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成長するなら離島じゃない?―vol.2

小笠原・種子島ひとり薬剤師対談

2018年10月18日 11:25

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 離島の、しかも薬局に薬剤師が1人という状況で、熱い仕事に取り組んでいる方がいます。今年(2018年)5月までPharma Tribuneで連載『Ph.リトー1人薬剤師from小笠原』を執筆いただいた元・小笠原村診療所の小西良典さんと、種子島にあるのぞみ薬局公立病院前店の田中孝明さんです。

 離島の一人薬剤師に、島や医療体制、薬剤師の在り方などについて大いに語っていただく小笠原・種子島ひとり薬剤師対談シリーズ。第2回は、離島だからこその苦労話ややりがいを教えていただきました。

【Profile】
■小西良典さん
1980年大阪府生まれ。大学薬学部卒業後、理学部の大学院に進学。博士課程中退。ドラッグストアなどで働きながら全国を旅し、2013年8月~18年3月まで父島の小笠原村診療所に勤務。再び各地を旅し、11月より仙台近くの薬局で勤務中。

■田中孝明さん
1984年鹿児島県生まれ。大学卒業後、鹿児島市に本社があるとまと薬局グループに入社し、種子島でキャリアをスタート。2013年から、島内のグループ薬局・のぞみ薬局公立病院前店の薬局長に。座右の銘は「自分らしく」。

持ち場を守れるのは自分だけ

―離島だからこそ、あるいは一人薬剤師だからこその"あるある"ってありますか?

田中:1人だと基本的に体調を崩せない。僕は最悪応援を頼めますけど、頻繁には言えないので。

小西:そうですね。ただ、小笠原では体調を崩しても結局診療所にかかるしかないので(笑)、だったら午前中だけでも行って仕事します

―基本的に持ち場を離れるのが難しいですよね。

田中:お昼にカップラーメンが食べられないんですよ。お湯を入れたら患者さんが来て、対応していたら麺がスープを全部吸っちゃうので。前、スープ春雨にお湯を入れておいたら、食べるころには春雨がスープを吸い過ぎて、ぶよぶよのなんだか分からない物体になっていました(笑)。

―体調管理のためにしていることはありますか?

田中:運動かな?

―アクティブですもんね(笑)。小西さんは?

小西:土日は外に出ないとか。病原菌をもらってこない(笑)。入港日の混雑しているスーパーには、なるべく行かないようにしていました。あと、手洗い、うがいはやるとやらないで全然違います。インフルエンザがはやったときは、本当に要注意ですね。薬を患者さんに渡して戻ったら、その都度うがいです。

田中:僕もその都度やっているし、薬局内ではずっとマスクを付けています。あと、離島あるあるでは、台風で物資が届かない。小笠原に比べたらあんまり言えないですけど(笑)。でも、奄美大島くらい大きな島でも天候が悪くて物が届かないことがあるんですよ。どうしても腐ってしまう生鮮品が優先になりますし。薬が届かないのは、やはり困りますね。

薬不足は臨機応変と患者さんの鷹揚さで対応

―今までに、薬が届かなくて足りなくなるということはありましたか?

田中:ありますよ、全然。患者さんも物が届かないことのある環境だと分かっていて、「じゃあ、また来るから」って言ってくれます。

小西:ない袖は振れないので、患者さんに「ごめんなさい」って言うしかないですよね。完璧に在庫を把握しているつもりでも、年に5、6回は必ず足りなくなる。30日分薬が出ている人だったら、とりあえず5日分だけ渡して、次の入港の後で取りに来てもらうようにしていました。

田中:あと、医師と患者さんに理解してもらって、在庫がある同種同効薬に変えてもらったりします。

小西:その点、こちらは診療所の中にドクターもいますから、ドクターが確認に来るんですよね。「薬、あとどれぐらいある?」って。在庫のない薬が必要な場合、その場で納期を伝えてOKなら即発注できます。

田中:それ、いいですね。特殊な薬だと「これある?」って電話が来ることはあります。だいたい在庫ないんですけど(笑)。

小西:そのへんは調整しやすいですけど、いかんせん頼んでから来るまでが長い(笑)。でも「待って」と言って、怒る患者さんはいないですよね。普通だったら、こちらからお届けしなくてはいけないぐらいなのに。人間性が丸いというか、穏やかというか。

田中:人柄はめちゃくちゃいいですよね。「急がんでいいから」って。逆に「え、薬余ってるの?」って、心配になりますけど(笑)。

助け合い精神から生まれる親切心

―他に離島ならではということはありますか?

