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「この薬は高いから飲むのをやめようと思っている」

対話によるmedication reviewから、より良い処方提案へ

2018年11月20日 10:00

カナダで働く薬剤師 青山慎平

葉っぱのアイコン (1).png「この薬は高いから、飲むのをやめようと思っている」

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 私の勤務先はカナダの田舎、Fraser Lakeにあります。ここは、ショッピングセンターどころかスターバックスもない小さな村で、町には個人経営のレストランが2つか3つあるぐらい。なぜだかサンドイッチ店のサブウェイが、村で唯一のチェーン店として看板を光らせています。

 薬局は少し前に1店舗潰れてしまったので、現在村にあるのは、私の勤務先であるFraser Lake Medicine Center薬局のみです。別の薬局を探そうと思ったら、50kmほど先まで車を走らせなければなりません。地元密着型の営業スタイルで、スタッフとお客さんは、互いによく知る仲。そんな、住民同士の繋がりの強いコミュニティに、「一緒に働いてみないか?」と上司のジョージに連れてこられた私。村に暮らす唯一の日本人です(薬局長のジョージとの出会いについては前々回の話を参照)。

shashin1_canada20181109.tif.jpg晴れた日のFraser Lake。夏季にキャンプに訪れる方が多い。
主な産業は鉱山業と林業だが、鉱山は数年前に閉まり、
林業は今年の夏の山火事によって影響を受けていることが予想される。
村は過疎化が進んでおり、薬局のほか、ベーカリーも閉まってしまった。

 カナダには、日本のかかりつけ薬剤師制度と似た、Medication Review Serviceというサービスがあります。このサービスでは、患者の薬物療法を最適化するために、薬剤師が患者と薬について話し合い、患者の現在の服用薬(OTCを含む)、その目的、用法用量や注意点、副作用の有無などを確認します(詳しくは、コチラの記事を参考)。

 ある日私は、糖尿病患者のMさんとこのMedication Reviewを行い、服用中の薬の見直しをしていました。Mさんは気さくな方で、普段から雑談を通したコミュニケーションを行っていました。しかし、薬についてはそこまで真面目に話したことがありませんでした。

患者: Mさん 60代男性
既往歴: 糖尿病(HbA1C 6.9%)、高血圧(122/70)
服用薬: メトホルミン5 00mg 1回1錠 1日3回 毎食後(1500mg/日)
    グリブリド 7.5mg 1回1錠 1日1回 朝食後
    シタグリプチン 100mg 1回1錠 1日1回 朝食後
    カンデサルタン 8mg 1回1錠 1日1回 朝食後

私:Mさん、今日はMさんの服用している薬について見直していきますね。まず始めに今、治療中の病気を教えてもらえますか

Mさん:糖尿病と血圧だね

:そうですね。では、糖尿病の薬についてですが、どんな薬を飲んでいるか覚えていますか

Mさん:白くて大きいやつだな、あと他にも2つ飲んでいるな。この薬は値段が高いんだよな

:白いのはメトホルミンという薬ですね。残りの2つはグリブリドとシタグリプチンですね。特にシタグリプチンは保険適応がない1から全額負担...。高いですよね

Mさん:それだよ。良い薬なのはわかっているのだが、高くて飲むのをやめようかか迷っているんだ

:そうですね。どうしましょうか・・・

 Mさんは対話を通して、現在の薬物療法についていろいろと話を聞かせてくれました。その結果、「血糖コントロールは落ち着いているが、薬の効果によってコントロールできているということをMさんは理解しおらず、シタグリプチンの服用を勝手に中止しようとしている2という問題点を発見することができました。

この問題点を解決するためにどうしたら良いでしょうか?

「ちょっと待っててくださいね」

 Mさんには、その場でしばしお待ちいただき、ジョージに相談してみました。

※1カナダでは一部の費用対コストの良い薬のみが保険適応となっている

※2カナダでは、患者の希望で処方を中止することが可能。医師が処方箋に記載した範囲内であれば、患者は好きな薬を好きなときに受け取ることができる

shashin2_canada20181109.jpg家畜の飼料にする飼葉がいたるところで作られている

葉っぱのアイコン (1).pngフォーミュラリーを活用して良い治療方法を医師に提案できた

ジョージ:ヘイ、シンペイ、どうしたんだい?

