新規登録

"日和見"診療法で薬剤耐性を減少

2018年10月30日 11:00

 抗菌薬の不適切な使用による薬剤耐性(AMR)の問題が世界的に深刻化している。この問題を放置すると2050年には年間1,000万人が死亡し、がんによる死亡をはるかに超えるとの推計もある。国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター主任研究員の日馬由貴氏は、日本で使用される抗菌薬の9割以上が外来で処方されている点を指摘。クリニックにおける適正な抗菌薬処方の工夫として、患者を数日間観察し、悪化した段階で処方する"日和見"診療法を第32回日本臨床内科医学会(9月16~17日)で提唱した。

21800_face[1].jpg

この記事のポイント

  • ●薬剤耐性の問題が深刻化している。この問題を放置すると2050年には年間1,000万人が死亡すると推計されている。
  • ●日本で使用される抗菌薬の9割以上が外来で処方されている。
  • ●クリニックにおける適正な抗菌薬処方の工夫として、患者を数日間観察して悪化した段階で処方する方法が提唱された。

原因ではなく症状で分ける

 かぜをひいたと訴えて受診した患者に対する安易な抗菌薬投与は避けるべきと分かっていても処方してしまう背景には、ウイルス感染か細菌感染かは検査をしてみなければ分からず、自院で行える検査も限られるなどの問題がある。

 一般市民を対象としたインターネット調査では「抗生物質はウイルスをやっつける」「かぜやインフルセンザに抗生物質は効果的だ」を「正しい」とする回答が4割を超えた(図1)。正しい知識を持っていない一般市民は多く、患者が抗菌薬の処方を希望した場合、それに応じてしまう医師も少なくない実態が浮かび上がった。

図1. 一般市民を対象としたインターネット調査

21800_fig1[1].png

(厚生労働科学研究班「国民の薬剤耐性に関する意識についての研究」)

 そこで日馬氏は、抗菌薬を処方する/しないの二者択一ではなく、2~3日経過を観察して、悪化した場合に処方する"日和見"診療法を提唱する。英国などでは抗菌薬を処方した後に経過を見て、すぐに服用させず悪化した場合に服用させるDelayed Antibiotic Prescriptionが行われているが、日本は医療へのアクセスが良好なため、再診時に処方する方法にアレンジできる。

 同氏は「様子を見ましょうという言い方をすると、何もしてくれないと受け取られてしまう。抗菌薬を使わないよう説得するのではなく、具体的なデータを示して納得してもらい、悪くなったら2~3日後にまた来てくださいと伝えることが大切 」と述べた。

 安易に抗菌薬を使用しない方がいいことを示す具体的なデータとして、「かぜによる細菌性合併症の発症を1人防ぐには4,000人以上に抗菌薬投与をしなくてはならない」「かぜに抗菌薬を処方して副作用が起こる可能性は9人に1人」-などを挙げた。

 厚生労働省が昨年(2017年)9月にダイジェスト版を発表した「抗微生物薬適正使用の手引き」によると、急性気道感染症の診断および治療の手順では、細菌かウイルスかの原因ではなく、症状によって治療方針を考えるアルゴリズムが示されている(図2)。

図2. 急性気道感染症の診断および治療の手順

21800_fig2[1].png

(厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き」)

「AMRは重症患者を扱う病院の問題というイメージをもたれがちだが、経口抗菌薬の96%が外来で処方されている。クリニックの外来でも十分に耐性菌を意識していく必要がある」と強調した。

 なお、同センターでは抗菌薬の適正使用を普及させるために、一般市民向けのリーフレットなどの啓発ツールを作成している(図3)。

図3. 抗菌薬の正しい使い方を伝える啓発ツール

21800_fig3[1].png

(国立国際医療研究センター病院AMN臨床リファレンスセンター)

 同氏は「説明には時間がかかって大変だが、医師だけでなく、看護師、薬剤師など多職種で連携して行えばいい」とアドバイス。さらに「オゾン層破壊の問題も対策を取ることで回復してきた。現在、AMRによって世界では年間70万人が死亡している。このままなんの対策も講じなければ、2050年には1,000万人が死亡すると予想され、がんの死亡数を上回る可能性がある。抗菌薬が効かなくなる前に、皆で耐性菌と戦っていこう」と協力を呼びかけた。

(Medical Tribune Webより転載)

トップに戻る