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医療費削減の決め手となるか!? 動き出す地域フォーミュラリー―後編

地域フォーミュラリー実施に向けた現状と課題

2018年09月10日 15:50

 世界的に例のないスピードで高齢化が進む日本では、社会保障費の高騰などにより、医療制度が存続の危機に直面している。その対策の鍵となるのが、地域において処方する医薬品を選定してリスト化する地域フォーミュラリーだ。「地域フォーミュラリー実施に向けた現状と課題~医師、薬剤師、製薬企業、医薬品卸企業への影響~」(2018年8月4日、東京大学)で、今井博久氏(東京大学大学院地域医薬システム講座学講座教授)、加藤肇氏(品川薬剤師会会長)らが、運用の重要性や課題、薬剤師の役割を語った。

◎この記事のポイント

  • ■日本の医療制度は存続の危機にあり、医療費は近々70兆円に達するという見方もある

  • ■医療費削減のターゲットは、約9兆円とも言われる薬剤費である

  • ■そこで、地域フォーミュラリーで標準的な薬物治療を推進し、医療費を適正化することが有効である

  • ■ステークホルダー(意思決定者)が良好な関係を築きながら、協働作業で地域フォーミュラリーを実施することが重要。薬剤師は薬の評価などを行い、医師らと情報共有することが欠かせない

地域フォーミュラリーで医療制度の問題を解消

 "フォーミュラリー"とは、薬物療法において選択すべき医薬品のリストと使用指針である。医薬品は有効性、安全性、経済性などの観点から選択されており、フォーミュラリーに関わる情報は継続的にアップデートされる。これを地域ごとの実情に合わせて策定したものが、地域フォーミュラリーだ。日本では薬剤の選択は個々の医師の裁量に任されている。これを踏まえ、今井氏は日本の医療制度の問題点として、特に医療資源の無駄遣いとポリファーマシー、薬の副作用を病態の悪化と考え、さらに薬剤を処方する処方カスケードが生じているとし、「地域フォーミュラリーによる対応で改善される」と述べた。

削減可能なのは現在9兆円の薬剤費

 今井氏は、42兆3,644億円に上る日本の医療費1)が、近い将来には年間70兆円に達するとみている。しかし、そうなっても税収は60兆円に満たないと試算されており、医療制度が破綻して必要な人に医療が行き渡らない事態に陥りかねない。医療費の削減が急務だが、日本の医師の人件費は他国に比べて決して高くなく、ターゲットは現在約9兆円の薬剤費(保険薬局の材料費を含む。医薬品卸、製薬メーカーへの支払い額であり、薬価ではない)2)だと同氏は主張する。高価な薬剤が明確な理由なしに処方されていたり、薬剤による副作用を抑える目的で、さらなる処方を重ねる例が後を絶たないからだ。

 例えば、日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2014』では、本態性高血圧にはCa拮抗薬が、合併症がある場合はARBなどが推奨されている。しかし、中央社会保険医療協議会の調査では高血圧症以外の傷病名が記載されておらず、降圧薬が1剤のみ処方されたレセプトのうち、4割弱(約8万件)でCa拮抗薬の20倍の価格であるARBが処方されていた。これを金額に換算すると、前記レセプトの約63%(約10億円)を占める3)。また、加齢に伴って慢性疾患が増えると、本来なら患者のQOLを考え、優先順位を付けるべきだが、全ての症状に薬が処方され、結果として20剤近くに上るといった事例も少なくない。

 これに対して、地域フォーミュラリーで、特定の疾患に処方される薬剤を有効性、安全性、経済性の高いものに絞っておくことで標準的な薬物治療が推進され、医療費の適正化ができ、具体的には(1)患者では無駄な支払いが減る、(2)医師では処方ミスや恣意的な治療が是正される、(3)薬剤師では不適切な処方薬剤に介入しやすくなる、薬局の不良在庫が減らせる―といったメリットがある。また、都内のある区で、主な生活習慣病薬を対象に行われたシミュレーションでは、変更可能な先発医薬品を全て後発品に変更すると、年間50億円の薬剤費が削減されたという。区内に所在する医療機関数で割った場合、1施設当たり1,000万円の経費削減につながる数字だった。

