとよい。きっと未来への希望を感じさせてくれるはずである。

 

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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