小西:同じ苗字の人が多い

田中:それ僕も言おうと思いました。「こうづまさん」って呼んだら3、4人振り向くみたいな。

小西:だからフルネームで呼ばないといけないんです。さらに、同姓同名の人がいたりしますけど(笑)。

田中:しかも、なぜか同姓同名の人が同じ日に予約入ってますよね。「カタカナの方のムツコさん」とか呼びます。

―取り違えそうで怖いですね。

小西:だから注意が必要ですね。診療所に新しい看護師さんとかが入ったら「同じ名前の人が多いから気を付けて」って必ず言います。今のガイドラインはフルネームで呼ぶようになっていますが、離島で働いてその意味がよく分かります。

田中:あと、患者さんがやたら野菜とか持ってきてくれます(笑)。離島というか、僻地あるあるなのかもしれませんけど。大きなスイカを厚意でどーんと持ってきてくれたり。

小西:診療所にも、釣れた魚を持ってきてくれる方がいらっしゃいました。島には農業や漁業に携わっている方も多いですからね。

―人と人との距離の近さが魅力である一方で、それが苦手という方もいらっしゃいます。その点は、お二人は大丈夫ですか?

田中:僕は気にならないですね。

小西:適度な距離を保とうと思えば、あんまり外に出ないとかね(笑)。

田中:人と距離感が近いのが苦手だったら、やり方はいろいろありますし、島民の人もあの人はそういう人だと思ってくれますよね。

小西:そうですね。仕事はちゃんとしてるし、それで非難されるいわれはないので(笑)。小笠原はもともと、長く島に住んでいる人が少ないんです。都会から来ている人もいて、相手にどれぐらい突っ込んでいいのか分からない。だから、こちらもある程度距離を保とうとします。

 でも、僕が赴任していたとき、小笠原諸島返還45周年のお祭りがあって、交通整理のボランティアに駆り出されたら、知らないおじさんが話しかけてくれて、交通整理しながらずっとしゃべっていました(笑)。知らない人でもある程度親切にしてくれるので、そういう距離感はいいですよね。島では何かあったら逃げ場がないので、助け合わなきゃいけないという意識があると思います。

180722_1.jpg小笠原名物の"お見送り"。本土へ向けて出港するおがさわら丸の船上で小西さんが撮影。「10隻ぐらいクルーザーがついてきて、乗っている人が海に飛び込んで見送ってくれます」

島に来る理由なんて、なくていい

―離島で働くきっかけをお伺いしたいのですが、その前にそもそもなぜ薬剤師になったんですか?

小西・田中:(なぜか笑う)

田中:高校のときに、学校行事で『地雷犬ニーナ』という劇を見たんです。臭いで地雷を探すカンボジアの犬の話なんですけど、命懸けで地雷を探す仕事に比べて、受験がちっぽけに思えてしまって。それで進路相談の先生に「受験をやめて、カンボジアのような地域に行ってボランティアしたい」って言ったんです。そしたら「何かスキルを身に付けてやらないと、行ってもそんなに役に立たないと思う」と言われて「あ、そうか大学行こう」と思い直しました。人の役に立ちたかったので、医療系の学部に進みました。

小西:僕は高校のとき何も考えてなくて、はっきり言って選択科目の都合上です(笑)。だから薬学部に入った後も、このまま薬剤師になっていいのかずっと迷っていて、いろいろな資格を取ったり、大学院も薬学部以外の学部へ行ったりしました。ただ大学院をやめてしまい、薬剤師をやらなきゃいけない状況になって、じゃあ頑張ってみようと。小笠原は一度来たことがあって、なんとなくここで働く予感があった。きっかけは「何それ?」って感じですけど、やるからにはしっかりやろうと思っていました。

―田中さんはなぜ種子島に行かれたのですか?

