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高齢者の低栄養の弊害を正しく伝える工夫

第12回日本緩和医療薬学会年会

2018年07月10日 11:15

 高齢者が低栄養の場合、免疫機能の低下、ADLの低下、サルコペニアの進行、フレイルティ、認知機能の低下という弊害が起こることが予想される。日本では、地域包括ケアシステムの拡充、多職種の連携、さらに多職種が低栄養の弊害を認識しながら適切な支援体制を構築することが望まれている。第12回日本緩和医療薬学会年会(2018年5月25~27日、東京ビッグサイトTFTビル)で、吉田貞夫氏〔ちゅうざん病院(沖縄県)副院長、金城大学客員教授〕が講演した。

180526_yoshidashi.jpg吉田貞夫氏

サルコペニア診断の問題

 高齢者になると骨格筋量が減り、それが原因でADLが低下する状態がサルコペニアである。吉田氏は、サルコペニア診断には依然として問題が残っていると述べる。

 欧州の診断のアルゴリズムでは、まず高齢者の歩行速度を測り、握力を測って、握力が低下していたら筋肉量を測り、サルコペニアかどうかを診断する1)。しかし、例えば脳卒中で歩けない場合はどうするのかという問題がある。握力のカットオフ値をアジア人のものに変更したサルコペニア診断のアルゴリズム2)が発表されたが、歩行速度に関しては欧州人と同じ0.8m/秒が採用されており、ここまでゆっくり歩く日本人高齢者は少ないそうだ。

 日本人のサルコペニア診断基準案3)が発表され、歩行速度は日本人に合う1m/秒未満が採用されているが、残念ながらまだ普及しておらず、65歳以上対象であることも留意が必要だ。肝疾患におけるサルコペニア診断基準(日本肝臓学会)4)はCTで断面図から筋量を推測する方法で、歩けない患者でも診断ができるが、対象が慢性の肝疾患患者となっている。どの診断基準を用いるか悩ましい状態だ。

 「大規模な病院以外にも高齢者のいる施設、一般のクリニック、あるいは在宅で、サルコペニアの診断ができるのかが問題である」と同氏は指摘する。マンパワーが不足している、サルコペニアに対して十分な認識がない、BIAなどの測定器がないケースが多いという。そこで最近は、指輪っかテストを行うことがある()。

図 指輪っかテスト

180705_sa.png飯島勝矢.臨床栄養 2014; 125: 788-789.

 患者が自身の指で行うので体格の差の影響を受けにくく、本人にサルコペニアのリスクを認識してもらいやすいメリットがある。この指輪っかテストを使い、東口髙志氏(藤田保健衛生大学医学部)がWAVES(We Are Very Educators for Society)という活動を行っており、2018年12月8日に沖縄の首里城で開催が決定しているという。さらに吉田氏は、各県などにある医師会、薬剤師会、歯科医師会、歯科衛生士会、看護協会などと共同で、多職種向けに講演を行っている。「フレイルティやサルコペニアについて、今まで詳しく知らなかったが楽しく学ぶことができた」といった意見があり、「栄養に関心のある職種が多いと感じた」と言う同氏。

 一方、地域包括ケアの担い手となるべき医師は栄養への関心が低いことがあり、同氏が地域で主催している研究会における参加者のうち、医師の割合は5%以下だそうだ。薬剤師にも、ぜひこのような勉強会に積極的に参加してほしいと述べた。

サルコペニア=痩せているではない

 ADLとサルコペニアは、密接に関連している。サルコペニアは筋肉が減って痩せていくイメージがあるが、近年は、筋肉は減っているが皮下脂肪はあるサルコペニア肥満が問題になっているという。サルコペニア肥満は、インスリン抵抗性が非常に強く関連しているという研究データ5)がある。ただ栄養を取ればいいというわけではなく、インスリン抵抗性や高齢者の生理的なバックグラウンドにも注目しながら、栄養管理を行わなければならない。

