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医療費削減の決め手となるか!? 動き出す地域フォーミュラリー―前編

地域フォーミュラリー実施に向けた現状と課題

2018年09月10日 15:50

 フォーミュラリーとは、有効性、安全性、経済性などの観点から患者に対して選択されるべき医薬品を定めたリストと使用指針のことである。これを地域医療に適用する「地域フォーミュラリー」についてのシンポジウムが2018年8月4日、東京大学の伊藤謝恩ホールで開催された。

◎この記事のポイント

  • ■地域フォーミュラリーに関する現状や、課題、必要性について、医師の栗谷義樹氏、前・厚生労働省医政局長の武田俊彦氏が講演を行った

  • ■山形県の酒田・鶴岡地区では、ID-Linkを利用した「ちょうかいネット」が稼動。地域の医療連携に活用するべく、登録患者の診療記録が開示されている

  • ■高齢化と過疎化が進む同地区は、地域包括ケアをさらに進め、効率的に医療資源を利用して医療提供体制を確保する。その1つに地域フォーミュラリーが挙げられている

  • ■医薬分業の観点から見ても、薬物療法の費用対効果が改善され、患者アウトカムが向上すれば、薬剤師の役割りに説得力が増す

ネットワークで診療情報を全開示

 最初に医師の立場から、栗谷義樹氏(山形県・酒田市病院機構理事長/日本海総合病院病院長)が講演した。

 山形県の酒田・鶴岡地区では、2011年4月から、ID-Linkを利用した庄内地域医療情報ネットワークサービス「ちょうかいネット」を稼動させた。患者に共有IDを振り分け、複数の病院システムを一覧表示し、入院(退院)時サマリーや処方内容、各種検査結果、医師記録など全ての診療記録が開示されている(情報を開示している病院は5カ所)。

 2018年3月末時点で、累積登録患者は3万2,401人で、二次医療圏の全人口の11.9%に相当する。ちょうかいネットには無料でアクセスでき、診療所67カ所、保険薬局9カ所、歯科診療所16カ所、介護事業所16カ所などが利用しているという。

 ちょうかいネットは、地域全体が1つになって患者の健康を見守り、医療連携に不可欠な診療録などを開示することで、シームレスな医療の提供を目指している。現在、二次医療圏ごとの医療情報ネットワーク全県化(連携協定)を検討中だ。

医療、介護、福祉を一体化した複合集約事業体を展開

 酒田地区医療情報ネットワーク協議会では、今年度事業計画で、保険薬局における調剤情報連携を予定している。調剤情報をインターネットを介してクラウド上に保存し、同意が得られた患者情報を保険薬局間で共有することで、重複処方や併用禁忌のチェックを行うという。共有された調剤情報は、ちょうかいネットと連携することも可能だ。

 地域における今後の課題として挙げられるのは、やはり高齢化と過疎化だ。同地区では2015~25年に人口が3万人(12%)以上、0~14歳人口は20%以上落ち込む見込みだ。総人口は24万人程度になり、2025年以降も人口減少は続くと予想されている。栗谷氏は「過疎化、少子高齢化が続けば業務量縮小は避けられず、個別の医療機関による経費管理は限界を迎え、地域全体でコスト管理に当たり連結決算をせざるをえない時代になる。地域に根差した医療介護事業を目指すには、医療、介護、福祉が一体化した複合集約事業体を形成すべき。対応が遅れると、医療提供体制自体が崩壊する可能性も考えられ、時間はあまり残されていないと感じる」と危機感をあらわにした。

2018年の秋ごろに地域フォーミュラリーを作成

 こうした状況の中で、2015年4月、酒田地区では新型法人が提案された。複数の医療法人を一体的に運営して法人間の協調を推進し、病床機能の分化・連携などを行う。既存法人に対し一定の独自性を保証した上で、グループ全体の意思決定を一元的に行うという。地域包括ケアをさらに進め、効率的な医療資源の利用によって医療提供体制を確保することが目的だ。

