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第13回 緊張の説明会

島々の住民と共に生きる〜長崎県五島市・薬剤師奮戦記 ゆうとく薬局 平山匡彦

2018年09月03日 08:00

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レジェンド登場

 大学を卒業して、しばらくした頃のことです。たまには勉強をしてみようと、飛行機に乗って福岡まで講演会に行ってみました。私は、その講演会の内容に雷を受けたような衝撃を受けてしまいます。そのステージに立っていたのは、当時、九州大学に赴任されたばかりの澤田康文先生でした。

 なんて面白い話なんだろう。そこで早速、澤田先生が執筆された本を注文し、耽読することになります。その時注文した『薬剤予測学入門』という書籍は、後に五島に来られた澤田先生にサインをいただき、今でも大切に本棚に並んでいます。

 私たちが行なっている「お薬説明会・相談会」は、縁あって澤田先生の指導のもとに行われているのですが、澤田先生から突然メールがありました。

「9月7日 私も平山先生に随行させていただきます」と書いてあります。なんと、澤田先生が参加されるというのです。ちなみに、この日は私の誕生日です。最高の誕生プレゼントです。しかし、一抹の不安が。「まてよ。澤田先生が随行するってことは、澤田先生の御前で、薬の説明をするってことになるのか? まじで大丈夫なのか?」

まずは、例の教会での説明会

 当日は、澤田先生と一緒に、同じ教室の三木晶子先生も来られました。三木先生は、前年の黄島と黒島の説明会に続いて2回目の参加です。前日までの雨が嘘のように最高の天気で、波ひとつなく少しほっとしました。

 会場に着いたら、澤田先生や三木先生にも手伝っていただきながら会場設営をして、住民の皆さんが入って来るのを待ちますが、なかなか入って来られません。教会に行って町内会長さんたちに話を聞くと、今朝、地区の方にご不幸があり、少しバタバタしていて参加者が少なくなるとのことです。仕方ありません。ここは教会です。

 それでも、薬の飲み合わせの実験をすると「この人は手品師じゃろ」と冗談を言って盛り上げてくれる住民の皆さんに感謝しながら進めさせていただきます。

 さて、澤田先生はと目をやると、後ろの方で、じっと様子を見ています。「後で何か指摘されるんやろか」と、こちらはびくびくものです。

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湿布の貼り方をレクチャー

澤田教授がアンケートを!

 次は猪之木公民館です。こちらの会場も3回目ですので、ほとんどの方が顔見知りです。実は、このお薬説明会では、住民の方にアンケートをお願いしています。しかし、ほとんどが高齢の方ですので、なかなか自分たちではアンケートの記入ができません。なので、だいたい1人ずつ回って、アンケートの内容を読み上げながらの代理記入になります。

 私たちがアンケートを取り始めましたら、なんと、澤田先生もアンケートを取り始めていました。実は、事前に澤田先生から、住民の皆さんには「東京大学の教授が来ている」とか言わないほうがいいですよ、と言われていたので、詳しくは紹介していないのです。素性が分からない都会の人です。しかも、ほとんど五島弁しか通用しない島の人たちに対して、さすがのチャレンジ精神です。

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五島弁に怯むことなくアンケートを取る澤田教授

次なる指令

 説明会が終了したら、あらかじめ買って来ておいた弁当をつつきながらの反省会です。何を言われるか冷や冷やものでしたが、先生方はとても優しく「薬の吸収のことを話しておられましたけど、アルコールは胃でも吸収されますので、そのことも話してもいいかもしれませんね」なるほどです。このネタは、今も時々使わせていただいています。

 そして、「講義スタイルの一方的な説明会よりも、もっと住民の方たちとの会話や質問を充実させてもいいんじゃないですか?」とのありがたい助言。これは翌年からの説明会のスタイルに大きな変革を与えることになります。

「澤田先生、午後から世界遺産候補の五輪教会まで足を延ばしてみませんか? かなり歩かなきゃいけませんけど」と提案すると、澤田先生は「今日は日差しが強いですね。私は日焼けに弱いんですよ」とのことです。意外な弱点発見です。へ〜ぇ、と思いながら、五輪教会付近の駐車場に向けて車を飛ばします。今回は5人なので、車2台に分乗です。1台が、いつもの井上先生と保健所の嵩下先生、それに東大の三木先生。もう1台は私と澤田先生の2人ですので車中も緊張です。

