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成長するなら離島じゃない?―vol.3

小笠原・種子島ひとり薬剤師対談

2018年11月05日 10:25

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 離島の、しかも薬局に薬剤師が1人という状況で、熱い仕事に取り組んでいる方がいます。今年(2018年)5月までPharma Tribuneで連載『Ph.リトー1人薬剤師from小笠原』を執筆いただいた元・小笠原村診療所の小西良典さんと、種子島にあるのぞみ薬局公立病院前店の田中孝明さんです。

 離島の一人薬剤師に、島や医療体制、薬剤師の在り方などについて大いに語っていただく小笠原・種子島ひとり薬剤師対談シリーズ。最終回は、薬剤師の姿や医療体制について、思いのたけをぶつけていただきました。

【Profile】
■小西良典さん
1980年大阪府生まれ。大学薬学部卒業後、理学部の大学院に進学。博士課程中退。ドラッグストアなどで働きながら全国を旅し、2013年8月~18年3月まで父島の小笠原村診療所に勤務。再び各地を旅し、11月より仙台近くの薬局で勤務中。

■田中孝明さん
1984年鹿児島県生まれ。大学卒業後、鹿児島市に本社があるとまと薬局グループに入社し、種子島でキャリアをスタート。2013年から、島内のグループ薬局・のぞみ薬局公立病院前店の薬局長に。座右の銘は「自分らしく」。

離島から医療体制に物申す

―薬剤師が1人しかいない現場で、お二人は患者さんや他の医療従事者からも頼りにされていると思います。一方で、医薬分業は限界だ、薬剤師はいらないという声もありますが、どうお考えですか?

田中:まず日本医師会が言っているのは、院外処方のことだと思っています。病院に薬剤師がいなくなったら、医師も看護師も仕事が増えて相当大変なはずです。でも、門前に処方箋を出すことが医薬分業じゃない。処方箋を出す人と、調剤する人が別々で、ダブルチェックで間違いをなくす。それをやめろとは、いっていないと思います。

小西:どの町に行っても薬局はやたらたくさんありますから、確かに一般の人から見たら「薬剤師、薬局がこんなにいるのか」といわれるのは分かる気はします。

田中:ある程度、集約化はするかもしれませんね。ただ、患者さんは薬を置いてあるのを知っているから、処方箋を持っていなくても薬局に来ますしね。胃が痛いとか、ムカデに噛まれたとか、やけどしたとか。ファーストエイドを薬局でやれば、ある程度医療費も抑えられます。

―地域に必要とされるかかりつけ薬局の姿ですね。

小西:薬剤師の意識の問題もあると思います。チーム医療とか最先端医療をやりたいという人は多いですけど、ファーストエイドと先端病院の中間を埋める層が必要です。しかも、その層は分厚くないといけません。

 もちろん、がんや抗生物質の認定薬剤師になるってすごいことでしょうけど、小笠原に来て活躍できるかといったら、それはまた別の話です。1人で何役もこなさなくてはいけないので、むしろ「あの人、薬のことだけしか知らない」と言われるかもしれない。だからそうした中間層の重要性を踏まえた体制づくりや薬学教育が進めば、離島や僻地を含めて、地域に必要とされるような薬剤師が増えると思います。

田中:2年ごとに、国が僻地の公立病院に薬剤師を派遣するようなシステムも必要かもしれませんね。2年なら頑張れるという人もいるかもしれないし......。市販薬に関して言えば、自分が今渡している薬で何とかなりそうか、どんな薬を勧めるといいかまたは受診しないといけないのか。そういうトレーニングが必要です。そして、そこまでできる薬剤師がより求められています。「病院に行ってください」で終わりだったら、薬局はいらないとなってしまう。

小西:最終的な店舗形態としては、調剤もやっているドラッグストアに集約していくのではないでしょうか。いろいろな薬、医療用品、介護用品があって、処方箋も受け付けてくれて、便利ですから。

―都市部だと、最初に薬局より病院に行く人が多く、薬局不要論につながっている気がします。

小西:今言ったように、患者さんと先端病院の間をつなぐ、中間層の薬剤師がいないですよね。薬剤師の中でも評価が低いと感じます。ドラッグストアでは働きたくないという人もいますし。

田中:OTCは結構面白いと思うんですけどね。だって、1,000円のかぜ薬で良くなれば、それで問題解決です。患者さんも、病院に行く時間はそんなにないですしね。金銭的にも時間的にも、相当大変です。「ファーストエイドはわれわれ薬局でやります」と言える方がいいと思います。

小西:患者さんが今飲んでいるOTCを医師や看護師に見せても、知らないことが多いですからね。診察室から、そのOTCと有効成分が同じ薬はどれか、相談を受けたりします。医師が知らないこと、薬剤師が貢献できることは、少なくないんです。

田中:あと、一包化の湿気問題というのもあります。種子島だと温度が35℃、湿度は80~90%にもなるので、薬が溶けたり、ぼろぼろになるんです。そういうときに硬度のある同効薬に変えてもらったり、どうしても変えられない場合はジップロックで何重にもくるんだりします。そういうことは、医師よりも薬剤師の方がよく知っていることが多いです。

