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トップアスリートを世界に送る薬剤師

インタビュー:上東悦子さん オリンピック選手をサポート

2018年08月01日 12:00

 

 オリンピック選手のパフォーマンスや健康を多面的にサポートする施設、国立スポーツ科学センター(Japan Institute of Sports Science; JISS)。そこで、15年近くトップアスリートを支えてきた薬剤師がいます。今回、スポーツファーマシストの上東悦子氏に、JISSではオリンピック選手をどのようにサポートしているのか、そして東京オリンピックを見据えて、薬剤師にはどのような活動が期待されるのかをうかがいました。

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 上東悦子氏(国立スポーツ科学センター

トップアスリートを世界へ!

  1. アンチ・ドーピングのことはJISSに!
  2. メディカルチェックでアスリートを守る
  3. 東京オリンピックに向けて今こそ行動を
  4. 国立スポーツ科学センターとは?

アンチ・ドーピングのことはJISSに!

 国立スポーツ科学センター(Japan Institute of Sports Science; JISS)の1階にあるスポーツクリニックは完全予約制だ。診療科目は内科・整形外科・歯科・婦人科。午前中がメディカルチェック、午後が診療となる。上東氏はクリニックで処方された医薬品の調剤・服薬指導を行うが、スポーツドクターが処方するため、禁止物質が含まれることはまずない。そもそもドクターは電子カルテを使用しており、禁止物質は「常時禁止、または競技会禁止」の警告が出るシステムになっている。禁止物質を含まない医療用医薬品は豊富にあり、各疾患に対して十分、対応可能である。

 JISSのクリニックにない診療科(耳鼻咽喉科、皮膚科等)であれば、アスリートは地域の病院を受診することになる。そうした際、受診中のアスリートから問い合わせの電話が入ることもあるという。

 「トップアスリートはアンチ・ドーピングの意識がかなり高いので、ドーピングホットラインを利用したり、JISSに相談することが多いようです。私が医師と直接話をし、代替薬やTUE申請の説明をすることもあります。その他、ドラッグストアで痛み止めを選ぶ際に電話をかけてきたり。クリニックを受診したことがあるアスリートからの問い合わせが多数です。薬剤師の顔が分かるので聞きやすいのでしょう」(上東氏)。クリニックの窓口に直接、医薬品やサプリを持ってくるケースもあるそうだ。

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ドーピングに関する問い合わせには、何を参考に回答しているのかと尋ねると、「ネットや添付文書ですが、だいたいの情報は頭の中に入っていますね。もう10年以上携わっていますから」と笑顔で返してくれた。アスリートにとって頼れる存在なのだろう。

メディカルチェックでアスリートを守る

 調剤、問い合わせ対応と並んで重要な業務となるのがメディカルチェックだ。これは、JOC(日本オリンピック委員会)が派遣する国際競技大会(オリンピック、アジア大会、ユニバーシアード等)に出場予定の選手に対して、派遣前に行う健康診断のようなものだ。内科的メディカルチェックでは、血液検査、尿検査、心電図等に加えて、1年以内に使用した薬(服薬中を含む)・サプリメントについて記載する項目がある。これは、禁止物質使用の有無と罹患した疾患を把握するため。

 基本的にアスリートは健康なので、薬を使用したことすらあまり覚えておらず、「この冬、風邪やインフルエンザには罹りませんでした?」と聞いて、始めて「ああ、そういえば風邪で薬を飲みました」と、大切な情報を掘り起こせたケースもあったという。

 取材に赴いた6月は、8月のアジア大会に出場するアスリートとその候補者700人余が、メディカルチェックを受ける時期であった。

 「メディカルチェックで禁止物質を使っていたことが分かった場合には、注意喚起やTUEを申請するように指導します。が、このような"うっかりドーピング"がないように、アンチ・ドーピング教育は前々からしっかり受けてほしいですね。代表選手の座を逃すことにもなりかねません」と上東氏は言う。

※TUE(Therapeutic Use Exemptions):治療使用特例。禁止物質や禁止方法を治療目的で使用したい競技者が申請して、認められれば使用できる手続きのこと。
 詳しくは関連記事『治療に必要な薬がドーピング対象!どうしたらいい?』

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調剤室 提供:日本スポーツ振興センター

東京オリンピックに向けて今こそ行動を

 2012年ロンドンオリンピックには薬剤師としてではなく、JSCの職員として同行した上東氏。

 アスリートは最高のコンディションに調整してオリンピックにのぞむ。万が一体調を崩したとしても、アンチ・ドーピングに詳しい医師が数名帯同しているので、万全の態勢でチームJAPANをサポートする。薬剤師がサポートする機会は全くないとは言えないが、ADカード(アクレディテーションカード)の発行枚数が限られる中、その1枚を与えられることは残念ながらないという。

 トップアスリートを支えるスポーツファーマシストの役割について上東氏に尋ねると、「医師をサポートすること。アンチ・ドーピング教育を行うこと。出発までのサポートが私たちの仕事です。東京オリンピックについても同じですね。オリンピックの先を見据えて、ジュニア世代を含むアスリートへアンチ・ドーピング教育を行なう。オリンピック開催の前段階の今こそ、私たちが行動すべき時」と、熱く語った。

国立スポーツ科学センターとは?

国立スポーツ科学センター(JISS).jpg提供:日本スポーツ振興センター

 東京都北区の広大な敷地に、国立スポーツ科学センター(Japan Institute of Sports Science; JISS)、味の素ナショナルトレーニングセンター、アスリートヴィレッジ(宿泊施設)、屋内テニスコート、陸上トレーニング場が集約されている。トレーニング、リハビリ、放射線検査、診療、栄養相談、心理カウンセリングなど、多面的にアスリートをサポートする体制が整う。日本オリンピック委員会(JOC)およびJOC加盟競技団体に所属する選手・スタッフが専用で利用する、日本初のトップレベル競技者用施設だ。

 JISSは、日本の国際競技力向上を目的に、スポーツを「科学・医学・情報」の分野から支援する拠点として2001年にオープン。現在は独立行政法人 日本スポーツ振興センター(JSC)の下部組織として、JOCや各競技団体と連携のうえ、各専門領域の調査・研究を推進し、競技者・指導者等へ支援を行っている。JISSは3つのセクション「スポーツ科学部」「スポーツメディカルセンター」「スポーツ研究部」から成り、スポーツファーマシストの上東悦子氏は、「スポーツメディカルセンター」にある「スポーツクリニック」に所属している。

【取材日2018年6月19日】

次の記事は、トップアスリートを支援する立場だからこそ見えてきた、地域薬局ならではのスポーツ選手との関わり方について。
薬剤師がスポーツの世界に踏み込むための5つのアイデア

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