インセンティブで医師・薬剤師の納得を得る

 しかし、地域フォーミュラリーを実施することは難しい()。院内フォーミュラリーと異なり、多くのステークホルダー(意思決定者)が関わるからだ。そこで、まず関係者が日本の医療環境の危機を認識し、協働作業することが重要だ。そのために、特に処方権を持つ医師や実際に地域フォーミュラリーを管理・運営していく薬剤師に、診療報酬を加算する等のインセンティブが必要だ、と同氏は述べた。そして、地域の実情に即した薬剤が選択されないと持続できないので、外部に状況が把握されにくい在宅医療や、何らかの理由で特定の薬剤しか使えないケースなども含めて、薬剤使用の実態調査が必要なことを指摘した。

表. 地域フォーミュラリーと院内フォーミュラリーの比較

20180804_hyo.jpg(今井博久氏提供)

 今井氏は2018年の秋に、国内初の地域フォーミュラリーを策定することを目指しており、「地域医療にはさまざまなステークホルダーがいるが、協働作業を通じて互いに与える影響を良好にするために、英知を結集したい」と結んだ。

ステークホルダーが良好な関係を築く

 加藤氏は、品川区の1人当たりの医療費は高齢になるほど増加していると指摘。特に男性で高額なこと、60歳代以上では生活習慣と関連が強い循環器系疾患の患者が多いことに触れ、「生活習慣病をターゲットに地域フォーミュラリーを進めていく必要性がある」と述べた。生活習慣病治療薬は後発品を含め多数販売されているが、費用効果による評価と、それに基づく処方ルールの明確化を検討すべきと指摘した。

 同氏は、地域フォーミュラリーを策定するメリットとして、今井氏が挙げた例に加え、医師では専門外の薬物療法の指標になり、ポリファーマシーを避けられること、患者・保険者では費用効果に優れた薬で治療を受けられ、薬剤費が軽減すること、そして薬剤師では服薬アドヒアランスや併用薬に対する相互作用・副作用の管理が容易になることを挙げた。

 その実現に当たっては、関係者が目的を共有する風通しの良い間柄であることが重要となる。この点について、品川区内では多職種による勉強会などが頻繁に行われ、薬に関する情報交換ができる関係性を築けているという。

地域のために薬剤師は積極的に連携を

 フォーミュラリーをめぐる課題として、(1)いかに薬剤を選定するか、(2)安定供給をどう確保するか、(3)どのように再評価し改訂を行うか―を挙げた。(1)については病院間、医師間の薬剤評価の相違を克服し、地域特性に適したフォーミュラリーをつくり上げるには多くの議論が必要となる。(2)はフォーミュラリーで推奨する薬剤の安定供給を図ることに加え、不足した場合の代替品も検討すべきだ。(3)としては薬価改定に伴う費用効果の変動、ガイドライン改訂による推奨度の変化、使用経験蓄積に伴う副作用情報の集積に対応しなければならない。加藤氏は「特に薬剤師は薬を選定・処方して終わりでなく、薬の評価や副作用の追跡を行い、それらの情報を医師などと共有することがより重要になってくる」と述べた。

 同氏は「医薬品の適正使用とは何か、医療経済性や患者のQOLを含めあらためて考える時期に来ている。薬の情報を豊富に持つ薬剤師が、患者のために主体的に動いてほしい」と訴えた。

前の記事:医療費削減の決め手となるか!? 動き出す地域フォーミュラリー―前編

1)厚生労働省. "平成27年度国民医療費の概況"
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/15/dl/data.pdf
2)厚生労働省. 「平成27年度国民医療費の動向」「第20回医療経済実態調査」
3)厚生労働省. "外来医療(その3)について" 中央社会保険医療協議会 総会(第367回)議事次第.
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000183042.pdf

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