田中:大学3年のときに友人の家でゲームをしていて、まだ就職が決まっていないと言ったら、友人か友人の親か忘れたんですけど「種子島で薬剤師を募集しているらしいから、働いてみたら」って。単純に楽しそうと思ったんです。離島ってなんか格好いいじゃん、みたいな。それで「あ、いいですよ」みたいになって、面白くて10年います(笑)。

―不安はありませんでしたか?

田中:鹿児島に住んでいながら、種子島には行ったことがなかったんです。でも、不安はありませんでした。だって日本じゃないですか(笑)。ロケットも打ち上げているから、結構栄えてるんだろうと思っていました。

小西:僕もきっかけらしいきっかけはなかったですけど、そういうものじゃないでしょうか。地域医療に貢献したいとか、歯が浮くようなことは言えません(笑)。むしろそういう高い理想を持っていたりすると、来た後でギャップを感じると思います。ポンと行く感じでいいと思うんですよね。考え始めたら逆に行けないし、誰かに相談したら、絶対止められますもん。

―お二人とも、誰にも相談しなかったんですか?

田中:親には一切相談していません。誘われて、その場で決めましたから。

小西:僕は採用試験の受験票が実家に届いて、親にばれてひと悶着ありました(笑)。でも、実際に行って楽しかったら長続きします。自分は離島が合うかと聞かれたら分からないけど、4年9カ月もいましたし。

田中:そうですよね。いやだったら帰ってくればいいし。

―どんなところが特に楽しいと感じますか?

田中:いいところも悪いところもあって、メリハリがあるところです。過酷なときもあれば、患者さんとの和やかなやり取りもある。

小西:やりがいはありますよね。1人でやらないと身に付かないことって多いと思うんですけど、必然的に1人でなんでもやらないといけない環境に置かれるので、自分の能力が上がってくるのをすごく実感できます。

180722_2.jpg種子島宇宙センターから打ち上げられるロケット。これ以上は近づけない限界の距離で田中さんが撮影。「勤務先の薬局からも、打ち上がるところが見えます」

手土産作戦で知識を研鑽!?

―教えてくれる人がいない環境で働くのは大変だと思いますが、どうやって克服されたんですか?

田中:行動です。聞いたり調べたり。それしかないですよね。それで間違っていたら「すみませんでした」と。

小西:そこで「すみませんでした」って言える人が、1人の現場に向いているんじゃないでしょうか。言えずに人間関係がこじれてしまったら、ずっと引きずっていくことになりかねません。どうしても狭い空間なので、良くも悪くも噂も広がりやすいですし。

―1人だと、学会などにはなかなか行けないと思いますが、どうやって知識を身に付けているんですか?

田中:僕は行けている方ですね。昨日も、吸入指導のファシリテーションの講習会に参加してきました。講習会には医師、看護師、作業療法士といった多職種がそろっていて、吸入指導をきっかけに連携できるようになっています。

小西:小笠原では、学会のために上京したいと言っても、ほぼ希望は通りません。たった1日学会に出るために10日間も職場を空けないといけなくなります。学会の日程が出て休みたいと言っても、他のスタッフと同時に休みを取るのが難しいのが現状です。

田中:シフトの"あるある"ですね。同じ日に休みが取れない。

小西:だから、本土の薬剤師と仲良くしておいて、分からないことがあったときに聞けるようにしています。上京したら、手土産を持って挨拶に行っていましたね。分からない場合に「すみません、聞きます」と言えないと、小笠原ではやっていけませんから。

田中:離島でなくても、他職種や薬剤師同士でつながれない人はたくさんいますよね。僕は県の薬剤師会でもお仕事をさせてもらっているので、つながりたくてもつながれなくて悩んでいる人をフォローすることも、自分の役目だと思っています。

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