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飛び込んだその先で、新しい目標を見いだす―後編

私のターニングポイント vol.3 シドニー大学大学院薬学部博士課程後期 藤田健二さん

2018年09月06日 11:40

薬局研究の重要性に気付き留学へ

―薬局業務に3年間携わり、その後同社のマネジメント職に就きます。何かきっかけがあったのでしょうか。

藤田:薬局薬剤師として働いていたとき、「前職で得た知識を薬局業務に生かしたい」という思いから、「薬の構造式から薬理作用を考える」というテーマで毎月原稿を書いて、社内に発信していました。1年間続けているうちに「変わったやつがいるぞ」ということで、本社の研修チームに呼ばれました。

 当時は、会社の垣根を越えた学びの場をつくるために、研修部門を一般社団法人化する直前でした。そのおかげで学習プログラムの再構築に携わったり、薬局・病院・大学の先生方とともに活動する研究会を運営したり、さまざまな業務に携わることができました。激務でしたが充実していました。

―当時の仕事にやりがいを感じつつも、入社7年で転職されました。

藤田:研究所時代と同じように、忙しくも安定した生活を送っていると、「この先、自分は何をどうしたいんだろうか?」と考え過ぎてしまうんだと思います。とは言うものの、どうすればいいのか明確な答えは持っていません。当時、自分個人の勉強時間を確保するために毎朝始発通いをしていて、朝6時から9時までは自己学習の時間と決めて、主に英語を勉強していました。「海外の薬局関係者とつながることで、何かが変わるんじゃないか」という漠然とした思いだけでした。

 どんなに仕事が切羽詰まっていても朝の3時間は自分の時間として確保して、残りの1日21時間の中で仕事のやりくりができないならそれが自分の限界だと言い聞かせていました。その結果、仕事の質にバラツキが出て怒鳴られたこともありましたが、それくらい決めないと時間の捻出ができなかったんです。そうしているうちに、あるとき国際薬剤師・薬学連合(FIP)という海外の薬剤師が集まる学会があるという話を聞いて参加しました。

―その学会に参加して何か気付きがあったのでしょうか。

藤田:一言でいえば、研究・実務・教育・政策を連動させることの重要性です。

 薬局をフィールドにした研究報告が活発にされていて、研究によって得られたエビデンスを基にして薬局業務の枠組みを広げ、結果的に報酬や教育内容が更新されている国があることに驚きました。当時の日本では、薬局研究といえば活動報告や思い付きで作成した患者アンケートなどが主でしたが、FIPではランダム化比較試験(RCT)をはじめとする、いろいろな研究デザインに基づく薬局研究が報告されていました。

 同時に、例えば薬歴の記録など、日本の薬局の方が優れている業務や制度があるにもかかわらず、どの国にも知られていない現状を知りました。当時は、日本の薬局研究の結果を英語で学会発表する人も、英文雑誌に投稿する人も少なかったですしね。

―そういったことを感じているうちに、留学しようという意志が固まったのですか。

藤田:①地域における薬局の役割が明確になる、②薬局業務に対する対価が適切に設定される、③現場から求められる薬剤師を大学で育成する、というように、実務・政策・教育という3点が連動して機能するには、研究による薬局業務の価値の裏付け、つまりエビデンスを蓄積することが大切なんじゃないかと思うようになってきたんです。

 そして、日本の薬局研究を海外に発信することで、日本の薬局に興味を持つ海外の薬剤師や研究者が増えて、日本の薬局から学ぶ国も出てくるのではないかと思うようになりました。そうであれば、まずは研究をデザインできるように疫学と統計学を体系的に学ぶ必要があると思い、留学を決意するに至りました。

漠然とでも進みたい方向が決まったら、まずは動いてみる

―大学院卒業後はどうなさるのですか。

藤田:よく聞かれますが、実は決まっていないんです(苦笑)。よく言えば柔軟、悪く言えば行き当たりばったり。でも、それでいいと思っています。今取り組んでいる研究が卒業までにどうなるのかとか、この先どこで誰と知り合うかなんて分からないじゃないですか。向かいたい方向に進んでいることは確かなので、今の研究をやり切った後の状況を基に、次の進路を決めたいと思っています。

―かつての藤田さんのように、進路に悩む人は多いと思いますが、どうすれば最初の一歩を踏み出せますか。

藤田:「悩んだまま動かない」という意思決定を、毎日し続けているという自覚を持つことだと思います。自分に残された時間を何に使いたいか、明確に決めている人なんて滅多にいないですよね。どんな道を選んだとしても、過去の自分の選択を後悔するか肯定できるかは、選択した後の行動が決めるんだと思います。だから、自分の選択を信じることと、信じられるだけの行動を積み重ねること。置かれている環境は人それぞれなので、無責任なことは言えませんが、向かいたい方向が分かっているのであれば、まずはその方向に向かってみる。時間は本当にあっという間に過ぎてしまいますから。

turning point3_3.jpg研究室での1枚。世界各国から学生が集まっており、卒業後は国際共同研究のメンバーになる人も多い

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藤田さんが在籍している日豪共同研究チームは現在、在宅業務の質を可視化するための6カ月間の実証研究(JP-QUEST)に参加する薬局を募集しています(2018年9月21日締切)。詳しくは同研究のホームページ( https://www.jp-quest.com )をご参照ください。

前の記事:海外での学びを共有することで、進路に迷っている人の役に立ちたい

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