:Mさんのシタグリプチンだけど、この薬のコストを下げる方法はないかな?

ジョージ一度、カナダのフォーミュラリーを見てみたらどうだ?同じ系統でカバーされる薬もあるはずだ。サキサグリプチン、なんてどうだろう?

 フォーミュラリーには各薬剤の保険適応の有無が記載されています。これが、ブリティッシュコロンビア州のフォーミュラリーです(表)

table_canada20181109.tif.jpg(表)ブリティッシュコロンビア州のフォーミュラリーの一部

 シタグリプチンやアログリプチンはNon Benefit (保険適応外)である一方、より費用対効果の面で優れていると評価されたサキサグリプチンやリナグリプチンは、医師によるSpecial Authority Form※3の提出がある場合に限ってBenefit(保険適応)となります。結局、フォーミュラリーを参考に医師に提案した結果、サキサグリプチン5mg 1回1錠 1日1回朝食後に変更することになりました。

 1週間後にMさんが薬局に顔を出してくれた時、サキサグリプチンに変更してからどうか聞いてみました。Mさんは特に消化器系の副作用もなく、正しく薬を服用できているようでした。

※3  Special Authorizationは、通常は保険適応外である薬剤が、特別な条件を満たした場合に保険適応になる制度。例えば、今回のサキサグリプチンのケースであれば、1) NPH(中間型インスリン)が効果不十分 or 適応とならない 2) メトホルミン を耐用可能な最大量使った 3) SU剤を耐用可能な最大量使った、の3つを全て満たした状態で、医師が特定の書類(Special Authorization Form)を提出することで、保険適応される。どのDPP 4薬も基本的には保険適応外である。https://www2.gov.bc.ca/assets/gov/health/forms/5358fil.pdf

葉っぱのアイコン (1).png日本でこのケースをどういかすか?

 日本ではどの薬剤も基本保険適応になるので、今回紹介したような処方提案(フォーミュラリーを参考にした同クラスの薬剤への変更の提案)はあまり目にしないかもしれません。しかし、日本の医療保険制度においては、高価な薬剤の安易な使用が医療費を圧迫しているという事実があります。

 そこで、薬剤師が薬剤コスト意識を高く保ち、費用対効果の良い薬剤の使用を推進していくことは重要だと思われます。簡単ではありませんが、継続的な情報提供が、国全体における医療費の抑制につながっていくはずです。

 また、この事例のサキサグリプチンへの変更のように、新しく薬が処方された場合には、その後のアドヒアランス、副作用出現の有無、また、効果の評価(HbA1C)などのモニタリングは、薬剤師が中心になってできることの1つだと思います(関連記事:「投薬で何をすべきか困っていませんか?」)。

 普段、薬について何も言わない患者さんであっても、対話の時間を持つことで、患者の本音を引き出し、より望ましい治療法を提案することができるかもしれません。「薬のことで困っていることなどはありませんか?」と聞いてみてください。

【コラムコンセプト】

薬剤師を取り巻く環境は日本と海外で違う。しかし、やっていることは本質的には同じ。患者のために薬を調剤し、鑑査し、投薬 (服薬指導) する。そして、その薬物療法を評価し、医師や他の医療従事者とより良い治療方法を再考していくこと。カナダの薬剤師事情を紹介しながら、日本での業務に取り入れられる方法を考えるコラム。

【プロフィール】プロフィール写真.jpg

1986年生まれ。名城大学薬学部卒。日本の病院薬剤師、調剤薬局、ドラッグストアで勤務した後、カナダへ留学。スプラットショーカレッジの薬剤師アシスタントプログラムを介し、Loblow pharmacyでインターン研修。2015年ブリティッシュコロンビア大学(UBC) CP3コース終了後、2016年カナダ薬剤師免許の取得。

blog: SHAWN'S WORLD
Twitter:@shinshinskysky

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