 そして2018年2月には、一般社団法人日本海ヘルスケアネットを設立。同年4月には、山形県知事から地域医療連携推進法人の認定を受けている。現在、日本海ヘルスケアネットへの参加法人は9つで、今後の取り組みの1つに地域フォーミュラリーを挙げている。意見交換やデータの集積を行い、今年の秋ごろには地域フォーミュラリーの作成を行う予定だという。高齢化、過疎化が進む地域の医療をどう考えていくのか。地域フォーミュラリーの取り組みを含め、酒田・鶴岡地区の今後の動きに注目したい。

表. 連携推進法人設立の基本的な考え方

・各参加法人を事業体として継続→病院最適化、施設最適化から地域最適化へ
・構想区域内における事業調整を通じ、診療、介護報酬を再配分
・構想地域の医療介護事業費用を地域連結決算で管理
・構想地域から重複投与などによる資本、資産流出を阻止

医療機関との連携はIT

 続いて、武田俊彦氏(前・厚生労働省医政局長)が「我が国の医療政策の諸課題~地域フォーミュラリーの必要性~」と題する講演を行った。

「医薬分業という概念が、今の医療政策に適合しなくなっていると感じる」と同氏は指摘。さまざまな経営主体が経営自体に関わるレベルで連携せざるをえなくなっており、医薬分業から医薬協業、チーム医療という考え方をすべきだという。

 あるデータでは、薬局で疑義照会を行った処方箋の割合は応需処方箋全体の2.8%。これらの疑義照会のうち、医師に対し、薬剤選択、投与量、投与方法、投与期間などの処方変更の提案を行った割合は4割強、結果として処方変更となった割合はそのうちの78.2%だった1。「医師、薬剤師がどれだけの時間を費やしているかを考えていかなければならない」と同氏は述べる。疑義照会の簡素化を行った結果、医師と薬剤師双方で業務負担が減った堺市立総合医療センターなどの事例を紹介した。

 しかし、医療機関や薬局との連携において、やり取りを電話やFAXで行うと、明らかに関係者の負担が増えてしまう。「どんなによいことでも、関係者の手間が増えるのは受け入れが難しい。いかに事務作業を効率化するかが鍵で、これを解決するのはITしかない。だからこそ、山形県酒田・鶴岡地区のちょうかいネットが大きな意義を持っている」

薬剤師は地域フォーミュラリーにどのように関わるか

 医薬分業に対する基本的な考え方に、(1)薬局薬剤師が専門性を発揮して、患者の服用薬について一元的な薬学管理を実施することにより、多剤・重複投薬の防止や残薬解消なども可能となる、(2)患者の薬物療法の安全性・有効性が向上する他、医療費の適正化にもつながる―などがある。しかし、規制改革会議などで「院外処方の場合は院内処方よりも患者の負担額は大きくなるが、負担増加に見合うサービスの向上や分業の効果などが実感できない」といった指摘がある。

 そのような状況で、地域フォーミュラリーは極めて重要なテーマとなる。武田氏は、日本全体の医療の効率を追求していくという点では院内だけ行っても効果はなく、地域でフォーミュラリーを行うことが有効であるとの見解を示した。今後、地域フォーミュラリーにより、薬物療法の費用効果が改善され、患者アウトカムも向上するといったデータが出そろえば、薬剤師の役割に説得力を持たせることができる。同氏は「薬局薬剤師も、地域フォーミュラリーで薬剤選択に関わっていくことが求められる。これまでは薬剤一元管理、重複処方の防止、後発品の使用促進といった点で効果があると説明していたが、薬局にはもっと役割を果たしてもらいたい」と締めくくった。

次の記事:医療費削減の決め手となるか!? 動き出す地域フォーミュラリー―後編

1)平成29年度かかりつけ薬剤師・薬局機能調査・検討事業「かかりつけ薬剤師・薬局に関する調査報告書」に関する厚生労働省資料

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