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歯周病による生活習慣病のエビデンス続々

2018年11月27日 15:00

 歯周病が生活習慣病の発症に関与することは、疫学研究により示されてきた。近年、その機序が明らかになりつつある。11月8日の「いい歯の日」を記念して10月29日に行われたメディアセミナーでは、鶴見大学歯学部教授の花田信弘氏が登壇し「歯周病の実態と多疾患への影響」と題した講演を行った。歯周病菌であるPorphyromonas gingivalisP. gingivalis)が関わる生活習慣病の発症機序を解説し、生涯の健康維持には口腔のKeystone病原体となる歯周病菌P. gingivalisの感染防止と除菌が重要であると述べた。

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この記事のポイント

  • ◆咀嚼力の低下、口腔細菌による菌血症が関与
  • ◆口腔細菌による生活習慣病発症機序のエビデンス
  •  1. DNAメチル化異常→がん
  •  2. 動脈硬化→高血圧、脳血管疾患、心疾患
  •  3. 蛋白シトルリン化→関節リウマチ
  •  4. 炎症性物質の蓄積→早産・低体重児出産・NASH
  •  5. 腸内細菌への影響→潰瘍性大腸炎
  •  6. 認知障害→アルツハイマー型認知症
  • ◆Keystone病原体の感染防止と除菌が必要

咀嚼力の低下、口腔細菌による菌血症が関与

 歯周病が生活習慣病の発症に関与する機序として2つのルートが考えられている。1つが咀嚼力の低下による栄養低下、もう1つが口腔細菌による菌血症が原因となる他臓器での疾患発症である。後者の発症機序を明らかにするエビデンスが、近年、多く報告されている。花田氏は、口腔細菌が関与する主な生活習慣病として6つを挙げて、解説した。

1. DNAメチル化異常→がん

 がんを惹起するDNAのメチル化異常には、慢性炎症が関わる。歯周病は慢性炎症の1つであり、歯周病患者においては膵臓がんの発症リスクが高くなると報告されている1)。歯周病菌P. gingivalisの保菌者では非感染者の1.6倍、同じく歯周病菌Aggregatibacter actinomycetemcomitansA. actinomycetemcomitans)の保菌者においては2.2倍であったという2)

1)Ann Oncol(2017; 28: 985-995)
2)Gut(2018; 67: 120-127)

2. 動脈硬化→高血圧、脳血管疾患、心疾患

 P. gingivalisが動脈硬化を導くことが明らかになっているP. gingivalisの刺激により血管内皮で活性化した単球はマクロファージへと変換した後、酸化LDLを取り込んで泡沫細胞となりプラークを形成する3)

 さらに、虫歯菌のStreptococcus mutansS. mutans)も動脈硬化への関与が示唆されている。頸動脈狭窄や大動脈瘤を有する13例を対象に、歯肉縁下プラーク、唾液およびアテロームプラークの30サンプルを調べたところ、全てのサンプルでS. mutansが検出された4)

3)J Dent Res( 2010; 89: 879-902)
4)Int J Cardiol(2014; 174: 710-712)

3. 蛋白シトルリン化→関節リウマチ

 歯周病菌は、自己免疫性疾患の発症にも関与する。とりわけP. gingivalisの関わりが明確になっているのは、関節リウマチである5)P. gingivalisの出す酵素が、アルギニンをシトルリンに変換させる。シトルリン化蛋白に対する自己抗体が生じ、全身に自己免疫疾患を引き起こすというわけである6,7)

5) Nat Rev Immunol (2015; 15: 30-44)
6) Sci Rep2018年12月1日オンライン版)
7) J Oral Microbiol2015年4月1日オンライン版)

4. 炎症性物質の蓄積→早産・低体重児出産・NASH

 歯周病患者では早産・低体重児出産のリスクが高まるといわれる。P. gingivalisが妊婦の羊水や胎盤、絨毛組織から検出されていることからも、その関係が示唆される8,9)。絨毛組織でP. gingivalisが増殖すると、TLR-2を介してインターロイキン(IL)-6およびIL-8の産生を誘導することが明らかにされており、これが早産や低体重児出産を引き起こすと考えられる9)

 歯周病菌は、毒性のある外膜小胞(Outer Membrace Vesicles; OMV)を放出する。その影響が疑われる疾患には非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が含まれる。両疾患の患者では、未発症の対照に比べて、P. gingivalisの感染率が有意に高いことが報告されている10)

8) Nat Rev Immunol2015; 15: 30-44
9)J Periodont Res2011; 46: 497-504
10)BMC Gastroenterology2012; 12: 16

5. 腸内細菌への影響→潰瘍性大腸炎

 潰瘍性大腸炎に関与するのは虫歯菌だ。潰瘍性大腸炎患者において、S. mutansの検出率が健康人に比べて有意に高値(オッズ比4.55、95%CI 1.87~11.09)であったと報告されている11)

11) Sci Rep(2012; 2: 332

6. 認知障害→アルツハイマー型認知症

 2013年、Pooleらは亡くなった患者の脳を調査した。アルツハイマー型認知症を罹患していた患者の脳からはP. gingivalisが検出されたが、非罹患者では認められなかった。以来、認知症とP. gingivalisの関連に関する検討が重ねられ、疫学的にはそれが証明された。

 近年では、機序の解析も進んでいる。マウスの感染実験により、P. gingivalisがアミロイドβ(Aβ)の脳への沈着を惹起し、炎症を誘発することが示された。これにより認知障害の増強をもたらしている可能性があるという12)。さらに分子レベルの研究で、歯周病菌の出す組織破壊酵素が脳内ミクログリア活性化の引き金となっていることが示された13)

12) NPJ Aging Mech Dis(2017; 3: 15
13)Sci Rep(2017年9月18日オンライン版)

Keystone病原体の感染防止と除菌が必要

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 口腔細菌のうち、他臓器における疾患発症への関わりが示されたのは、P. gingivalisS. mutansといった少数の細菌である。そうした少数の細菌が、「Keystone病原体となり多数の細菌叢へ影響を与えているのではないか」と花田氏は指摘する。Keystone病原体仮説は2012年にHajishengallisらが提唱したもの14)。病原体となる細菌そのものは増えずに、周りの菌の増殖を誘発して病気を発症させるという考えだ。

 同氏は、生涯にわたって健康を維持するためには、Keystone病原体となる細菌の感染防止と除菌が重要であると主張。「虫歯菌や歯周病菌の除菌は、健康な歯を残すだけでなく、全身的な健康を保持していく上でも重要である。歯周病対策のためのブラッシングやその他の有効な手段を取ることが必要だ」と訴えた。

14) Nature Reviews Microbiology(2012; 10: 717-725

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(Medical Tribune Webより転載)

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