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第12回 都会人ばかりの不思議な島

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2018年08月01日 08:00

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 学生の頃、『秘境・五島列島』というテレビ番組があると紹介され、観たことがあります。内容は、福江島の南側の「白浜」という色の名の付いた浜の向こうに、「黄島」「黒島」「赤島」という色の名の付いた島が3つあり、実はそれが色で方位を表しているのだとか。そしてその中心に位置する無人島が神の島だという、何ともいいかげんな内容です。その無人島は、つい最近も芸能人が無人島で生活する番組で使われたそうです。五島は島が多いので、この手の番組には重宝されるようです。

 さて、話を戻します。「井上先生、1日で3カ所の島回りってできるかな〜?」「船さえチャーターできれば大丈夫じゃないですか?」ということで即決。私たちは、朝早く出発して、船で黄島へ行き説明会を行い、そのまま黒島へ向かって説明会を行い、それから赤島へ渡ってお昼を食べてから説明会をやるという無謀な計画を立てたのです。これらの島には、訪問調査でも行ったことはありますから、なんとなく感じはつかめます。赤島には、割と大きな神社があり、その前の広場には木製のテーブルが設置されていますから、晴れていれば、そこでお弁当を食べようという算段です。

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赤島神社

住民センターに人が住んでいる?

 まずは、海上タクシーも営んでいる黄島のお寺の住職さんに連絡を取り、海上タクシーのチャーターと黄島でのお薬説明会を快諾いただきました。黒島も、1世帯2人だけですので、話は簡単です。

 そして最後に赤島へ連絡です。「市役所から連絡が入っていると思いますけど、お薬説明会の会場は住民センターでよろしかったですか?」。すると、思いがけない答えが。

「役所から連絡はあったけど、今、住民センターには人が住んでるから、どうかな〜」

「えっ?住民センターに人が住んでいるのですか?」

「今度移住してきた人が、自分で家を建ててるんだけど、その間、住民センターに住んでるんだ。その人が承知してくれれば大丈夫だけどね〜」とのこと。

 私もどうして良いのか分からずに、ちょっとの間、思考が停止してしまいました。そんなことってあるのだろうか。でも、考えても仕方ありません。すみません、その方に確認いただいてから連絡をいただけますか?ということで、後日、無事にOKの返事をいただくことができました。

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赤島に到着

五島で唯一、人口が増えている不思議な島

 実はこの赤島、初めて調査を行った平成21(2009)年には人口9人だったのに、平成25(2013)年には20人と、人口の減少が激しい五島の中で唯一、人口が増加している不思議な島なのです。聞くところによると、最初、都会から赤島へ移住した方の様子がテレビで紹介されたらしいのです。すると、その番組を観た方たち数人が移住してこられ、五島の二次離島に移住者が増えているということで話題になり、それがまたテレビで紹介され、またまたそれを観た方たちが島へ移住してきたというのです。

 私たちがそのことを知ったのは、二次離島の訪問調査の時でした。一軒一軒、お宅を訪ねていった際に、もともと赤島出身という方はほとんどおられず、移住された方たちばかりだったのです。必要な医薬品は、都会のドラッグストアから購入してくる。今は元気だからこの島で暮らしているけれど、病院の薬とか必要になってきたら、都会へ帰るとのことでした。私は、いろんな方たちがいるものだな〜と感じていたのでした。

二次離島には住んでいるが、実は都会人

 さて当日は、おかげさまで天候に恵まれ、順調に黄島、黒島と進み、最後の赤島です。予定通り、神社の前の広場でお昼を済ませたら、住民センターへ行ってみました。なるほど、部屋にはロープを張って洗濯物が干してあったりして生活感があります。なんか他人の家にお邪魔する感じで恐縮して入った私たちでしたが、住人の方はとてもいい方で「逆にすみませんね〜」と、一緒に設営を手伝ってくださいました。

 そして、そのうちに皆さん集まって来られてスタートです。質問も「雨水を貯めて使っているが、水の違いによって薬の効果が変わるか?」なんて、島独特のものもありますが「ジェネリックを使いたいときはどのように相談すればよいか?」とか、「通販やネットで健康食品を買って飲んでいるんだけど、これどう思う?」「うちの子も薬剤師してるのよ」とか、若干いつもと趣きが違う感じがします。

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赤島での説明会風景

 そんなこんなで、ひと通り説明会を済ませたら、しばらく島を散策です。以前、私の薬局に赤島の方が来られて「俺はね、赤島でキリンを飼っている。いるんだったらやるけど、いらんか?」とのことでしたので、しばらくキリンを探してみましたが、やっぱりいませんでした。赤島、なかなか奥が深いです。

 さて、次はどの島に行きましょうか。

五島曳船詩・五島のお盆

五島のお盆の夜の墓はとてつもなく騒がしい。

 幼い頃、お盆が来るのが、とても待ち遠しかった。なぜかというと、お墓で花火ができるからである。その頃は、これが当たり前のことであり、日本全国、だいたいみんな同じことをしていると信じて疑わなかった。サンタは存在するというのと同じくらいに。

 これら一連の行事が特殊なことであると知ったのは、随分と大人になってからのことである。地区によってさまざまであるが、我が家では、お盆の数日前に、お墓を取り囲むように灯籠掛けを立て、お墓の線香を立てる砂などを新しくする。そしてお盆当日の夕方、灯籠缶に灯籠を詰め、線香と蝋燭と水とマッチを構えるのである。そして忘れてはならないのが、大人は団扇と酒とつまみ。子供は大量の花火を抱えて墓に向かうのである。

 明るいうちは、大人は灯籠に蝋燭を立て火を灯し、墓をぐるっと囲うように灯籠掛けに灯籠を下げる。子供たちは、まだ明るいうちは花火のパラシュートを打ち上げ、落ちてくるパラシュートを取り合う。

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夕闇に浮かび上がる灯籠の灯り

 少し暗くなってくると、待ってましたと持ってきた花火に興じる。ヒューッパーンというロケット花火、パンパンパンと爆竹が鳴り、シュパッシュパッと連続花火が飛び交う。大人たちは、それを眺めながら宴会を始める。

 そのうちに、川を挟んでのロケット花火の打ち合いが始まったかと思えば、若いものたちが大量の爆竹をつなぎ爆音を轟かせる。そして墓所は戦場と化すのである。

 五島のお盆に初めて参加した者は驚き、中には恐怖を覚えるものもいるらしい。ひと通りの喧噪が落ち着くと、静かに線香花火でも灯し、後片付けを終えたら、先祖に挨拶をして、また来るよと囁くのである。

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宴の最後を飾る線香花火

 五島のお盆の夜の墓はとてつもなく騒がしい。でも、一度体感したら、また参加したくなるはずである。

goto12_tomb.jpg灯籠の中で灯していた残りの蝋燭をお墓に灯してお別れ 

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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