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飛び込んだその先で、新しい目標を見いだす―前編

私のターニングポイント vol.3 シドニー大学大学院薬学部博士課程後期 藤田健二さん

2018年09月06日 11:40

 患者にとっていい薬局とはどんな薬局なのか。それを実現するために、自分が果たすべき役割を模索している読者も多いのではないでしょうか。

 今回お話を伺うのは、シドニー大学大学院で薬局の質を評価するための指標"QI (Quality Indicator) "の開発・運用に関する研究をしている藤田健二さんです。創薬や薬局業務に携わった経験を生かし、薬局の価値を最大化するための挑戦をされています。

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シドニー大学大学院薬学部博士課程後期 藤田健二さん

【藤田健二さんプロフィール】

昭和薬科大学大学院で薬品化学の研究に取り組み、卒業後、製薬企業で新薬の探索研究に3年間従事。薬局チェーンに転職し、薬局薬剤師業務に3年間、社内外の学習支援・薬局研究のマネジメント業務に4年間携わる。2015年6月シドニー大学医学部臨床疫学修士課程修了。2016年3月から同大学大学院薬学部博士課程に在籍。

海外での学びを共有することで、進路に迷っている人の役に立ちたい

―シドニー大学大学院に留学中です。どのような研究をされているのでしょうか。

藤田:薬局の質を可視化するための指標の開発と運用に関する研究をしています。

 患者さんにとって、処方箋薬をもらうという意味ではどこの薬局に行っても同じですが、処方監査の質をはじめ、薬剤師が話す内容や対応の仕方は、薬局・薬剤師によって異なります。今後、日本にある約5万9,000軒の保険薬局の数は、減っていくという予測も耳にします。そうであれば、質の高いサービスを提供している薬局が適正に評価されて生き残るべきですよね。薬局の質を数値で表すことができれば、現状把握と目標設定が可能となるため、目標達成に向けたアクションを起こすことができます。

―かなり実践的な研究ですね。

藤田:患者さんに対するアンケートで来局理由を聞くと、必ず上位に「家や病院から近いかどうか」が入ってきます。だけど、中には「薬の飲み合わせの確認」や「効果や副作用の確認」といった、薬剤師業務そのものの質を評価して来局する患者さんもいます。

 提供すべきケアを提供したかどうかを評価するための指標として、海外の薬局業界でも数年前からこうした「質の可視化」が注目されはじめていますが、実際に現場で運用できている国はまだほとんどありません。そういった各国の現状を把握しながら、日本の薬局版QIの開発を進めています。

―日本とオーストラリアを行き来して、ワークショップの開催や学会での発表と、精力的に活動されていますね。

藤田:無事に卒業できるように研究をして論文を書くことも大事なのですが、海外での学びを論文以外の形で共有することも同じくらい大事だと思っています。

 私はたまたま環境や運に恵まれていたこともあって、こうして海外で博士研究ができていますが、健康面や金銭面、周囲の引き留めなど、色々な理由で行動に移せていない人をたくさん知っています。ですので、海外での学びを発信することで、これからどうしようと迷っている人の判断材料になればいいかなと。 

創薬で社会に貢献する!-その思いで乗り越えた研究の日々

―それでは、藤田さんのキャリアについてお聞かせください。最初の大学院を卒業されてから製薬企業に就職し、創薬の道へと進まれました。もともと研究職に興味があったのでしょうか。

藤田:学部4年生(当時の最終学年)になって進路を選ぶとき、病院か薬局かドラッグストアという三択の中から就職先を選ぶ人がほとんどでした。しかし、どうしてもそういった職場で自分が働く姿が想像できなかったんです。それに対して薬の研究には、働くというよりも趣味の延長線上というイメージを持っていました。

 当時、薬品化学研究室に在籍していて、有機合成が楽しかったからだと思います。結局、研究者の道を志して大学院にそのまま進みました。大学院での2年間は、通学時間を削るために、週末以外は大学構内の駐車場に止めていた車の中で寝泊まりして研究に没頭しました。今はもう、そんなことは許されないみたいです。古き良き時代ですね。

―研究職に就いてからは、どのような仕事をなさっていたのですか。

藤田:有機合成の部署には、危険な試薬や高価な試薬を使ってもいいから、とにかく耳かき1杯分の化合物を合成することをミッションとする部署と、安全で簡単に安く合成できるルートを開発することをミッションとする部署がありました。前者は0から1をつくる部署、後者は1のつくり方を磨く部署ともいえます。私は両方の部署を経験しました。

―薬を開発して実際に使われるようになるまでには、非常に長い時間と労力がかかりますよね。苦労したことはありますか。

藤田: 単離・合成できるか分からない候補化合物を、6カ月以内に合成してほしいと上司から依頼されたことがありました。途中の工程まではスムーズに合成できたものの、ある工程から3カ月くらい一歩も前に進めなくなってしまったことがあります。

 反応をかけた後、予期しない化合物ができた場合は、それを単離・精製していったい何ができたのか化合物を同定します。そうして失敗の原因を突き止めることが少しずつ成功へとつながっていきます。期限ギリギリに目的の化合物を合成できたときは、喜びよりも心の底からほっとしたという感じでした。

―製薬企業での創薬の仕事にやりがいを感じていたのに、なぜ転職されたのですか。

藤田:当時は研究所と会社の寮との往復で、寝る・食べる以外はひたすら研究という生活スタイルだったのですが、大学院時代の車中生活より快適ですし、研究に没頭できる環境にいられて嬉しく思っていました。それでも、数年間そうした生活を送っていると、「この先、自分は何をどうしたいんだろうか」と思うようになってきました。大学院時代に追いかけていた「研究職に就く」という目標がなくなり、社会人になってからもモチベーションを高く維持し続けるだけの明確な目標が立てられなかったんだと思います。

 そうした思いを抱えて仕事を続ける中、次年度の国内留学制度の候補者として自分の名前が挙がりました。ありがたかったのですが、社費で国内の研究室に留学するので、その後数年間は会社に貢献する必要があると聞いていたため、決めるならこのタイミングしかないと思い転職しました。

―創薬の研究から調剤の仕事に移られました。大きなキャリアチェンジですね。

藤田:創薬の起点となる仕事に没頭していたので、今度は患者さんと直接向き合って業務ができる薬局薬剤師として地域医療に関わりたいと思いました。

―それまでの業務と全く違うと思いますが、不安はありませんでしたか。

藤田:もちろん不安はありましたが、経験と知識を積めば消えるものだと思ってあまり気にしませんでした。ただ、薬歴を書く時間や、ピッキングをする時間、在庫管理の時間など、患者さんと接する以外にもたくさん業務があるんだなぁと感じていたのを覚えています。

 また、2年ごとに改定される調剤報酬の内容によって、注力する業務が業界全体として変わっていくことにも違和感がありました。「何を根拠に算定項目が変わったの? これまでの算定項目に対する効果検証はしてるの?」って。

turning point3_2-2.jpg情熱がにじみ出る語り口の藤田さん。「本当にやりたいことがあって、一生懸命伝えようとすれば、国籍に関係なく相手は聞いてくれます」

次の記事:薬局研究の重要性に気付き留学へ

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