 持参薬の鑑別もそうですね。例えば患者さんが一包化の薬を持ってきて、「なんの薬ですか?」と聞かれて分かるのは、多分僕たち薬剤師だけです。僕がやっている吸入薬(vol.2参照)もそうですが、薬の鑑別や一包化の対応も、ニッチだけど、いろいろな職種と連携できる分野です。薬剤師の得意分野が知られていたら、医師が処方するとき、あの人に聞こうとなりますよ。「どうしても一包化しなきゃいけない患者さんだけど、この薬できるか?」って。できなかったら「こっちはどうですか?」と提案できる。

小西:薬学部の授業でも、OTCの有効成分や一包化できる・できないとかを教えることは重要です。教育現場でも、もうちょっと力を入れていいと思います。

田中:これは実際に疑義照会した例なんですけど、陸上の競技会に出るような足の速い患者さんが来局したんです。咳止めが出ていたんですけど、「あれ?」と思って調べたら、ドーピングの禁止薬で、医師に連絡して薬を変えてもらいました。自分で言っちゃうけど、「いいことしてるじゃん、医薬分業正解じゃん(笑)」。そういう例はどの薬局でもあるはずだけど、発信しないから医薬分業の意味が伝わらないんだと思います。

180722_3.jpg集落が一望できる父島・旭山からの風景。小笠原村診療所は画面中央やや右、山の斜面がむき出しになっているところ(小西さん撮影)

薬剤師よ、自信を抱け

―以前、医師と薬剤師にアンケートを取ったら、薬剤師は「医師が薬のことを分かっていると思う」という答えが多かったんです。だけど、よく知っていると言う医師は多くなかった。だから、もっと自分の知識に自信を持っていいのにと感じました。

田中:昨日参加した吸入指導の講習会でも、職種ごとに他職種に望むことを答えてもらったら、医師や看護師は「薬のことは、薬剤師にもっと担ってほしい」と言っていました。でも薬剤師には、「知っていて処方したと言われたらどうしよう、そんなこと言われたくない」という心理が働いている。知っていたっていいじゃないですか。「あ、知ってましたか」で。

―他職種と連携して自分の知識を伝えていくことも重要かと思います。

小西:僕がいた診療所は、診療所全体で本当に1つのチームでした。スタッフが全員で30人ちょっとしかいないので、誰が何をやっているか見える。分からなかったらその場で「ちょっとあの人に聞きに行ってくる」って言って、2分で戻ってくることができました(笑)。患者さんにとってもいいですよね。状況が分かりますし、患者さんもスタッフと顔見知りだから、何かとやりやすいですよね。

田中:やっぱり同じ人に薬をもらった方が安心だから通い続けていたり、相談しやすいみたいです。

―お二人が実践されているファーストエイドの対応や他職種との連携、患者さんとの距離感を伺って、かかりつけ薬局の1つの形だと感じました。

田中:制度化しないと全員が動かないということもありますけど、なかなか難しいです。でも、僕としては自然にずっとやってきたことです。ずっとやってきたことに対して「今度から僕に相談するときは余分にお金がかかります」なんて言えないじゃないですか。この前友人と飲んでいて「情熱だけでは飯は食えない。でも情熱がないと医療はできない」って熱く語りましたけど(笑)。

―目指すべき医療の形ではありますが、患者さんの負担になる部分はありますよね。制度をつくる議論の段階から薬剤師も関わって、自分たちがこういう方向に持っていこうと主張する必要があると思います。

小西:患者さんのための薬局にしたいのか、負担をかけたいのか、制度としての薬局・薬剤師の方向性がよく分からないですよね。だから「いらないんじゃないか」という議論が出でくる。

田中:どういう議論がどこで行われているか、末端の僕たちには分からない。そういうことも、僕らは改善しなくちゃいけないと思います。

180722_4.jpg種子島の朝日。手前に写っているのは朝日を見ながらコーヒーを飲む田中さんの友人(田中さん撮影)

薬剤師として、いろいろなことにチャレンジしたい

―たくさんお話を伺いましたが、今後、薬剤師として取り組んでみたいことはありますか?

田中:僕はチャンスがあれば海外で働くことにも挑戦してみたいし、専門薬剤師の資格も取りたいし、いろいろチャレンジしたいです。最終的にどういうポジションに就くかは、チャレンジの延長線上にあるのかなって思います。やりたいことがあり過ぎて、明確にこれとはまだいえません。ただ、種子島はすごく好きなんですよね。

小西:OTCが軽んじられているので、大事だといっていきたいです。あと、現場に出ないと知識や経験を積めないので、薬剤師として働き続ける限りはずっと現場に出たいと思っています。僻地や離島で働くのは、知識・経験を積める状況に一番出合いやすいんですよね。ただ、薬剤師以外にも、やりたいことはいろいろあるんですけど。

―いろいろチャレンジしてみたいという点で、お二人は似ていますね。

田中:そういう人は、離島が向いているんじゃないですかね。毎日同じことをしているのがつまらない、という人が多い気がします。プライベートでも、都会よりできる遊びは少ないので、自分で遊びをつくるというか。

小西:その通りですね。それで3カ月ぐらい経って要領がつかめてきたら、好き勝手できるんですよ。1人だし(笑)。半年もたてば患者さんのことも分かってきて、楽しくなってくるし、1年もたつとだいたいなんでもできるようになっています。

180722_5.jpg秘めた情熱を語ってくれた小西さん(右)と、白熱してきて上着を脱いだ田中さん(左)。当初1時間の予定だった対談は、2時間に及びました。ありがとうございました

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