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若年双極性障害の薬物療法

治療前に正確な診断を

2018年09月03日 14:30

 わが国では児童・思春期(若年者)における双極性障害の薬物療法に関するエビデンスは極めて乏しく、海外のエビデンスを参考に治療を行う必要がある。しかし、海外のエビデンスにおいても各薬剤の有効性や安全性などで不明なことがまだ多い。近畿大学精神神経科准教授の辻井農亜氏は、若年者の双極性障害の特徴と薬物療法の現状について第15回日本うつ病学会(7月27〜28日)で報告。「効果判定と副作用モニタリングを慎重に行う必要がある。しかし、その前提として正確に双極性障害の診断を行うことが重要」と述べた。(関連記事:「妊婦の双極性障害、薬物中断で再発率高い」

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若年者では併存症が多い

 米国では10年ほど前、外来を訪れる双極性障害患者が非常に増加したとの報告があった(Arch Gen Psychiatry 2007; 64: 1032-1039)。報告によると、約10年間で成人(20歳以上)は2倍に増加したが、若年者(20歳未満)では40倍と急激な増加が見られた。成人では女性が多いが若年者では男性が多く、若年者では注意欠陥・多動性障害(ADHD)の併存率が高いなどの背景があった。

 若年者の双極性障害では、躁病エピソードの中核的な症状である気分高揚や誇大感が60%前後にしか見られず、混合状態/急速交代型を呈することが多く典型的な病像を取らない。また、併存症が多いことも特徴といえる〔ADHD 53%、反抗挑戦性障害(ODD)42%、不安障害23%など〕。

 一般的に双極性障害の好発年齢(躁症状の出現)は平均21歳ごろである。その前に非定型的な症状(17歳ごろ)、抑うつ症状の変動(18歳ごろ)があり、抑うつエピソードを満たして発症に至る。早期診断は発症前の前駆症状〔不安(不安障害)、抑うつ(非定型の特徴・精神運動抑制)、気分の不安定さ、易怒性、混合状態、ADHDなど〕の検出が鍵を握る。中でも、現在は易怒性、混合状態、ADHDに注目して研究が行われているという。辻井氏は「双極性障害の治療について論じる前に、そもそも目の前にいる小児が双極性障害であるかどうかということが問題となる」と強調した。

発症すると進学に支障を来す

 米国、オーストラリア、ニュージーランド、英国、ドイツの5カ国において双極性障害と診断される若年者は、米国が著明に多く、英国は極めて少なかった(BJPsych Open 2015; 1: 166-171)。この結果は、英国は過小診断で米国は過剰診断ではないかと指摘されている。診断基準の違いに加え、文化の違いなどが関係している可能性もある。辻井氏は「データは乏しいが、躁症状の表出には人種間の差なども考えられるのではないか」と考察した。

 20年前には「小児にはうつはない」と言われていたが、現在では成人と同じ診断基準を満たす小児のうつ病の存在に注目が集まり、抗うつ薬が臨床応用されてきていると思われる。最近では診断基準も成人と同じものが使われており、同氏は「成人の診断基準を小児にもしっかり当てはめることが必要と思われる」と述べた。若年者の双極性障害では、小〜中学校で症状が発現するとその後の進学に支障を来し、将来が制限されることが大きな問題といえる。

薬物療法には定期的なモニタリングが必須

 薬物療法は、躁状態に対しては双極性障害Ⅰ型(躁状態を伴う従来型)では気分安定薬(リチウム、バルプロ酸)を用いるが、女児に対しては慎重に処方する。混合状態/急速交代型/Ⅱ型(うつ状態と軽躁状態)には非定型抗精神病薬、抑うつに対しては気分安定薬または非定型抗精神病薬。維持療法についてのエビデンスは乏しい。いずれにしても、薬物療法を行う場合には、定期的なモニタリング(身体評価、採血、心電図検査など)が必須となる。

 辻井氏は「①成人では躁状態、混合状態に対する治療のゴールドスタンダードであるリチウムが若年者では有効ではない②非定型抗精神病薬は効果が認められるものの体重増加が起こりやすい−という2点が若年双極性障害患者における薬物療法の特徴と考えられる」と指摘した。

 若年双極性障害患者の薬物療法については、現時点で確認されているエビデンスに従って、効果判定と同時に副作用モニタリングを慎重に行う必要がある。同氏は「しかし、その前提として双極性障害の診断を正確に行うことが必須であることを忘れてはいけない」と結んだ。

(Medical Tribune Webより転載)

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