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人は見かけによる!?ーー記憶に残る紳士風の患者さん

2018年10月26日 08:00

人は見かけによる!?ーー記憶に残る紳士風の患者さん

協力 ◎ 福井繁雄

このシリーズは、

byouin ICON.png薬局での外来ケモ対応に関する病院とのやり取り
患者 アイコン.png薬局でのがん患者さんへの対応の2本立てでお届けします。
 

患者 アイコン.png
背筋がヒヤリ!

あれは、1年前の暑さが厳しい季節。涼しげな夏用のジャケットにロマンスグレーの頭髪、ストローハット姿の男性が薬局に来た。自分もあんな年の取り方をしてみたい......と、調剤室からその紳士を観察していた。

「ちょっと福井さん!鑑査お願いします!たまってますよ!」

後輩の厳しい指摘に我に返って調剤台を見ると、鑑査する薬が山積みになっていた。待ち合い室をよく見ると患者さんで混みあっている。暑さにボーっとしてしまったようだ。大阪の夏はしんどい...。

鑑査に取り掛かると急に目が覚めた。「この住所は......。」

冷静に、間違えないように。深呼吸して、慎重に薬歴を見る。患者さんの名前は山口さん。十二指腸がんで治療中の60歳だ。1ヵ月前から、外科からウルソ®、マグラックス®が処方されている。つい2日前にも同じ処方内容で調剤したばかりだ。しかし、その日の処方は、外科からフェロミア®14日分である。がんの病巣付近からの出血による貧血だろうか。マグラックス®が胃内のpHを上昇させるから服用時間をずらすように言わなきゃな......。

緊張の面持ちで服薬指導に向かうと、山口さんは、先ほどの紳士だった。

僕:こんにちは。今日はフェロミア®という貧血に対するお薬が出ています。2日前にお渡ししたマグラックス®というお薬と、このフェロミア®とは飲み合わせが悪いので、時間をずらして飲む必要があります。ウルソ®とフェロミア®を飲んでから、2時間空けてマグラックス®を飲んでくださいね。

山口さん:ウルソ®、フェロミア®を飲んで2時間空けてマグラックス®ですね。わかりました。フェロミア®っていう薬が出たのは、がんの手術と関係してるんでしょうか?ちょっと先生に伺うことができなかったもので。

僕:そうですね。おそらく,腸管などで出血が続いていて貧血気味なんだろうと思います。

山口さん:なるほど。そういうことですか。ありがとうございました。

住所欄を見て身構えた自分が恥ずかしくなるくらい、山口さんは見た目通りの紳士だった。

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その2日後。山口さんが処方せんを持って、また薬局に来た。

僕:山口さんお待たせしました。今日はウルソ®が出ていますね。どうされましたか?

山口さん:いやぁ、ウルソ®をなくしてしまって。もう一度お薬を出してもらったんです。昨日外出先に持っていったら忘れてしまったみたいで。ウルソ®以外の薬は昼ごはん食べた後すぐに飲んだんですけどね。

僕:そうでしたか...。

あれ?昨日はウルソ以外の薬を昼食直後に飲んだ?ってことは、フェロミア®とマグラックス®を同時に飲んだってことか?ついこの間、フェロミア®とマグラックス®の飲み合わせが悪いから時間を空けてって説明したよな。いや、言った・言わないになると危険だぞ......。

取り繕うために視線をずらすと、山口さんが着ているパリッとした半そでシャツの袖口に目がとまった。やっぱり!!立派に彫られた龍が上腕を覆っている。

こりゃマズイぞ。紳士だけどマズイ。心臓はバクバク、手にはイヤな汗。気づかれないように深呼吸をして自分を落ち着かせた。怒鳴られる覚悟を決めて......。

僕:ウルソ®をなくされたそうですが、昨日はフェロミア®とマグラックス®を一緒に飲みましたか?フェロミア®とマグラックス®は飲み合わせが悪いので、別々に飲んでいただきたいんです。フェロミア®とウルソ®は一緒に食後に、それから2時間空けてマグラックス®を飲んでくださいね。

押し黙る山口さん。僕は身を固くした。

山口さん:......そうでしたか。フェロミア®とマグラックス®を別々に飲まないといけないんでしたっけ。間違えて一緒に飲んでしまいましたが、大丈夫でしょうか?

僕:薬の効果が出にくくなるだけなので、特に心配はいりません。今日からはフェロミア®とウルソ®、その2時間後にマグラックス®を飲んでくださいね。お大事に。

山口さんの背中を見送りながら一気に脱力した。ふぅー、なんとか怒鳴られずに済んだ。

 

その後も、山口さんは薬局に来てくれている。僕やスタッフを信頼してくれているようで、いろいろと話してくれる。胆嚢にがんが浸潤していること、今はケモをするかどうか経過観察中であること......。山口さんの信頼を裏切らないように、いつでもきちんと対応できるようにしなくちゃな。

【福井繁雄氏プロフィール】

薬学部卒業後、透析、CKD、ガン専門の薬局に13年勤務し、現在は在宅医療に関わっている。学生時代から行ってきた家族(特に祖母)のお薬管理を通じて、残薬管理に疑問を持ったことが、在宅医療に関わるようになった理由。これまでの経験を他の薬剤師にも生かしてもらいたいと、全国での研修会を月一回、行っている。自身は、生後3週間でアトピー性皮膚炎を発症し、リバウンドも経験。アトピー罹患者としての講演も行っている。

【研修会】

日本薬剤師研修センター認定の研修を月1回開催しています。
開催スケジュール:日本薬剤師研修センター受講シール2単位取得研修会(LIFE HAPPY WELL)


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