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増え続ける梅毒 妊婦感染の現状

2018年度 日本女性薬剤師会学術講演会

2018年07月12日 10:15

 2010年以降、梅毒感染の拡大が止まらず、2017年には患者数が44年ぶりに5,000人を突破した。特に、若い女性患者が多くなっている性感染症の現状について、2018年度 日本女性薬剤師会学術講演会(2018年6月24日、東京都墨田区)で鈴木俊治氏(葛飾赤十字産院副院長)が講演した。なお本稿では、主に梅毒について取り上げる。

 性感染症(Sexually Transmitted Infections; STI)は、性行為によって感染する疾患の総称だ。多くは粘膜感染し、まれに飛沫感染や皮膚感染するものもある。感染した粘膜に炎症を来して、他の性感染症にかかりやすくなるという特徴もある。

梅毒について復習しよう

 梅毒は、梅毒トレポネーマ(T. pallidum)によって感染する。主に性行為を介して粘膜の小さい傷から進入し、血液によって全身に散布され、局所だけでなく全身に多様な臨床症状を引き起こす。妊娠中は経胎盤的に胎児に感染し、胎児死亡や先天梅毒を引き起こすことが知られている。

 感染後3週間ほどの潜伏期の後に、その部分に小さな硬結が生じる。しばらくすると、その表面が剥脱、潰瘍化する(硬性下疳)。痛みはほとんどなく、1~2週間後に周囲の鼠径リンパ節が腫れる(1期梅毒)。3カ月ほどで2期梅毒となり、バラ疹と呼ばれる皮疹や扁平コンジローマ、梅毒性乾癬が生じる。このころに受診する患者が多いという。感染から3年ほどで、ゴム腫と呼ばれる結節性の梅毒疹が現れる(3期梅毒、現在はほとんど見られなくなった)。また最近では、梅毒の神経症状は梅毒感染初期から起こりうることが分かっている。

 感染力が一番強いのは2期梅毒から2期潜伏期に入る直前といわれており、3期になると感染力はなくなっていく。7割ほどは自然治癒するが、どの程度症状が出るか、感染力があるかは、個人差が大きいといわれている。

 主な梅毒検査に、非特異的検査であるRPR(またはSTS)テストがある。梅毒に特徴的な抗原に対する抗体価検査で、感染して2~4週間ほどで陽性反応が出る。一方、TPHA法はT. pallidumを抗体とする特異的検査で、感染後1カ月ほどで陽性化する。どちらも感染後ある程度の時間がたたないと陽性化しないことに注意が必要で、これらの検査を組み合わせて診断を行う。

 STIは混合感染することが多く、HIVと併発した場合の特徴として、かなり重症化して早い進行につながることが分かっている。「梅毒と診断した場合は、他のSTIの感染についても確認することが望ましい」と鈴木氏は述べる。

日本だけでなく世界中で増えている梅毒

 梅毒の治療は、ペニシリン系抗菌薬が第一選択である。いまだにペニシリン系抗菌薬への耐性は生じておらず、治療法が変わっていないことが特徴だ。

 それにもかかわらず、2017年末に5,000人を超えたと報道された通り、近年、日本では梅毒患者は増え続けている。経口避妊薬が広まってコンドームの使用が減り、STIが増えてきたという説があるが、もしそうなら梅毒以外の感染症も増えているはずで、梅毒だけが特徴的に増加している説明ができない。

 近年、T. pallidumの株が変わってきたという報告1があり、感染の中心になっているのが以前のニコル系統からSS14系統になっていることが、世界的な感染拡大の理由として考えられている。海外では、特にペニシリンアレルギーのある患者に対してマクロライド系抗菌薬が使われるが、SS14系統はそれらの抗菌薬に耐性を示すという。

若い妊婦で増えている梅毒を防ぐために

 日本における梅毒患者の年齢層は、男性は幅広く、女性は20歳代が多いという特徴がある。また、異性間による場合、男性は1期に診断されることが多いが、女性や同性間で感染した男性は2期に診断されることが多いという。性行為の受け身側は、感染時期や症状を自覚しないことが多く、診断が遅れがちになる。

 『産婦人科診療ガイドライン-産科編2017』では、「治療不要と考えられる陳旧性梅毒と明らかに診断される例や、治療歴がありSTS法抗体価≦8倍かつ特異的検査法陽性例以外は、速やかにペニシリンを中心とした抗菌薬投与を行う」とされた。

※感染後長期間経過しており、既にT. pallidumが死滅し感染力がない、したがって治療の必要性がない状態を示し、一般的には感染後長期間経過(少なくとも4年以上)していることが明らかな状態。また治療歴がありSTS法抗体価≦8倍かつ特異的検査法陽性例も、治療の必要はなく陳旧性梅毒同様と見なすことができる2)

 母子感染による先天梅毒に関して、母体が無治療の場合、40%の児が死に至る可能性がある3といわれているが、適切に治療が行われれば、98%の先天梅毒は予防できる。未受診の妊婦、妊娠中に性行為をして梅毒に感染した患者が、先天梅毒のリスクになっている。

 日本産婦人科医会で調査した梅毒感染症に関する全国調査では、全国2,458の分娩取り扱い施設に梅毒感染率および周産期予後についてアンケートを行い、1,919施設(78.1%)から有効回答を得た(2015年10月~16年3月)。この結果から、若い妊婦の感染率が高いことが分かる(表1)。

表1 わが国における妊婦の梅毒感染率

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 妊娠初期のスクリーニングで梅毒と判明したのは78%、未受診で妊娠の中期以降に診断された妊婦は16%であった(表2)。「初期は陰性だったが、それ以降に陽性と判明したケースも5%あり、妊娠初期だけではなく、それ以降も梅毒のチェックが必要だ」と鈴木氏は述べ、「若年層への性教育、STI高リスク群に対する予防的アプローチが重要である」と締めくくった。

表2 わが国における妊婦の梅毒感染の診断時期

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  1. Arora N, et al. Nat Microbiol 2016; 2: 16245.
  2. 日本産科産婦人科学会.産婦人科診療ガイドライン-産科編2017.
  3. Congenital Syphilis-CDC Fact Sheet.
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