(1)体重が1年で4.5kg以上減少(2)疲労感がある(3)活動量が減っている(4)歩行速度が低下している(5)筋力が低下している―の5項目中、3項目に該当するとフレイルティと判定される。フレイルティは、認知機能の低下や転倒・骨折・入院のリスク、合併症発症のリスクになる。ただ、フレイルティは可逆性であり、正常な状態に戻る可能性があるので、早く気付いて対応する介護予防的な観念が必要になるという。

見逃される高齢者の低栄養状態

 フレイルティを防ぐために必要なのは栄養管理である。吉田氏は、「高齢者の低栄養は見逃されることが多い」と述べる。フィンランドの研究では、療養病床に入院中の高齢患者1,043人について、看護師が栄養不良と考えていたのは15.2%にとどまったが、MNA(Mini Nutritional Assessment)を用いると56.7%が低栄養と判断された6)という。栄養補助食品などが提供されて改善されたのは6分の1だけだった。

 「MNAを用いると、簡単かつ数分でアセスメントが可能なので、ぜひ薬剤師にも活用してほしい」と述べる同氏。例えば、薬局での待ち時間の間に患者に記入してもらい、「○点なので、栄養状態に少し問題があるかもしれませんね」と伝える方法を提案した。

※(1)食事摂取量(2)体重減少(3)歩行、移動(4)精神的ストレス、急性疾患(5)神経、精神的問題(6)BMIまたはCC―の6項目で、栄養状態を評価できるツール

 高齢者の低栄養は、生存率にも影響を与えるといわれている。栄養状態が良好だと3年後の生存率は80%程度だが、低栄養だと20%程度しかないとの研究結果7)がある。At rsik(現在は低栄養でなくても、そのリスクがある)場合の3年後生存率は40%程度だ7)。手だてを打たないと、生存率が下がっていく可能性が示唆されている。

 なお、昨今問題になっているポリファーマシーについても、内服薬の数が多いとMNAのスコアが低いという研究結果8)があり、「薬剤師が活躍できる部分だ」と同氏は述べた。

高齢者ほど蛋白質を取るべき

 高齢者には、蛋白質の摂取が必要だ。若い人であれば1食当たり5gの蛋白質を摂取すると筋肉は増えていくが、高齢者では1食当たり15g取らないといけないという報告9)があり、これを同化抵抗性(アナボリック・レジスタンス)と呼ぶ。高齢者は粗食がいいと思われがちだが、実は高齢者ほどしっかり蛋白質を摂取することが重要で、野菜中心の食生活にしているという高齢者には「これにお肉や魚を一品足してみたらどうですか」と伝えてほしいと吉田氏は解説した。一方で、腎機能が悪い場合、多量の蛋白質摂取により腎機能をさらに悪化させる可能性がある。そのような場合はサプリメント、特にアミノ酸の中で唯一、筋蛋白質の合成を促進するロイシンを勧める方法があるという。

 最後に、同氏は「認知症患者には、食事を食べてもらえなかったり、味覚や嚥下機能に問題があったりと苦労するケースが多い。今後、認知症患者が食事を取らない場合の対応ノウハウを蓄積するシステムづくりを考えたい」と、今後の課題を述べて講演を締めくくった。

  1. Cruz-Jentoft AJ, et al. Age Ageing 2010; 39: 412-423.
  2. Chen LK, et al. J Am Med Dir Assoc 2014; 15: 95-101.
  3. 国立長寿医療研究センター.老化に関する長期縦断疫学研究、2012年.
  4. 日本肝臓学会.肝疾患におけるサルコペニア判定基準(第1版)、2016年.
  5. Lim S, et al. Diabetes Care 2010; 33: 1652-1654.
  6. Suominen MH, et al. Eur J Clin Nutr 2009; 63: 292-296.
  7. Kagansky N, et al. Am J Clin Nutr 2005; 82: 784-791.
  8. Griep MI, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2000; 55: M57-63.
  9. Breen L and Phillips SM. Nutri Metab 2011; 8: 68.

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