「平山先生、最近は、何か面白い事例はありませんか?」へっ?急に言われても〜な感じで、なんとなく2つほど絞り出すと、「あるじゃないですか〜、それ、まとめてから送ってください」とのこと。全てが研究に結び付けられてしまいます。一瞬たりとも気が抜けません。いい経験ができました。

goto13_origami.jpg折紙展望台での記念撮影。日差しを極力避ける澤田教授

 そしてこの日の澤田先生のアイデアと、先日の「聞きたかことのあったときには、あんただおらんじゃん」という住民からの指摘を参考に、私たちは次なるステージを目指すことになりますが、その話の前に、次回はお薬説明会・相談会の中で集めて来た調査の内容について、少しばかり紹介したいと思います。

五島曳船詩・福江島 福江教会

城跡のお濠前から坂を上って行くと奇跡の教会が見えてくる。

 昭和37年9月26日、私が生まれて3週間ほど経った日のことである。福江島の中心街が炎に包まれ、全てが燃え尽くされてしまった。福江大火である。

 その一面の焼け野原の中、ぽつんと十字架を掲げ建っていた建造物があった。福江教会である。ほとんど消失した中心街の中、焼け残っていたのであるから、それはまさに奇跡の教会である。その姿は、街を復興する者たちに勇気を与えた。それは宗教の壁を越えていたはずである。

goto13_fukuechurch.jpg建物の間から見える福江教会

 教会には、現在も多くの信者たちが訪れ、ミサが終わると、その周辺は多くの人であふれかえるほどである。ミサは朝の6時から行われるので、早朝より教会の扉は開かれている。最近は、冬の色鮮やかなイルミネーションが話題となっているらしいが、一面の雪景色の中に、静かに白く佇む教会もなかなかいい。

goto13_snow_church.jpg雪中の福江教会

 しかし、教会の扉を開かずとも、中心街にそびえる十字架は、町のあらゆるところから見上げることができる。朝陽と共に見える十字架に1日の祈りを捧げ、沈む夕陽の中に見える十字架に1日の無事を感謝するのである。これはこの島で生まれ育った者にとってごく自然なことであり、ここに生き続ける限り同じことの繰り返しであろう。

goto13_morning_church.jpg朝陽に浮かび上がる福江教会

 そしてまた明日、城跡のお濠前から坂を上って行くと奇跡の教会が見えてくる。これは私たちの日常であり、この島の生活の一部なのである。

【コラムコンセプト】

読者の皆さんは、薬局もなく薬剤師もいない離島があることを、そして、薬剤師とはどんな役割を担う医療者なのかを知らない人がいることをご存じですか。私は長崎県の五島列島にある福江島で、ゆうとく薬局という小さな薬局を経営している薬剤師です。長崎県薬剤師会離島対策委員会の活動として、東京大学の澤田康文教授との共同研究で、離島住民の医薬品適正使用に関する調査研究を行っています。これからしばらく、私の周辺で巻き起こったドタバタ劇を紹介させていただくことになりました。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

平山匡彦ひらやまただひこ氏 プロフィール】

大学では、写真部やハンドボール部など複数のクラブを掛け持ちするなど充実した学生生活を送る。卒業後は、石川県金hirayamatadahiko.jpg沢市の徳久和夫先生、綿谷小作先生に師事し、その後、郷里の長崎県五島市へ戻り、平成10(1998)年よりゆうとく薬局を独立開業。仕事の傍ら、友人たちとNPO団体を設立し、タウン情報誌の発行の他、さまざまな島おこし活動を行う。薬剤師会の活動としては、平成29(2017)年現在、一般社団法人長崎県薬剤師会理事及び一般社団法人五島薬剤師会理事を兼任。長崎県薬剤師会の離島対策委員会に所属し、東京大学の澤田康文教授の指導による離島住民の医薬品適正使用の調査をきっかけとして、現在、薬局がなく薬剤師が存在しないような島々を巡りながら、薬の説明会や相談会を継続開催している。

ゆうとく薬局:http://www.yutoku-ph.jp

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