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紛れやすい成人期ADHDの捉え方

鑑別、治療を成功に導く方法とは

2018年10月02日 11:30

紛れやすい成人期ADHDの捉え方

 従来、小児を中心に診断されると考えられていた注意欠陥多動性障害(ADHD)。近年、成人でも多く確認されるようになり、その適切な診療を求めるニーズが高まっている。だが、非専門医にとっては縁遠い疾患であり、アプローチに二の足を踏んでしまうことも多い。成人期ADHDの診療を専門とする昭和大学精神医学講座主任教授の岩波明氏に、他の精神疾患と鑑別するこつや望ましい治療法について解説してもらった。

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この記事のポイント

  • ・就労環境の変化などで成人期ADHDが顕在化
  • ・患者および家族などから小児期~現在の問題などを聞く
  • ・衝動性が多数の併存疾患を引き起こす可能性も
  • ・即効性や効果持続時間などを勘案し薬剤選択
  • ・"患者同士"ならではの効果が得られるグループ療法
  • ・まずはピュアなADHD症例に挑戦を

就労環境の変化などで成人期ADHDが顕在化

 ADHDの病型は、衝動的な行動や落ち着きのなさが目立つ"多動性・衝動性優勢型"、集中力がなく、注意散漫で忘れっぽい傾向が強い"不注意優勢型"、両者が同程度目立つ"混合型"の3つに大きく分類される。

 これらのうち、"多動性・衝動性優勢型"の患者は小学校などの集団生活で顕在化しやすいため、早期にADHDと診断され、適切な治療や対処が講じられる機会が多い。

 一方、"不注意優勢型"の患者は集団生活で目立たないことから、小児期にはあまり問題視されず、見逃されがちであるという。

 岩波氏は近年、成人期ADHD患者に注目が集まっている理由を、「社会情勢の変化に伴い、以前より業務内容や人間関係が複雑化してきているためである」と指摘。「数十年前と比較して、多くの企業で細心の注意や集中力、配慮を要する業務をこなし、上司、同僚、部下との人間関係を構築する必要性が高まっており、"不注意優勢型"の患者が困難を抱えやすくなっている」と説明した。

 なお、調査によって多少のばらつきがあるものの、成人期ADHD患者の有病率は人口の約2~5%と推定されているという。

患者および家族などから小児期~現在の問題などを聞く

 成人期ADHDを想定した問診では、現状の問題に加え、小児期に抱えていた問題や周囲からどのような印象を持たれていたかを聞き取ることが重要である。

 その際、患者から「物事を計画的に進められない」「整理整頓や掃除、スケジュール管理などが不得手である」といった発言があれば、ADHDの特性を示している可能性を考える。患者と同居している家族からの情報も有用であるという。

 ADHDの程度を客観的に評価できるチェックリスト〔Conners'Adult ADHD Rating Scales(CAARS)、成人期ADHD自己記入式チェックリストなど〕も診断の助けになる。

 ADHDの診断基準()としては、米国精神医学会(APA)の「精神疾患の分類と診断の手引き第5版(DSM-5)」が一般的だが、発症年齢がDSM-4以前の7歳から12歳に引き上げられるなど、より成人期ADHDが認められやすくなっているという。

<図>ADHDの診断基準

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衝動性が多数の併存疾患を引き起こす可能性も

 ADHDの特性により、周囲とのあつれきから自尊心や自己肯定感を持ちにくく、うつ病や双極性障害、不安障害を併発する場合も少なくない。

 しかし、プライマリケアにおいてADHDと併存疾患を鑑別するのは容易でなく、岩波氏が診療に携わる同大学烏山病院精神科に紹介されてくるADHD患者の約7割は、紹介元で異なる診断がなされているという。

 同氏はその一因としてADHDの有する衝動性が挙げられるとし、「過食症や窃盗癖、リストカット、ギャンブル依存、インターネット依存などには衝動性が関与している。これらの患者を診察する際は、根本原因にADHDが存在する可能性を考慮すべきである」と強調した。

即効性や効果持続時間などを勘案し薬剤選択

 現在、ADHDに対する薬物療法として、中枢刺激薬のメチルフェニデートと非中枢刺激薬のアトモキセチンが使用できる。

 即効性があるのは前者で、早ければ服用当日に薬効が実感できるが、後者では薬効が現れるまで2週間以上かかるとされる。一方、効果の持続時間は前者で約12時間、後者では継続的な効果が得られる。

 両者の有効性に関して、岩波氏は「比較的早く効果を得たい場合はメチルフェニデート、シフト勤務者のように夜間でも効果を持続させたい場合はアトモキセチンを選択するとよい。どちらか単剤で十分な治療効果を得られない場合は、併用療法も考慮する」と助言した。

 なお、既に小児期ADHDに対して保険適用されている非中枢刺激薬のグアンファシンは、成人期ADHDに対する保険適用が追加申請されている(2018年8月現在)。

 グアンファシンについて、同氏は「同じ非中枢刺激薬であるアトモキセチンよりも効果発現が速く(Eur Neuropsychopharmacol 2014; 24: 1861-1872)、ガイドライン(Canadian ADHD Practice Guidelines2011)によると、従来薬と異なり食欲低下や体重減少の有害事象が見られない点は着目すべきである」と解説した。しかし、今後さらなる知見の蓄積が待たれるという。

"患者同士"ならではの効果が得られるグループ療法

 成人期ADHDの非薬物療法としては、心理社会的治療を行う。この治療に含まれるのは、環境調整や心理教育、認知行動療法などである。

 具体的には、環境調整では患者の周囲に疾患への理解を求め、生活、職場環境の改善を行う。

 心理教育では、ADHDによる種々の障害や患者への影響について認識を深め、自己理解や自己肯定感の回復を促すことを目的とする。

 認知行動療法では、ADHDに関連する行動と認知に着目し、それらに起因する問題を合理的に解決する方策の習得を目指すという。

 これらの治療は、患者同士で意見を交換しながら進めるグループ療法の形式でも実施できるといい、同院ではおよそ10人前後のADHD患者のグループごとに導入している。

 同療法では、1回3時間のプログラム計12回を1セットとし、ADHDの特性とされる「不注意」「多動性」「衝動性」などにテーマを絞ってディスカッションを行う()。

 例えば、「不注意」をテーマにしたプログラムでは、「レポートの期日をすぐに忘れてしまう」という困りごとを発表し、それについて患者同士が話し合い、対応策を提案するという。

 岩波氏は「グループ療法では、共感を得られる、孤立感が低減する、自尊感情が充足する、自己理解が深まる、疾患への新たな対処法が見つかるなどの効果が期待できる。これらは医師から得られない場合もある」とその有用性を指摘した。

 しかし、マンパワーやコストの面から、具体的にプログラムを策定し、確固とした形式でグループ療法を提供できている医療機関は現時点で同院のみであるという。

<表>昭和大学烏山病院でのADHD患者向けグループ療法の概要

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まずはピュアなADHD症例に挑戦を

 岩波氏によると、従来、小児精神疾患領域における診療、研究や臨床研修でADHDはあまり扱われてこなかった。そのため、現状、ADHDの診療経験が豊富な医師は多くなく、ADHD患者を即座に専門病院へ紹介したり、見逃したりするケースが少なくないという。

 だが、他に併存疾患がないシンプルなADHD患者の診断にはさほど難渋しないとされる。このことを踏まえ、同氏は非専門医に対し「併存症のないピュアなADHDを診療することに挑戦して経験を積み、患者が適切なケアを受けられる環境を提供してほしい」と呼びかけている。

(Medical Tribune Webより転載)

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