新規登録

90-90-90で日本のHIV感染は減るか?

神戸大学微生物感染症学講座感染治療学分野教授 岩田健太郎

2018年07月04日 11:00

21132_ph1[1].jpg

研究の背景:日本では未診断の感染者、未治療の診断例が多い

 2016年の日本のHIV感染/エイズ報告数は1,448件。この10年、新規患者数は横ばいの状態が続いている。

 厚生労働省エイズ動向委員会「平成28(2016)年エイズ発生動向」 
http://api-net.jfap.or.jp/status/2016/16nenpo/h28gaiyo.pdf

 有効な抗レトロウイルス療法(ART)が確立されたおかげで、かつては「死の病」であったHIV感染の予後は劇的に改善した。ARTを継続することで感染者は天寿を全うできる、そう考えられている。

Katz IT, Maughan-Brown B. Improved life expectancy of people living with HIV: who is left behind? Lancet HIV. 2017 Aug 1; 4(8): e324-e326.

 

 新規感染者がコンスタントに増加し、既存の患者は外来通院を続けて長寿を享受する。これでは、総患者数は増えるに決まっている。現在、日本のHIV感染者は2万人余りと見積もられている。患者1人の生涯医療費は1億円ともいわれる。年間1,400人レベルの感染者増は、1,400億円の医療費増を意味するのだ。現行のHIV/エイズ診療は、身体障害者制度や自立支援制度の活用で、患者負担が最小限に抑えられて提供されている。が、このような恩恵をいつまでも期待できるのか。事態は非常に厳しいと考えるべきだ。

 いくら予後が良くなったからといって、HIV感染はハッピーな疾患では全くない。世間の偏見と差別。慢性的な体調不良や薬の副作用。通院、検査、服薬の面倒くささ。死ななければよいというものではない。

 新規患者を減らすため、世界保健機関(WHO)は90-90-90 treatment targetというものを設けた。これは2020年までにHIV感染者の90%を診断し、そのうち90%にARTを開始し、そしてその中の90%でウイルスを十分に抑え込む、という数値目標だ。

https://www.youtube.com/watch?v=4glabumU5_w

 2015年までのデータによると、日本では感染者の85.6%が診断され、そのうち82.8%にARTで治療を行い、そして99.1%でウイルス抑制が達成できている。

Iwamoto A, Taira R, Yokomaku Y, Koibuchi T, Rahman M, Izumi Y, et al. The HIV care cascade: Japanese perspectives. PLoS One. 2017 Mar 20; 12(3): e0174360.

 つまり、診断されていない感染者が多く、診断されていても治療開始がされていない患者が多い、ということだ。これは、定期的なHIV検査が必要とされているハイリスク集団で十分に検査が行われていないことと、制度上の問題(おそらくは拠点病院制度と煩瑣な身体障害者制度)のために、必要な治療がタイムリーに提供されていないという日本固有の問題によると僕は思う。

 それはそうと、そもそもこのWHOの90-90-90で本当にHIV感染は減るのだろうか? この「そもそも」論を検討したのが、今回紹介する論文である。HIV感染の有病率が比較的低い国、オーストラリアを対象にした数理モデル研究だ。

Scott N, Stoové M, Kelly SL, Wilson DP, Hellard ME. Achieving 90-90-90 Human Immunodeficiency Virus (HIV) Targets Will Not Be Enough to Achieve the HIV Incidence Reduction Target in Australia. Clin Infect Dis. 2018 Mar ; 66(7): 1019-23.

ファーマトリビューンウェブに登録すると記事全文を無料でお読みいただけます。

はじめての方

今すぐ登録(完全無料)

会員の方はこちら

ログイン
おすすめコンテンツ
そこまでやるか!? 驚嘆のスタディ

そこまでやるか!? 驚嘆のスタディ

ドクターズアイ
2018年02月15日

小児科クリニックからのセフカペンピボキシルの処方

小児科クリニックからのセフカペンピボキシルの処方

抗菌薬の処方解析
2017年09月13日

8学会で抗菌薬適正使用を支援

8学会で抗菌薬適正使用を支援

薬剤・医療ニュース
2017年08月24日

救急科からのノルフロキサシンの処方

救急科からのノルフロキサシンの処方

抗菌薬の処方解析
2017年08月14日

 内科からのレボフロキサシンの処方

内科からのレボフロキサシンの処方

抗菌薬の処方解析
2017年07月13日

「この」患者に抗菌薬を出すべきか

「この」患者に抗菌薬を出すべきか

ドクターズアイ
2017年06月26日

内科からのエリスロマイシンの処方

内科からのエリスロマイシンの処方

抗菌薬の処方解析
2017年06月13日

トップに戻る